1 / 68
序章
しおりを挟む
人生は選択の連続である。
ウィリアム・シェイクスピアの言葉であり、世界的に有名な名言でもある。
人は生きていく中で、無意識のうちに、幾度となく選択をしている。それは、若月孝司がこうして、住人に無断で家に侵入していることもそう。この家に入る、入らないという選択肢を前に、前者を選んだのは、ほかならぬ若月本人の意思によるものであった。
——まさかその選択により、遺体を見つけることになるとは。誰が想像できようか。
遺体は紛れもなく、この家に住む人間の一人だった。名前は藍田勝治。数年前まで、藍田製薬という薬品会社の、代表取締役を務めていた男だった。
そのような大物が、死んでいる。加えて、それは明らかに他殺体だった。遺体の顎の下、両耳の付け根あたりには、致命傷と思える程に大きな切り傷があるからだ。自殺でそれを己の体につけるのは、難儀に思えた。
恐る恐る、若月は遺体の手に触れる。わずかに温かいが、じきに冷たくなるだろう。
しかしまあ、困ったことになった。
遺体に温かさが残ることから、勝治が殺されたのは、つい先程のことかもしれない。もしもこの状況で、誰かに見つかろうものなら。自分が勝治を殺した犯人とみなされることは、確実だった。
ただ、事実として若月は勝治を殺してはいなかった。彼を殺した者は、別にいる。若月は偶然、この場に居合わせただけなのである。
想定外だ。若月は下唇を噛んだ。とんでもない展開に、思わず頭が痛くなる。
腕時計を見た。午後八時を過ぎた。時間には限りがあった。彼がここに侵入をした目的は、他にある。その目的を達成するまで、誰にも見つかるわけにはいかないのである。
ウィリアム・シェイクスピアの言葉であり、世界的に有名な名言でもある。
人は生きていく中で、無意識のうちに、幾度となく選択をしている。それは、若月孝司がこうして、住人に無断で家に侵入していることもそう。この家に入る、入らないという選択肢を前に、前者を選んだのは、ほかならぬ若月本人の意思によるものであった。
——まさかその選択により、遺体を見つけることになるとは。誰が想像できようか。
遺体は紛れもなく、この家に住む人間の一人だった。名前は藍田勝治。数年前まで、藍田製薬という薬品会社の、代表取締役を務めていた男だった。
そのような大物が、死んでいる。加えて、それは明らかに他殺体だった。遺体の顎の下、両耳の付け根あたりには、致命傷と思える程に大きな切り傷があるからだ。自殺でそれを己の体につけるのは、難儀に思えた。
恐る恐る、若月は遺体の手に触れる。わずかに温かいが、じきに冷たくなるだろう。
しかしまあ、困ったことになった。
遺体に温かさが残ることから、勝治が殺されたのは、つい先程のことかもしれない。もしもこの状況で、誰かに見つかろうものなら。自分が勝治を殺した犯人とみなされることは、確実だった。
ただ、事実として若月は勝治を殺してはいなかった。彼を殺した者は、別にいる。若月は偶然、この場に居合わせただけなのである。
想定外だ。若月は下唇を噛んだ。とんでもない展開に、思わず頭が痛くなる。
腕時計を見た。午後八時を過ぎた。時間には限りがあった。彼がここに侵入をした目的は、他にある。その目的を達成するまで、誰にも見つかるわけにはいかないのである。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】結婚式の隣の席
山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。
ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。
「幸せになってやろう」
過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる