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第四章 新出ちづると柳瀬川和彦の場合2
七 ◯新出 ちづる【 1月10日 午後9時45分 】
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数十分前。柳瀬川からの連絡を受け、ホテル付近にいると思われる檜山さんを探すため、私はその入口まで向かった。
そこには彼の言葉どおり。檜山さんが一年前と同じ、変わらぬ姿で立っていた。待ち望んでいた彼との再会。それはたったの数分間だっただろう。しかしその僅かな時を彼と共に過ごすことができただけで、私にとっては幸せだった。よもや、夢ではあるまい。私はなんて運が良いのだろうか。
そして現在。私の前方には、足早に去って行く檜山さんの姿がある。その大きな背中の動きは忙しなく、彼自身言っていたとおり、この後に何か用事があるようだ。表情からも、何か大事な要件であることは見て取れた。
まあ、そんなことは私が知る由も無いし、今はそこまで気にするようなことでは無い。重要なのは、来週までに愛彩に来店するよう、檜山さんに約束をさせたこと。その一点に尽きる。
笑みが零れる。こんな良いことが、新年早々訪れるなんて。やはり一年前、崇の家で彼と関係を持ったのは間違いじゃなかった。
(あの檜山さんが…まさか私の言うことに従うなんて)
私の言うことに対し渋々ながらも了承する、そんな彼の姿を見て私は更に考えた。もしかすると今回だけでは無く、これからもずっと、この先ずっと彼を思うがままにできるのでは無いだろうか。
我ながら下衆な考えだとは思う。しかし、今の今では単純に彼を脅迫しているだけ。それだけでは続かないし、彼の心はいつまでたっても開かない。ただしこれを続けていけば、いつか私に心を許す瞬間ができる。そこまでは繋げたい。
その場で振り返り、私は元来た道を歩き出した。ともかく私のお陰により、これで檜山さんはホテルの入口から去った。一応、柳瀬川からの依頼は達成したと言えようか。
彼と檜山さんがどんな関係か知らないが、どうやら彼は檜山さんとの接触を避けたいようだ。彼の計画の邪魔にならないよう、私としては最低限サポートするべきである。
とりあえず、私にできることはこれくらいか。やはり鷺沼を消す瞬間には立ち会いたいところではあるが、あれだけ来るなと強く言われたので、彼に全て任せることにした。今後の展開は、私が生み出すものではない。ここは、傍観者に徹するが得策である。
…よし。檜山さんがいなくなった旨について、彼にメッセージだけでも送っておこう。
「上手くやってよ本当に…」
歩きながら、呟いた。
そこには彼の言葉どおり。檜山さんが一年前と同じ、変わらぬ姿で立っていた。待ち望んでいた彼との再会。それはたったの数分間だっただろう。しかしその僅かな時を彼と共に過ごすことができただけで、私にとっては幸せだった。よもや、夢ではあるまい。私はなんて運が良いのだろうか。
そして現在。私の前方には、足早に去って行く檜山さんの姿がある。その大きな背中の動きは忙しなく、彼自身言っていたとおり、この後に何か用事があるようだ。表情からも、何か大事な要件であることは見て取れた。
まあ、そんなことは私が知る由も無いし、今はそこまで気にするようなことでは無い。重要なのは、来週までに愛彩に来店するよう、檜山さんに約束をさせたこと。その一点に尽きる。
笑みが零れる。こんな良いことが、新年早々訪れるなんて。やはり一年前、崇の家で彼と関係を持ったのは間違いじゃなかった。
(あの檜山さんが…まさか私の言うことに従うなんて)
私の言うことに対し渋々ながらも了承する、そんな彼の姿を見て私は更に考えた。もしかすると今回だけでは無く、これからもずっと、この先ずっと彼を思うがままにできるのでは無いだろうか。
我ながら下衆な考えだとは思う。しかし、今の今では単純に彼を脅迫しているだけ。それだけでは続かないし、彼の心はいつまでたっても開かない。ただしこれを続けていけば、いつか私に心を許す瞬間ができる。そこまでは繋げたい。
その場で振り返り、私は元来た道を歩き出した。ともかく私のお陰により、これで檜山さんはホテルの入口から去った。一応、柳瀬川からの依頼は達成したと言えようか。
彼と檜山さんがどんな関係か知らないが、どうやら彼は檜山さんとの接触を避けたいようだ。彼の計画の邪魔にならないよう、私としては最低限サポートするべきである。
とりあえず、私にできることはこれくらいか。やはり鷺沼を消す瞬間には立ち会いたいところではあるが、あれだけ来るなと強く言われたので、彼に全て任せることにした。今後の展開は、私が生み出すものではない。ここは、傍観者に徹するが得策である。
…よし。檜山さんがいなくなった旨について、彼にメッセージだけでも送っておこう。
「上手くやってよ本当に…」
歩きながら、呟いた。
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