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第三章 思惑

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 心臓が体内で弾けたかのように跳ね回る。わなわなと震えつつ、スマートフォンに再度目を向ける。
 「satou.mina」。サトウミナ。その名前から、彼女の顔を頭に思い浮かべた。どうして彼女から連絡がくる?彼女は昨日、死んだはずだ。
 血の気の引いた、青白い死に顔。目や口からの血とも何とも言えない液体。排泄物の、嘔吐を誘うあの悪臭。思い出して、またもや吐きそうになる。冷たくなった指で、画面を下にスクロールしていく。
『しんじゃった』
 一文。数十行分の改行の後、続きが書かれている。
『あたし、しんじゃった』
「え…」
『しんじゃった。しぬつもりなんてなかったのに。
 あたし、ほんとうはいきていたかったのに』
 力が抜ける。
 どうして。
『しんだのは、あんたのせい』
 どうして私に、そんなことを言うのだ。
(私のせいじゃない)
 そうだ。私のせいではない。そもそも、死んだのは彼女自身の蒔いた種ではないか。そう、分かっている。誰であっても、そう言うに違いない。
 私は何も悪くない。私は、何もしていない。それは何度も自分に言い聞かせているというのに。
 どうしてこうも、心が揺れ動く?
「…」
 そこで私は一度目を閉じた。思わず取り乱したが、冷静に、もう一度考えてみろ。ミナは昨日死んだはず。この目で死ぬところをきちんと見たし、その場にいた全員で確認もした。あれは夢ではない。瞼を閉じても、あの凄惨な様を鮮明に思い出せる。
 それならば、どうして彼女は私に連絡することができる。
 瞼を開け、何度か瞬きをする。
 もしも、ミナが実は死んでいなかったとしたら?
 それならば今、このとおり。メッセージを送ることも簡単である。
 …ミナは死んだふりをしていたのか?
 そうなると、別の疑問が湧き出てくる。「何故?」という疑問が。何故、死んだフリをしなくてはならないのか。私以外の人間もいる中で、わざわざ人を騙すようなフリをしたというのか。
 そうか。
 彼女は気がついたのだ。
 私がしたことに。あのことに。だからこそ、気付かれないように、上手くあの場をやり過ごした。死人のフリをして——。
 いや。私は一人、首を横に振った。
 何を考えている?彼女が生きている?あり得ない。根拠は私自身の記憶。脳みそに刻まれているかのような、ミナの死に様。あれが演技だとすれば、それこそ売れっ子の役者並みの演技力。しかし彼女はそうではない。
 ミナの死は、間違えようのない事実。そう考えると、彼女がこのメッセージを私宛に送るには、どうすれば良いのか。
 方法は一つ。彼女のフリをした別の何者かが、彼女の携帯電話を使って、メッセージを私に送ってきているのだ。それなら、彼女が死んでいたとしても、なんら問題はない。
 そうであれば、その誰かとは何者なのか。
 何故、ミナの携帯電話を使えるのか。
 何故、こんなメッセージを私に送るのか。
 思い当たる節は、割とすぐに浮かんだ。

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