侵入者 誰が彼らを殺したのか?

夜暇

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序章

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 人生は選択の連続である。
 ウィリアム・シェイクスピアの言葉であり、世界的に有名な名言でもある。
 人は生きていく中で、無意識のうちに、幾度となく選択をしている。それは、若月孝司がこうして、住人に無断で家に侵入していることもそう。この家に入る、入らないという選択肢を前に、前者を選んだのは、ほかならぬ若月本人の意思によるものであった。

 ——まさかその選択により、遺体を見つけることになるとは。誰が想像できようか。

 遺体は紛れもなく、この家に住む人間の一人だった。名前は藍田勝治。数年前まで、藍田製薬という薬品会社の、代表取締役を務めていた男だった。
 そのような大物が、死んでいる。加えて、それは明らかに他殺体だった。遺体の顎の下、両耳の付け根あたりには、致命傷と思える程に大きな切り傷があるからだ。自殺でそれを己の体につけるのは、難儀に思えた。
 恐る恐る、若月は遺体の手に触れる。わずかに温かいが、じきに冷たくなるだろう。
 しかしまあ、困ったことになった。
 遺体に温かさが残ることから、勝治が殺されたのは、つい先程のことかもしれない。もしもこの状況で、誰かに見つかろうものなら。自分が勝治を殺した犯人とみなされることは、確実だった。
 ただ、事実として若月は勝治を殺してはいなかった。彼を殺した者は、別にいる。若月は偶然、この場に居合わせただけなのである。
 想定外だ。若月は下唇を噛んだ。とんでもない展開に、思わず頭が痛くなる。
 腕時計を見た。午後八時を過ぎた。時間には限りがあった。彼がここに侵入をした目的は、他にある。その目的を達成するまで、誰にも見つかるわけにはいかないのである。
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