勇者パーティーを追放されたら、魔王の娘と出会いました。

kkk

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第3話 娘さん貰いますね。

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 ゾロディーンはアンリと自身の間に突然現れた男を睨みつけた。魔王であるゾロディーンは人間達の前に現れるだけで呼吸困難や意識を奪う事ができる。
 だが、目の前に現れた男は平然とアンリに話しかけていた。

 「お前はバカか!早く逃げろ、お前なんか一瞬で・・・」
 「バカなのはアンリさんですよ。あんな寂しそうな顔しといてよくそんなこと言えますね?」

 ゾロディーンに背を向け、男はアンリに向かいながら話しかけた。
 男はアンリの姿を見た。初めて出会ったあの森の時と同じで彼女は傷だらけでボロボロだった。おまけに額からは血を流していた。

 「やっぱり、初めから勝てないと分かって向かっていったんですね」
 「い、いいから、早く逃げろ!」
 「何言ってるんですか?出来る限りで手助けするって言ったでしょ」

 正直、殺し合いの戦いなんてもう二度としたくない。それに相手は魔王だ勝ち目だってないムリゲーだ。そんな事は分かっている筈なのに、脳裏に彼女の寂しげな表情が離れてはくれない。

 「ならもうやるしかないだろ」

 何故だから自分でも分からなかった。だが、彼女には笑顔でいて欲しいと思った。それは決して恋をしたからだとか、そんなものではない。

 これは例えるなら憧れだ。

 俺は今までずっと周りの言いなりに動いてきた。
 だが、彼女は違う。自分を意思を貫くために同族から抜け出し、魔王を敵に回しても進んで行った。それがどれだけ勇気のいる行為なの俺には理解できない。
 だからこそ、俺は彼女のあんな顔は見たくない。

 次の瞬間、ゾロディーンやアンリは男の雰囲気が変わった事を感じ取った。
 そして立ち上がった男はゾロディーンまでゆっくりと歩き出した。

 「この男・・・」

 ゾロディーンは最大の警戒心を男に向けた。
 雰囲気が変わったからではない。今、この男は恐怖していないのだ。いや、それどころかこの男は何も考えてはいない。
 人間に限らず、どんな種族であっても感情は存在する。確かに欠如している者達もいる、ただ完全に何も感じないなんて事はありえない。

 「貴方は何で娘を信じてやらないんですか?」
 「魔族と人間は相容れない。いつか必ずアンリは傷付く事になる」

 今もそうだ。
 この男はただ淡々と怒りも悲しみも感じる事なく、話している。
 感情がもとよりなかったのか、感情を意図的に消す事が可能なのか分からないがそれはどんな生物であっても不可能な異常だ。

 「じゃあ彼女を傷つけない人がいればいいって事ですね?お父様?」
 「貴様ッ!」

 男はゾロディーンの目の前に立ち、顔を見合わせた。ゾロディーンにとって人間にここまで近づかれたのは初めての事だった。

 「貴様、何を考えている・・・」

 数多の戦場を駆け、数多の敵を屠ってきたゾロディーンにとっても、今対峙しているこの男の行動は異常に映った。
 拳一つ分だけ空いた距離、この距離ならばこの男が何をしても直ぐに対処できる。そんな事はこの男にだって理解できる筈だ。

 「愚かな人間。そんなに死にたいのか」

 そんな問いに対しても男は何も答えなかった。それどころかこの男は今
 まるで何か他の事をやっているかの様だった。ゾロディーンは手のひらに魔力を溜め男に放とうとした。

 「俺が勝ったらアンリさんを貰いますね」
 「ぬぅッ!!?」

 その言葉がゾロディーンにほんの一瞬だけ隙を与えた。
 そして男は静かに目を開け、その隙をついてゾロディーンの心臓を拳で殴り抉った。
 鎧は砕け、魔族であるゾロディーンの強靭な肉体は皮膚や肉は引き千切られ、骨は粉々になり、心臓は破裂した。
 
 「そんな・・・ありえ、ない・・・お父様が・・・?」

 アンリの目の前には異常な光景が映し出された。
 魔族、いや魔王である父は私や他の魔王に比べても魔術や魔法の見聞も実力も全てが圧倒的だった。
 それこそ人間の拳など鎧に触れただけで呪われ灰になって消え去る。いやそもそも見ただけで、その存在感に圧倒され街の奴らの様になる。
 だが、あいつは灰になるどころかそれを無視して殴った。そしてあろう事か心臓を抉った。

 「ぐっ、痛ッ!?」

 ゾロディーンは膝をつき、自身の胸を押さえた。心臓から流れ出る血は止まらず、意識も失われかけていた。ゾロディーンにとっても初めての経験であった。

 「その開闢・天地の始まり・魔生まれし時・我が祖の生誕を今一度、" 原初の再誕げんしょのさいたん」

 ゾロディーンが唱えると胸の傷は再生し、立ち上がった。
 原初の再誕。これはゾロディーンにとっても奥の手だった。百年余りの魔力を溜め込んで初めて成立する魔法であり、一度使用すれば溜めて来た魔力は殆ど無くなってしまう。自身にこれを使わせた男をゾロディーンは睨みつけた。
 だが、睨みつけた先にいたのは地に倒れ伏している男の姿だった。

 「あの人間・・・愚かな、自身を顧みない一撃を放つとは、人間にとって、それは余りにも過ぎたるものだぞ」
 「?、ッ!お、おい!」

 アンリは余りの衝撃からしばらくの間、固まっていたが、父の声と共に意識が戻り、男が倒れている事に気がついて彼に走って駆け寄った。
 
 「おい!おい!起きろッ!!起きろッ!!!どうなっているんだ!?」
 「自滅だ」
 「お父様!?」
 「恐ろしい男だ。感情を意図的に消し、人間に備わっている恐怖という名のリミッターを解除し、自分が死ぬのも厭わない一撃を私に向かって放ったのだ」

 人間がこれを意図的に出来るようになる事など本来あり得ない。
 人間はかつて神が生み出した模造品だとする逸話がある。だが、余りにも神に近すぎた人という種はその力を制限され、大地に放り捨てられた。
 そして人類は長きに渡り進化を繰り返し、その度に制限された力を取り戻してきた。
 
 「だが、それでもその制限された本来の人という者達の力は完全に取り戻せてはいない」

 もし取り戻したのならば人間は魔族にとって、いや全種族にとって最悪の脅威となる。だからなのだろう。人間は他種族に蔑まれ、繁殖用や奴隷としても扱われる。
 逆もまた然り、人類は無意識の内に神の眷属である事を自覚し、他種族を蔑む。

 「それをこの男は自身の意思で使ったのだ。だが、それにその男そのものが耐えられなかった」

 男はの指先が静かに崩れ、黒い灰が風に舞った。だが、彼は既にそれすら感じることはなかった。

 「お父様、こやつを救う方法はないのですか!!」
 「無駄だ。我ら魔族でさえも侵すことは決してない、禁忌の領域に手をつけたのだ。しかもそれを人間の体でな」
 「何でッ!」

 何でそこまで魔族である私のためにこの男はやったのだろう。寂しそうな顔をしたから?一緒に住んでいたから?惚れたから?分からない。知りたい。
 この男が私の為にそこまでした理由が知りたい。

 「諦めろ。その男はもう時期死ぬ」

 お父様は恐らくこいつを生き返らせてはくれない。そもそも自分を回復させるのに大部分の魔力を用いた筈だ。私はまだ魔力はあるが自身は兎も角、人を生き返らせる事は出来ない。
 ならば残る方法は一つだった。

 「・・・此奴は命をかけて私を守ったということですか」
 「その通りだ」
 「ならば、その対価を私は払うべきだ」

 私は自身の二本あるツノの一本を掴み、迷う事なくへし折った。
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