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第2章
変わった男の子(4)
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
彼はわざわざコンビニまで送ってくれて、そう言って手をひらひらさせて背中を向けた。
さすがに知らない男の子に家まで送ってもらうのは気が引けたから、そのことに安心した。
でも、いざ別れるってなると、なんだか無性に寂しく感じてしまった。
名前もなにも聞いてない、彼も聞いてこない。
今度また会えるかもわからないのに、このまま別れるのは嫌だった。
かといって、なにを言えばいいのかもわからなかった。
「あ、あの…っ」
引き止めたはいいものの、彼の瞳に見つめられたらなにも言えなくなった。
自分の名前を言うどころか彼の名前を聞くことさえもできず、喉がカラカラでなにも出てこようとしなかった。
ーー彼から言ってくれれば、そしたら私は迷わずに言うことができるのに。
そんなことを考えて、人任せにしてしまう自分が卑怯な人間に思えてまた自分の嫌いな部分が見えてしまった。
自分が自分のことも好きになれないのに、他人に気に掛けてほしい、想ってほしいなんて無理なことなのに。
「…えと、あ、ありがとう」
結局言えたのはそれだけで、肝心なことはなにも言えなかった。
彼もなにも言わず、柔らかく微笑んだだけ。
この時、彼の名前を聞くことはできなくても自分の名前くらいは言うべきだった。
それだけできっと、この先の未来は全然違っていたはずだ。
思いもしなかったんだ。
また会うことがあっても、私が〝夏姫〟として会えないなんてこと。
彼に名前を呼んでもらう、ただそれだけのことができないということも。
せめて名前を言ってさえいれば、自分でいられることができたのにーー。
***
家に帰って部屋に行き、ドラッグストアで買った薬をじっと見つめる。
買うだけだと言いながら、手にしてしまえばきっとまだ飲んで吐いてしまうーーそう思っていた。
いつもそうだから。
飲んでしまいたいという気持ちは少なからずあるのに、そうしてしまう前にストップが掛かる。
飲む前にちょっとだけ我慢すると、不思議と気持ちが落ち着く感じがした。
口の中には、さっき食べたイチゴの飴の味がまだ微かに残っているような気がした。
それを消してしまいたくなくて、だからこそ我慢することができたのかもしれない。
「……また会えるかな」
会えるものなら会いたい。
次また会えたら今度こそ名前を聞いて、もっとうまく話すんだ。
私は買ったばかりの薬箱を机に押し込み、ベッドにダイブするように横になった。
枕を抱きしめて目を閉じると、彼の顔が、彼の笑顔が浮かぶようだった。
一人の時間、今日はいつもより孤独を感じることがなくて心が落ち着いていた。
一人なのに一人じゃない、そのことが寂しさやつらさを和らげてくれた。
現状が変わったわけじゃないけど、さっき会った男の子の存在が自分の中に強く残り、乗り切れる気がした。
彼はわざわざコンビニまで送ってくれて、そう言って手をひらひらさせて背中を向けた。
さすがに知らない男の子に家まで送ってもらうのは気が引けたから、そのことに安心した。
でも、いざ別れるってなると、なんだか無性に寂しく感じてしまった。
名前もなにも聞いてない、彼も聞いてこない。
今度また会えるかもわからないのに、このまま別れるのは嫌だった。
かといって、なにを言えばいいのかもわからなかった。
「あ、あの…っ」
引き止めたはいいものの、彼の瞳に見つめられたらなにも言えなくなった。
自分の名前を言うどころか彼の名前を聞くことさえもできず、喉がカラカラでなにも出てこようとしなかった。
ーー彼から言ってくれれば、そしたら私は迷わずに言うことができるのに。
そんなことを考えて、人任せにしてしまう自分が卑怯な人間に思えてまた自分の嫌いな部分が見えてしまった。
自分が自分のことも好きになれないのに、他人に気に掛けてほしい、想ってほしいなんて無理なことなのに。
「…えと、あ、ありがとう」
結局言えたのはそれだけで、肝心なことはなにも言えなかった。
彼もなにも言わず、柔らかく微笑んだだけ。
この時、彼の名前を聞くことはできなくても自分の名前くらいは言うべきだった。
それだけできっと、この先の未来は全然違っていたはずだ。
思いもしなかったんだ。
また会うことがあっても、私が〝夏姫〟として会えないなんてこと。
彼に名前を呼んでもらう、ただそれだけのことができないということも。
せめて名前を言ってさえいれば、自分でいられることができたのにーー。
***
家に帰って部屋に行き、ドラッグストアで買った薬をじっと見つめる。
買うだけだと言いながら、手にしてしまえばきっとまだ飲んで吐いてしまうーーそう思っていた。
いつもそうだから。
飲んでしまいたいという気持ちは少なからずあるのに、そうしてしまう前にストップが掛かる。
飲む前にちょっとだけ我慢すると、不思議と気持ちが落ち着く感じがした。
口の中には、さっき食べたイチゴの飴の味がまだ微かに残っているような気がした。
それを消してしまいたくなくて、だからこそ我慢することができたのかもしれない。
「……また会えるかな」
会えるものなら会いたい。
次また会えたら今度こそ名前を聞いて、もっとうまく話すんだ。
私は買ったばかりの薬箱を机に押し込み、ベッドにダイブするように横になった。
枕を抱きしめて目を閉じると、彼の顔が、彼の笑顔が浮かぶようだった。
一人の時間、今日はいつもより孤独を感じることがなくて心が落ち着いていた。
一人なのに一人じゃない、そのことが寂しさやつらさを和らげてくれた。
現状が変わったわけじゃないけど、さっき会った男の子の存在が自分の中に強く残り、乗り切れる気がした。
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