人生やりなおしっ子サイト

夜暇

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第三章 思惑

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 それから私は、彼らと共に何件か仕事を行なった。
 承諾したとはいえ、自分がそんな演技をできる気はしていなかった。しかし思った以上に私は向いていたようだ。
「スミエさんってほんとに自殺、したことないの?めっちゃリアル」
 仕事は月に一、二回程度だったが、この一年で私は彼らと大分親しくなった。ジュンは敬語がとれ、タメ口で気さくに話しかけてくる。歳は随分と下のようだが、弟ができたようで悪い気はしなかった。
 マサキもそうだ。澄ました顔で冗談を言う彼は、その外見とのギャップがあり、面白かった。
 毎回の仕事は、管理人であるサクライから、グループのリーダーであるマサキがもらってくる。報酬も同様である。彼が最初に述べたように、仕事が成功しようがしまいが、終わった暁にはきちんと報酬を受け取ることができた。
 驚いたのはその金額。極端に…ではないが、少なくともサラリーマンの平均月給よりかは高額といえた。
 自殺志願者からは別途、金を貰っている訳でもない。そうだというのに、この金の源は一体どこにあるのだろうか。東京自殺サイトを設立した管理人のサクライとは、誰なのだろうか。マサキから金を受け取る際、いつもそんなことをぼんやりと考える。しかし、それを私が知る必要の無いことであることは分かっていた。私に求められているのはあくまで、毎度大して変わりもなく、自殺のフリをこなすこと。ただ、それだけなのだ。

 それにしても、である。
 ターゲットといえばひとくくりにはできるが、当然その中には様々な人間がいた。無駄に喋る者、終始無言な者、吃る者。訳もなく発狂し、ぶつぶつと独り言を呟く者。
 千差万別、十人十色。ハラハラする日々だったが、何より驚いたのは、サイトに登録してくる人間に、若者が多いことだった。
 自殺率を年代別に見ると、高く出るのは高齢者、また熟年の世代。しかし近年、二十歳前の若者の自殺率も増加傾向である。そう、インターネットの記事には書かれていた。
 それに「人生やりなおしっ子サイト」は、入り口がインターネットを使っているだけあって、幼少の頃からスマートフォン、パソコン、テレビ等のデジタル機器と触れ合ってきている彼らとしては、とっつきやすいのかもしれない。
 そうはあっても、どうして二十歳前後(中には中高生も!)の若者が、死を選ぶのだろう。気になった私は、幾度目かの仕事の際、ターゲットの若者に聞いてみた。
「別に。今の人生でやりたいことも、好きなことも見っかんないし。このまま生きていても、意味無いから」
 だから、死んでも良いかなって。平然とそう述べる若者に、私は返す言葉がなかった。
 やりたいことがない。
 意味がない。
 だからといって死を選ぶ?それは、どういった了見なのだろう。生活環境が、虐めが、家庭が原因で自殺する。そんな、それに至るまでの要因がきちんとあるならまだ納得できるが、無気力が故に死ぬなんて、とてもじゃないが理解できなかった。
 そう、死にたい理由を語ってくれた若者が、自殺に失敗して逃げていく様を見届けた後、マサキにそのことを話してみた。
「アノミー的自殺ですね」
「なにかしら、それ」
「フランスの有名な社会学者、デュルケーム。知りませんか。彼が唱えた『自殺論』という学説の一種です」
「自殺論?」
「はい。今のご時世、やろうと思えばなんでもできる、なんにでもなれる。可能性が無限大なだけに、それが叶わない現実、そんな自分が酷く惨めに思えてくる。結果、死ぬことを考える。好景気、平和な時に起こりやすい自殺の分類と言いましょうか」
 社会学なんて、微塵も関わりなかったため、有名と言われようとも初耳である。思わず目をぱちぱちさせてしまった。
 しかし、彼の言うその有名人の発言は的を射ていた。土地や家柄、そういった「しがらみ」に縛られることが無いこの世の中で、そういった言うならば「贅沢な自殺」というのは、流行りやすいものなのかもしれない。
 でも。
 そうであっても、だ。
 やはり、私は共感できなかった。
 どうしてそこまで、命を粗末にできる。世の中には、生きたくとも生きられない人間だっている。それこそ私の夫のように、生きるべきだった人間が、望まずとも死んでしまうことだって、あるというのに——。
 それからの私は、それまで以上に仕事に励んだ。
 もやもやとした、不確かな感情。生きることができる人間が、簡単に命を捨てようとすることに、憤り、やるせなさを感じていたのかもしれない。感情の赴くままに、私はターゲットに精一杯「自殺の様」、「生への執着」を見せつけた。それはもはや、意地だった。私の、本心からの強い主張であった。
 そんな毎日が、何日も続いた。あの女が、目の前に現れるまでは。

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