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序章 呪い
悪夢
しおりを挟むこんなはずじゃなかった。
目の前に立ち上る黒煙。鼻につく、焦げ臭いにおい。ぱちぱちと、火花の散る音。そのどれもが、眼前の出来事が夢ではなく、現実なんだ。そう、私に強く感じさせた。
ボンネットが盛大にひしゃげた、二台の車の前で、私は立ち竦んでいる。
震える手にはスマートフォン。
今も録画は続いたまま。
今すぐに、その場から立ち去るべきだった。しかし脚が動かない。縛りつけるは、恐怖だろうか。根をはっているように、靴の中で指先を持ち上げることすらも、できなかった。
いったい、自分はどうなるのだろう。——この、目の前の状況を作り出した元凶として、晒しあげられるのだろうか。私の今後の人生は、どうなるのだろうか。多大な影響があることは、その時の混乱した頭であっても理解できた。
「こんなはずじゃなかった」
先程頭に浮かんだ言葉を、無意識のうちに呟く。
こんな、大ごとになるなんて。
私はただ、遊びのつもりで。
そこでふと、周りに目を向けると、男女数人が驚愕の表情で、私と同じようにぐしゃぐしゃになった車を見ていた。近所の住民だろう。呆けている間に、野次馬が集まってきたらしい。
逃げろ。頭に響いたその声で、縛られたように動けなかった体に自由が戻った。同時に、弾丸みたく全速力でその場から走り去る。
走りながらも、視界が滲む。片手で擦りながら、私はその時、大声で叫びたくて仕方がなかった。どうか、夢であってほしい。「あんたのせいじゃないよ」って、誰かに言ってほしい。そんな望み、叶うわけがないのに、現実を直視できなかった。
だからこそそうして、その場所から逃げてしまったのだった。
息苦しい。寝汗を拭う。
それは、今でもフラッシュバックする記憶。悪夢、いや、呪い。呪いと呼ぶのが相応しい。頭に刻まれた鮮明なその記憶が、私を締め付け、苦しめ、痛めつける。
忘れたかった。でも、忘れることなんてできなかった。あての無い旅に出ているような気分、先の見えない不安。虚無感、絶望感に苛まれつつも、生きている以上はその旅も終わらない…そのようにも感じていた。
ただ。そんな私にも今は一つだけ、希望があった。
無言で、目の前のパソコンのスクリーンを見る。黒の背景に赤色で縁取られた白文字。手汗を衣服に擦り付け、そのまま画面を凝視する。
もしかすると、この鬱々たる生活を、少しは和らげることができるのかもしれない。
私は出会ったのだ。
この「人生やりなおしっ子サイト」に。
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