38 / 51
第四章 目的
二
しおりを挟む廃校の一室で、自殺未遂をした日の夜。
今考えると、あの日あの一室に最後まで残ってさえいなければ。マサキと会話をしなければ、私はそれを知ることはなかったのかもしれない。
「カヨさん。それが本当なら…」
「はい。スミエさんが、ミナさんを殺したのかもしれません」
スミエによる、ロープの細工が行われた可能性が高いこと。それをマサキに伝えると、彼は苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
「違う…と言いたいところですが、改めて考えれば、確かに彼女はかなり怪しいと思えます。 確かに、ミナさんのロープも彼女が率先して切りたいと申し出ました」
己の考えに賛同してもらえて、内心ほっとする。そんな私を見たマサキは、一人納得したように頷いた。
「少しカマをかけてみましょうか」
「カマ?」
「ええ。このロープの細工に、気付かなかった。それを彼女自身の口で言わせるよう仕向けるんです。先程彼女は細工のことを言いませんでしたが、鋏で切っている以上、気付かないわけがないのですから」
つまり、逃げ道を無くす訳である。
「そしてその誘導は、カヨさんにやってもらいたい」
「私…ですか」
「私やジュン君では、彼女との関係が濃いだけに、変な態度で接すれば勘付かれる可能性があるんです。その分、ある意味部外者であるあなたから言えば、彼女も油断してボロを出すかも」
私が。思わぬ形で大役を任され、緊張が高まる。
「無理にとは言わないです。カヨさんにはかなりご迷惑をかけていますし。もしできればという…」
「やります」
半ば食い気味で、了承の意を示す。
——あなたに仕事なんて、任せられないわ。
上司だったカワノの顔、口調、言葉が、頭の中に浮かんでくる。
前の会社で私は、常に周囲から見下されていた。おどおどして、ミスが多くて。そんな風に、いつも見られていた。カワノからの重圧であることは自分が一番分かっていたし、消極的な性格が災いしていることも、理解していた。
そんな私に、彼は大役を任すと言ったのだ。たとえ今日、初めて会ったのだとしても、私という人間がどんな人間であるのかは分かったはず。そうだというのに。
この人の、力になりたい。
マサキは目を今より少しだけ大きく見開いたかと思いと、「ありがとうございます」と柔和な顔つきになった。
「そうしましたら、早めに話をつけた方が良いですね」そこで彼は少し考え込むと、「明後日はいかがでしょうか。明後日の夜、私は適当な嘘をついて、彼女をあの廃校に呼び出します。そこで、やりましょう」
「明後日…」
カワノの顔が消え失せ、今度はスミエのあの、優しい微笑みが宙に浮かんだ。あの人がやったなんて思いたくない。しかし現状、疑いようがないのだ。
やるしかない。私は無言で頷く。
「時間は後で連絡します。あ、それとジュン君にも、私達に協力してくれるように言っておきます。彼も事前に知っておいた方が良いと思いますから」
「よろしくお願いします」
それだけ言って、私は深々と頭を下げた。
「それじゃ、私も今日はいい加減帰りますね」
二度目になり自ら苦笑しつつも、私は部屋の出口へと進んでいく。そんな私を、マサキは「あの」と呼び止めた。
「カヨさん、待ってください」
「え?」振り返ると、彼は俯き加減に私を見た。
「実は、その。お話があって」
「お話?」
もしかして、先程一度言いかけたことなのだろうか。
「ここまでご協力いただく代わりに、私が気付いたことについて、やはりあなたに聞いてもらいたい」
「気付いた、こと?」
「このことを、どう解釈するかは、カヨさんにお任せしますが…」
「あの。おっしゃっている意味がよく分からないのですが」
眉根を寄せ問うと、彼はこほんと一つ咳払いをした。
「あなたが車内で話してくれた際に出てきた…確か、カオルさんでしたっけ」
「は、はい」
姉の名前が出てくるとは思わなかったため、少々声が上擦る。そんな私を一瞥した後、彼は大きく息を吸った。
「彼女。あなたのお母様の死に、関係していると思いますよ」
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
白苑後宮の薬膳女官
絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。
ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。
薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。
静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。
タダで済むと思うな
美凪ましろ
ライト文芸
フルタイムで働きながらワンオペで子育てをし、夫のケアもしていた井口虹子は、結婚十六年目のある夜、限界を迎える。
――よし、決めた。
我慢するのは止めだ止め。
家族のために粉骨砕身頑張っていた自分。これからは自分のために生きる!
そう決めた虹子が企てた夫への復讐とは。
■十八歳以下の男女の性行為があります。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる