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ニコルの木槌
ニコルの木槌
ここはとある大きな街である。
くたびれた冒険者を良心的に迎えてくれる宿屋がある。
時に泣き、時に笑う。いつでも活気があって騒がしい酒場がある。
旅のお供に忘れてはいけない活力を回復する為の薬を売ってくれる道具屋や
冒険者の頼りになる相棒となる武器や防具を揃えている武器屋と防具屋がある。
気になるあの子に振り向いて欲しい人がこぞってお世話になるヘアサロン。
腹が減っては戦は出来ぬ。そんな時の為の食事処がある。
その他にもこの街には魅力の溢れる店や場所、風景が広がっている。
街に日が射して、青年も寝ぼけ眼を擦りながら欠伸をして出てくる。
銀髪の短い髪を乱暴にガシガシと掻き、郵便ポストに捻じ込まれた新聞を取ると
店先に引っかかっている「close」と汚い字で書かれた看板をひっくり返した。
街の南側。端っこの端っこに彼の店
「ベニーズ・ガレージ」はポツンと建っていた。
この蔦だらけの小さい店。「ベニーズ・ガレージ」が何の店なのか…?
そんな事を聞くと彼は「見たらわかるだろう?」と適当に作ったであろう看板を親指で指して得意気に胸を張るだろう。
「そう。ベニーズ・ガレージさ」と。
「わかんないよ。」
「馬鹿な。この俺の溢れ出るキングなセンスが分からんのか!」
「そもそも、キングとか言ってるやつは、もっとオーラをしまってるもんなんじゃないの?」
「修行が足りないなリン。本物のキングとは隠しててもそのオーラが溢れてしまうもんなんだぜ。どこから?
そう内なる衝動!パッションからな!」
「なるほど!言われてみればそうかも!」
何度も繰り返されたリンと銀髪の青年・ベニーによる茶番である。
薄汚れたシャツに赤黒いオシャレネクタイの彼もまた彼女ら二人と同じく
『大帝国妖精図書館ネモフィラ』のメンバーである。
といっても二人のように飛んだり跳ねたり刺したり切り裂いたりすることはあまりない。
悪魔で名前だけみたいな感じだ。
そんな彼はリンの幼馴染であり、それと同時に二人と同じアカデミーの卒業生でもある。
ベニーが二人よりも一個上なのに留年してして同級生になってしまったのは頭が悪いからではなく
強いサボり癖が災いしたらしいが、さてこういう人間は、尻に火が付かないとなかなか本気になれない。
そこで登場したマツバ教諭の拳骨と雷がなければ、
もっと留年していただろう…。
リンとミナギは本日ベニーの店に来ていた。
外装も内装も物で溢れている。
「ベニーズ・ガレージ」はそもそもベニーが自分の趣味で始めた工房であったが
買取サービスのような事をし始めた時から、気が付いたら雑貨屋のような有様になっていた。
「また派手に使い込んだな。作り手からすれば嬉しい事だけど……。
まぁ、そろそろオーバーホールした方がいいかもとは思ってたさ。」
リンから「スーパーとちおちめちゃん3号」を受け取り、ゴーグルでそれを眺めた。
「スーパーとちおとめちゃん3号」はベニーが作ったものである。
三人がアカデミーに通っていた時に、リンが使っていたヨーヨーを勝手に魔改造をしたのである。
そこから改造に改造を重ねて今に至る。
因みにベニーが使う片手剣もまた魔改造で作られた武器だが、この業物の披露は滅多に見られない。
「オーバーホールって時間かかるの?」
「お前の武器って特殊だからな…まぁ、俺ならそんな掛からねぇよ。」
「ところでベニー君。今日は差し入れもあるの。はい、これ。」
ミナギはカバンの中から臙脂色の包の箱を取り出した。
白い帯が巻かれていて、そこには朱色の絵が描かれていた。
「お前ら東方集落に行ってきたのか。誘えよ。」
中身を開けると東方の国をイメージした深緑の饅頭が入っていた。
美味しそうに思ったのだろう。リンもそれに手を出そうとしてミナギに叩かれる。
それを見たベニーは適当にグラスを三つ用意してポットからお茶を注いで勧めてあげた。
「ごめんね。今度また一緒に行こう。」
「ベニー知ってる?あそこって温泉があるんだよ?」
「知ってるよ。夜に骨酒が出るところだろ?有名な話だ。旨いよな!」
リンはそれを聞き、悔しい顔を浮かべる。
鬼の首を取ろうとして、しくじったという具合だ。
「お前が知ってて俺が知らないわけないだろう?」
10年早いぜ。とベニーは笑う。
「お前も新聞でも読んでアンテナ張っとけよ。
たまに『俺達』の事も載ってたりするから面白いぞ。」
「『俺達』って、ベニーそんなに動いて無くない?」
「舐めんな。」
受け取った新聞には、細かな字がぎっしり詰められていた。
読書はするものの、リンからすれば興味がないと同じ活字でもそれは暴力にも感じてしまうようだ。
本日の新聞の内容は
「蒸気機関バイク!期待の新人!」や「大海原に黒い影現る!」といった具合に貼りだされている。
他にも「ストーカー被害続出」「行方不明」「新種の魔物」と小さく載っている。
「大海原に黒い影現る!って言うのは気になる。少し不思議って感じでさ。」
「これ多分、リンの考えてるのとは違うと思うわよ?夏にある普通のイベントの告知とかでしょ。」
それを聞き急に熱が冷めたのようにリンは生返事を返す。
「他はロクな記事が書かれてないわね。」
「まぁ、この街も治安がいい方じゃないからな。」
「確かに…」
「おい、なんで私の方を見るのか、その辺り詳しく聞こうじゃねぇか??」
この街は大きな大きな街である。
多種族で賑わい、目移りする程に沢山の店があり、目が回る程に沢山の見どころがある。
そして、色んな理由で有名な街でもある。
美しい場所もあれば、醜い場所もある。
その理は対となるものだ。
ただし、場合によっては醜い物の上にさらに醜い物で押しつぶす時がある。
「やりました!セーラー女子!大暴れ!」
以前、そこに居たチンピラに対して嵐の如く
過剰防衛を働いた時に撮られた写真が、新聞の端の方に載っていた。
その写真は白目を向いて倒れているチンピラと散らかし放題になった裏路地の惨状と
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