君との未来への前奏曲《プレリュード》

羽月咲羅

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第2章

変わった男の子(2)

 彼に手を引かれながら階段を上る。
 それが思ったよりもキツくて、体育の時以外ほとんど運動をしない私は息が切れそうになった。
 彼がどこに行くのかどこに向かっているのかわからないまま、着いていくだけ。

「…はぁ…っ……ねえ、どこまで行くの?」

 そう聞いても彼は笑うだけで、はっきりとしたことは教えてくれない。
 もう少しだから、と言って、私の歩幅に合わせてゆっくり歩くだけ。
 強引なくせに、こういう何気ない優しさを向けられるとなにも言えなくなる。


 どれくらい上っただろうか、長く感じた階段を上り切ると高台に出た。
 そこからはこの小さな町が一望でき、輝くネオンがとても眩しくて感嘆の声が漏れた。

「俺のお気に入りの場所なんだ、ここ」

 今まで見たなによりもそれは綺麗で、まるで一人占めしてるような気持ちになる。
 自分の存在がとてもちっぽけで、抱えている悩みがバカみたいに思えるから不思議だ。
 なにも解決していなくて、そんな簡単なことでもなくて、それでも少しだけ気持ちが楽になった気がした。

「……どうして、ここに連れてきたの?」

 たまたま会っただけで知り合いでもない。
 ナンパという感じでもないのに、どうしてわざわざ連れてこられたのか考えてもわからない。

「んー、可愛いと思ったから?」
「は?」
「嘘、冗談。あのまま帰ったら君がまた薬飲むんじゃないかと思って」
「……なんでそう思ったの」

 ずっと前に一度だけ、ODをしていることを両親に知られたことがある。
 でも、やめた、もうしない、と約束してからは私がまたしていることに気付かなかった。
 高校生になって自分のお金で買えるようになるまで自分を傷つける違うことで気持ちを紛らわせ、薬を飲むこともしなかったから。
 初めてバイト代を手にした日、大丈夫だと思ったのに一度でも口にしてしまったら無理だった。

「…その手」
「手?」
「吐きダコだろ、それ」

 指を差しながらそう言われ、私は思わず両手を後ろに隠して見られないようにした。

 彼の言うとおり、私の指や手の甲に吐きダコと言われるものができている。
 毎日のように薬を大量に飲んで吐き、その度に歯が当たるためだ。
 他の人にはないものができているのが嫌で、何度もやめようと思ったのにやめられない。
 やめたところで、どうせまた違うことをしてしまうに違いないんだ。
 そうーーリストカット、とか。

「ODってやつ? それをしなきゃいけない理由がなんかあんの?」

 理由ーー両親のこととか涼夏のこととか、上げ出したらきっとキリがない。
 それも明確なものじゃなく、はっきりしているようでどれも曖昧だ。
 それとODをするのがイコールで繋がれているかと言われたら、それもわからない。
 そうすることで楽になる気がして、ただ逃げてるだけかもしれない。

「ま、言いたくないなら言わなくてもいいけど」

 それは突き放したような言い方なのに、両親に向けられるものとは違う。
 思いやりを感じるような言葉で、それに安心すると同時に嬉しくなった。
 だからか、彼になら話してもいいかもしれない、とも思ってしまった。
 彼を信頼してるわけじゃない、知らない人だからこそ言えることもあるかもしれないって。
 もし悩みをすべて話して引かれたりされても、会ったばかりだからなんて思われても気にしない。
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