選択科目:理系

くろくま

文字の大きさ
2 / 2

二時限目

しおりを挟む

「お前らなんで椅子にも座らんとたっとん??」


丸く小さな輪になって話をしていた私たちに、教室に入ってきた先生が声をかけてきた。


水谷川(みやかわ)先生
坊主頭が特徴的な背の高い30代の先生。
うちの高校に転勤になった際に奥さんと子供を連れて島で家を借りたらしい。
愛妻家で子煩悩。
一年時にも生物学を教えてくれていた先生。
どうやら彼が理系の担任?的なのになるらしい。


「やってどこ座ったらええかんからんかったし」


先生が入ってきたと同時に近くの机に座っていた岩永が笑い混じりに言う。


岩永が机に座っていることに対し少し眉を寄せた気もするが、すぐに笑みを作って私たちを適当な席に座らせる。
と言っても5人しかいないので一番前列の窓際2列に男子が固まり一列空けて廊下側に女子が横並びで座る形になった。


「...にしても5人って少ないな??
 今までに例をみん少なさやで」


と茶化したように教卓に立つ先生が言う。


本当にその通りだと思う。
偏りすぎじゃないか?
と思うが、理系はまあ、文系に比べて化学や数学が難しくなるって考えると、偏差値の低いうちの高校じゃ妥当だろう。
誰だって勉強が好きなわけじゃないし。
私は数学や化学と言った明確に答えが出る授業が嫌いではないので、きっと楽しいはずだ。



「今日はまあ、授業じゃなくて、自己紹介にしよか」


カツリと黒板にチョークで何かを書き始める水谷川先生。
今更自己紹介?一年一緒に授業を受けてきたのに?と全員が首を傾げていると、文字を書き終えたらしい水谷川先生が私たちの方を向く。


「ただの自己紹介ちゃうで。言うてもらうんはこれな」


と黒板が見えるように教卓から体をずらす。
黒板には
"名前"
"血液型"
"好きな芸能人"
"好きな教科、嫌いな教科、その理由"
"好きに一言"


と書かれていた。
名前と好きな教科、嫌いな教科はわかる。血液型?好きな芸能人??なんで???


全員がそれぞれ困惑したように顔を見合わす。
水谷川先生は変わらずにこにこと笑っている。


「名前とある程度の性格は大体わかってるやろ?普通の自己紹介じゃつまらん。普段聞かへんことにしようや」


まあ確かにそうだが、だからって血液型と芸能人って...
まともな先生だと思っていたのに急にぶっこまれてもなぁ...と首を掻いていると、ガタリと岩永が立ち上がる。


「名前は岩永進。んで血液型はAB型。
 好きな芸能人はマリリンモンロー!
 好きな教科は体育で嫌いな教科は生物と化学!その理由は難しいから。好きに一言って言われてもな..まあ、よろしく!」


と勢いよく言うとそのまま椅子に座る。
みんな唖然としていた。...先生を除いて。


「流石岩永やな。先陣ありがとう。でも生物担当の俺の前で嫌いな教科が生物とは...卒業するまでには楽しかったいわしたるさかい楽しみにしとけよ」


パチパチと拍手をする先生につられて私たちも拍手をする。
得意げに椅子に座る岩永を見て次は奥村が立ち上がる。


「ええっと..名前は奥村将士。血液型はO型...。好きな芸能人は、お笑い芸人のジャルジャルで、...好きな教科は体育、嫌いな教科は数学。...理由は公式覚えるのが大変やから...?あーっと...勉強頑張ります?」


「木下優。血液型はB型で、好きな芸能人は居ません。好きな教科は世界史で嫌いな教科は体育。理由は団体競技が苦手やからです。ほどほどに頑張ります。」


「川端歩です!血液型はB型。好きな芸能人は..うーん誰やろ?竹内涼真くんとか?好きな教科は体育で、嫌いな教科は社会科系全般と英語!英語はまじ無理!!これからよろしく~!」


ポンポンとテンポよくみんなの自己紹介が終わっていく。
...人前で話すのって苦手なんだよな...。


カタリと小さく音を鳴らして立ち上がる。
じっと5対の目がコチラを見つめる。一瞬膝が震えたがなんとか持ち直す。


「三神真。血液型はB型。好きな芸能人は..ゲイリー・オールドマン。海外の俳優です。好きな教科は国語。嫌いな教科は英語...理由は日本から出る予定がないのと英単語覚えられる気がしんから。適当によろしく...」


小さな声になってしまったが、先生を入れても6人しかいない教室だ。十分聞こえただろう。
小さくため息を吐きながら椅子に座る。
どうにかして、人前で話すの、慣れないとな..とは思うものの、なかなかうまくいかないのが現実だ。


「はいはい、みんな自己紹介ありがとう!」


にぱーっと水谷川先生が笑って言う。
そういえば先生から自己紹介はしてもらってないがそれはどうなんだろうか?
大体の先生は見本だと言わんばかりに最初に言うが...


「せんせーは自己紹介してくれへんの?」


ニヤニヤと岩永が言う。
みんな思っていたのか残りの3人も確かに...と小さく頷いている。


「ええ?...しゃーないなぁ。名前は水谷川俊。血液型は秘密。好きな芸能人も秘密。好きな教科はもちろん理科..特に生物やな。嫌いな教科は秘密。あーそうやなぁ。とりあえず岩永は卒業するまでには生物がめちゃくちゃ面白い事を叩き込んだるわ!まあ、楽しんで授業しよな」


...いや秘密多すぎんか?


私たちは全員白い目を向ける。
木下は小声で「これなら聞かんでもよかったな...」とこぼしてる。
思ったけど言っちゃダメだろう...。


「と、とりあえず!これからは先生入れてこの6人、あと化学担当の先生と、数学Ⅱ担当の先生入れてこの8人が理系コースのメンバーや」


先生入れても少ないね???
まあ、なにはともあれ、私の高校2年の生活がスタートした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...