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第15話 日常への回帰と、新たな興味の萌芽
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「忘れられた谷」の地下神殿での激戦から数週間が過ぎ、リコリスの町にはようやく平穏な日常が戻りつつあった。ギルドと衛兵隊による残党狩りや事後処理はまだ続いていたが、町を行き交う人々の表情からは、以前のような張り詰めた緊張感は消えていた。
フィーリアと、共に戦ったブレイブ・ハーツのメンバーたちは、今回の事件解決における最大の功労者として、ギルドマスターのドレイクから正式な表彰と、破格の報酬を受け取った。山と積まれた金貨銀貨の袋を前に、レオンやリリィは歓声を上げ、ティムも目を丸くしていたが、フィーリアは「わぁ……これでまた新しい素材がいっぱい買えるね」と呟き、使い道を考えているのか、少しだけ頬を緩ませただけだった。ギルド全体で行われた祝勝会のようなものにも、彼女は「そういうのは苦手だから」と早々に姿を消し、ガンツの工房で黙々と新しい道具の構想を練っていた。
「これでやっと、静かになる……といいんだけどね」
工房の窓から見える、活気を取り戻した町の景色を眺めながら、フィーリアは小さく息をついた。
大きな事件を共に乗り越えたことで、フィーリアとレオン、ティム、リリィの間には、以前とは質の違う、確かな信頼感が生まれていた。それは言葉にしなくても伝わる、戦友としての絆のようなものだった。
しかし、だからといって彼らが四六時中一緒にいるわけではない。フィーリアは相変わらず単独行動を好み、自分のペースで依頼を選び、興味の赴くままに行動する。ブレイブ・ハーツの三人もまた、フィーリアの実力を認め、尊敬しつつも、彼女に頼りきりになるのではなく、自分たちの力でさらなる高みを目指そうと、以前にも増して訓練や依頼に励んでいた。
ギルドで顔を合わせれば、「よう、フィーリア! 元気か?」「フィーリアちゃん、この前ドレイクさんがまた何か面倒なこと頼もうとしてたよー」などと軽口を叩き合い、時には情報交換をしたり、珍しい素材の入手先を教え合ったりする。そんな、付かず離れずの心地よい距離感が、今の彼らには丁度良かった。
フィーリアの日常の拠点の一つであるガンツの工房でも、以前と変わらない時間が流れていた。フィーリアは黙々と新しい道具の設計図を描いたり、金属を加工したりし、ガンツはそんな彼女の姿を、時折厳しいアドバイスを飛ばしながらも、どこか満足げに見守っている。
「フィーリアちゃん、また何か面白いもの作ってるの?」
ある日、工房を訪れたリリィが、フィーリアの手元を覗き込んで尋ねた。フィーリアが描いていたのは、何やら複雑な歯車とレンズを組み合わせた、小さな機械の設計図だった。
「うん、ちょっとね。新しい仕組みを思いついたんだ。遠くのものを、もっとはっきり見られるようにできないかなって」
「蛇の聖餐会」が残していった謎の黒い短剣や、解読が難航している古代語の文献は、ギルド本部や王国の専門機関へと送られ、さらなる調査が進められることになった。ドレイクは時折、フィーリアにその進捗状況を伝え、彼女の意見を求めることもあった。
「あの短剣の魔力……今まで感じたことのない種類のものだったよね。異世界の物質、あるいは古代の遺物……そんな可能性もあるみたいだ」
「古代語の文献は、どうやら何かの予言か、あるいは失われた魔法技術に関する記述らしいんだけど……解読にはまだ時間がかかりそうだよ」
フィーリアはそれらの話を聞きながら、以前「竜の寝床」の壁画で見た、神々や竜が戦う光景や、天から何かが降り注ぐ絵を思い出していた。あのオークたちの異常な凶暴化、黒い水晶の力、そしてアルカードが最後に口にした「大いなる目覚め」という言葉。それらが、彼女の頭の中で少しずつ繋がり始めていくのを感じていた。
彼女の興味は、もはや単に効率よく依頼をこなすことや、便利な道具を作ることだけには留まらなくなっていた。この世界の成り立ち、魔法という現象の根源的な原理、遥か昔に滅び去ったかもしれない古代文明の謎、そして「蛇の聖餐会」が追い求めるものの正体――それらに対する知的な好奇心が、彼女の中で静かに、しかし確実に育ち始めていたのだ。
もちろん、フィーリアの基本的なスタンスは変わらない。面倒事はできる限り避けたいし、人付き合いも得意ではない。大きな事件が一段落した今、彼女は再び自分のペースで簡単な依頼を選び、報酬を得てはガンツの工房に籠り、黙々と自分の好きなモノづくりに没頭する日常に戻っていた。
「相変わらず、この世界は面倒なことでいっぱいだね。でも……」
その日も、フィーリアは工房の片隅で、新しい道具の設計図と向き合っていた。それは、以前のように武器や戦闘用のガジェットではなく、古代遺跡の調査に役立ちそうな、精密な地質調査用のセンサーや、未知のエネルギーを観測するための小型の分析装置のようなものだった。
彼女の小さな手の中で、鉛筆がサラサラと羊皮紙の上を滑る。その瞳は、かつてバイクのエンジンを前にしていた時と同じように、真剣で、そしてどこか楽しげに輝いている。
世界には、まだ解き明かされるべき謎が満ち溢れている。そして、彼女の手には、それらの謎に挑むための知識と技術、そしてほんの少しの勇気があった。
「……面倒だけど、まあ、退屈はしないかな、この世界も」
フィーリアは独り言のようにそう呟くと、ふっと小さな笑みを浮かべた。その笑みは、この異世界で生き抜いていくという彼女の静かな決意と、これから待ち受けるであろう未知への期待に彩られているようだった。
彼女の物語は、ここで一旦の区切りを迎える。
しかし、銀髪碧眼の小さなクラフター、フィーリアの冒険と探求の日々は、これからもきっと続いていくのだろう。この広大で、謎に満ちた異世界で、彼女はこれからも自分らしく、効率的に、そして何よりも自由に生きていくに違いない。
フィーリアと、共に戦ったブレイブ・ハーツのメンバーたちは、今回の事件解決における最大の功労者として、ギルドマスターのドレイクから正式な表彰と、破格の報酬を受け取った。山と積まれた金貨銀貨の袋を前に、レオンやリリィは歓声を上げ、ティムも目を丸くしていたが、フィーリアは「わぁ……これでまた新しい素材がいっぱい買えるね」と呟き、使い道を考えているのか、少しだけ頬を緩ませただけだった。ギルド全体で行われた祝勝会のようなものにも、彼女は「そういうのは苦手だから」と早々に姿を消し、ガンツの工房で黙々と新しい道具の構想を練っていた。
「これでやっと、静かになる……といいんだけどね」
工房の窓から見える、活気を取り戻した町の景色を眺めながら、フィーリアは小さく息をついた。
大きな事件を共に乗り越えたことで、フィーリアとレオン、ティム、リリィの間には、以前とは質の違う、確かな信頼感が生まれていた。それは言葉にしなくても伝わる、戦友としての絆のようなものだった。
しかし、だからといって彼らが四六時中一緒にいるわけではない。フィーリアは相変わらず単独行動を好み、自分のペースで依頼を選び、興味の赴くままに行動する。ブレイブ・ハーツの三人もまた、フィーリアの実力を認め、尊敬しつつも、彼女に頼りきりになるのではなく、自分たちの力でさらなる高みを目指そうと、以前にも増して訓練や依頼に励んでいた。
ギルドで顔を合わせれば、「よう、フィーリア! 元気か?」「フィーリアちゃん、この前ドレイクさんがまた何か面倒なこと頼もうとしてたよー」などと軽口を叩き合い、時には情報交換をしたり、珍しい素材の入手先を教え合ったりする。そんな、付かず離れずの心地よい距離感が、今の彼らには丁度良かった。
フィーリアの日常の拠点の一つであるガンツの工房でも、以前と変わらない時間が流れていた。フィーリアは黙々と新しい道具の設計図を描いたり、金属を加工したりし、ガンツはそんな彼女の姿を、時折厳しいアドバイスを飛ばしながらも、どこか満足げに見守っている。
「フィーリアちゃん、また何か面白いもの作ってるの?」
ある日、工房を訪れたリリィが、フィーリアの手元を覗き込んで尋ねた。フィーリアが描いていたのは、何やら複雑な歯車とレンズを組み合わせた、小さな機械の設計図だった。
「うん、ちょっとね。新しい仕組みを思いついたんだ。遠くのものを、もっとはっきり見られるようにできないかなって」
「蛇の聖餐会」が残していった謎の黒い短剣や、解読が難航している古代語の文献は、ギルド本部や王国の専門機関へと送られ、さらなる調査が進められることになった。ドレイクは時折、フィーリアにその進捗状況を伝え、彼女の意見を求めることもあった。
「あの短剣の魔力……今まで感じたことのない種類のものだったよね。異世界の物質、あるいは古代の遺物……そんな可能性もあるみたいだ」
「古代語の文献は、どうやら何かの予言か、あるいは失われた魔法技術に関する記述らしいんだけど……解読にはまだ時間がかかりそうだよ」
フィーリアはそれらの話を聞きながら、以前「竜の寝床」の壁画で見た、神々や竜が戦う光景や、天から何かが降り注ぐ絵を思い出していた。あのオークたちの異常な凶暴化、黒い水晶の力、そしてアルカードが最後に口にした「大いなる目覚め」という言葉。それらが、彼女の頭の中で少しずつ繋がり始めていくのを感じていた。
彼女の興味は、もはや単に効率よく依頼をこなすことや、便利な道具を作ることだけには留まらなくなっていた。この世界の成り立ち、魔法という現象の根源的な原理、遥か昔に滅び去ったかもしれない古代文明の謎、そして「蛇の聖餐会」が追い求めるものの正体――それらに対する知的な好奇心が、彼女の中で静かに、しかし確実に育ち始めていたのだ。
もちろん、フィーリアの基本的なスタンスは変わらない。面倒事はできる限り避けたいし、人付き合いも得意ではない。大きな事件が一段落した今、彼女は再び自分のペースで簡単な依頼を選び、報酬を得てはガンツの工房に籠り、黙々と自分の好きなモノづくりに没頭する日常に戻っていた。
「相変わらず、この世界は面倒なことでいっぱいだね。でも……」
その日も、フィーリアは工房の片隅で、新しい道具の設計図と向き合っていた。それは、以前のように武器や戦闘用のガジェットではなく、古代遺跡の調査に役立ちそうな、精密な地質調査用のセンサーや、未知のエネルギーを観測するための小型の分析装置のようなものだった。
彼女の小さな手の中で、鉛筆がサラサラと羊皮紙の上を滑る。その瞳は、かつてバイクのエンジンを前にしていた時と同じように、真剣で、そしてどこか楽しげに輝いている。
世界には、まだ解き明かされるべき謎が満ち溢れている。そして、彼女の手には、それらの謎に挑むための知識と技術、そしてほんの少しの勇気があった。
「……面倒だけど、まあ、退屈はしないかな、この世界も」
フィーリアは独り言のようにそう呟くと、ふっと小さな笑みを浮かべた。その笑みは、この異世界で生き抜いていくという彼女の静かな決意と、これから待ち受けるであろう未知への期待に彩られているようだった。
彼女の物語は、ここで一旦の区切りを迎える。
しかし、銀髪碧眼の小さなクラフター、フィーリアの冒険と探求の日々は、これからもきっと続いていくのだろう。この広大で、謎に満ちた異世界で、彼女はこれからも自分らしく、効率的に、そして何よりも自由に生きていくに違いない。
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