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第五章
3 やはり、決して野蛮人ではない
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学校では野蛮な食人族だと教わったが、そこまで凶暴でもなさそうである。少なくとも、ちゃんと対話をできる相手のようだ。
ということは、ここはもう契羅城自治区ではなく、ヌプルゥシケ自治区⁉
ヌプルゥシケとは、元々この島国に大昔から住んでいた原住民ニウア族の言葉で『尊い場所』を意味する。こんな厳しい自然環境の地を尊ぶのだから、彼らがいかに大自然を畏れ敬っているのかが窺える。やはり、決して野蛮人ではない。
現在でも三千人程度、ニウア族の末裔が北方に住んでいるとは聞いたが、倭俱槌人との積極的な関わり合いは拒みがちで、物資の売買、いわゆる交易を少しばかり行っているのみのようだ。
倭俱槌人に迫害された過去があるので、それも理解できる。もう七十年ぐらい前のこととはいえ、彼らにとっては昨日でも百年前でも記憶として残っているのだ。
こんな自治区境付近で出会うとは予想外である。もっと遥か北の最果てに住んでいるのかと思っていた。
こっちの言葉を知っているなら、最初から使えばいいのに。意地悪な奴。
「おばあちゃんが……祖母がニウア人だったので……子供の頃に少しだけ教わりました」
ノエル先輩は自分の言葉が通じたことに安堵しているようだった。
祖母がニウア人って、初耳なんですけど?
局長でさえ目を丸くしていた。
「あ、隠していたわけではないんです。ただ、今まで話す機会がなかっただけで……」
「お前の祖母、名前、何だ?」
と、ニウア族の男性。だいぶ口調が落ち着いてきている。
「シャヌレ……です」
ノエル先輩は局長からニウア族の男性に向き直り、恐る恐る答えた。
「シャヌレ! 昔、大人達言った。シャヌレ、ワグツチ人と結婚した。ニウア族、シャヌレ追い出した。悪かった。謝る」
「いや、あの……もう昔のことですし……祖母も六年前に亡くなりましたので……気にしないでください」
突然謝られ、ノエル先輩は戸惑ってしまった。今となっては子供、孫の世代であり、ノエル先輩本人に実害もないので、問題にするほどのことでもないのだろう。
そもそも、ノエル先輩はそんなに心の狭い男ではない!
それにしても、ニウアの人達って実直なのかな。たとえ何十年経っても、自分達の親や祖父母の過ちにまで気付けばきちんと謝るなんて。
「シャヌレの孫、ニウアの仲間。シャヌレの孫の仲間、ニウアの仲間」
ニウア族の男性は初めて笑顔を見せた。
一安心である。ここで地元の人々に敵対心を持たれては、何かと仕事がやりづらくなり、協力も得られなくなってしまうのだから。
「ノエル、さっき何て言ったの?」
と、局長。
「助けてもらったお礼を言いました。……それが精一杯でした」
少しでも覚えているなんて凄い。わたしなんか、昨日勉強した内容ですらキレイサッパリ脳内から消え失せてしまうのに。
それはそうと、ノエル先輩もニウア族の末裔の一人ということになる。それだけで、元々高い魅力度がさらにアップしたかも♥ やっぱりニウア族は絶対に野蛮人なんかじゃない。後でランチデートの時に、ノエル先輩におばあちゃんのことも聞いてみよう♪
「我、名前、コタンシュ。お前達、名前、何だ?」
「申し遅れました。我々は紅衣貌撲滅を目指す組織アンブローズです。わたしが局長の神楽坂静香です。先程は助けていただき、本当にありがとうございました。皆を代表して、局長のわたしから改めてお礼を申し上げます」
局長は思い出したように謝意を述べ、コタンシュさんに丁寧に一礼した。
それから各々簡単に自己紹介をすると、コタンシュさんは済まなそうにうつむく。
「謝る。お前ら、ワグツチの男の仲間違う。女、子供怒鳴る、いけない」
いちいち律儀。やっぱり真面目な気質の民族なんだ。ノエル先輩もそういうところあるし♥
ところで、『ワグツチの男』って誰?
「ワグツチの男、我の息子、ションタク盗った。我、ワグツチの男探す」
なるほど。子供をさらわれたから、さっきはあんなに怒鳴って何かを問い詰めていたのだ。わたし達がそのワグツチの男の仲間だと思って。
そのワグツチの男って、やっぱりアポカリプスの信者かな?
「気になるわね。そのワグツチの男」
局長は眉間に皺を寄せ、わたし達に向き直った。
「子供をさらうなんて、ロクな目的じゃ……っ」
言いかけたベルウッドさんは言葉を呑むと、出し抜けに真っ暗な木立の向こうへ豆粒ほどのエネルギー弾を飛ばした。
ということは、ここはもう契羅城自治区ではなく、ヌプルゥシケ自治区⁉
ヌプルゥシケとは、元々この島国に大昔から住んでいた原住民ニウア族の言葉で『尊い場所』を意味する。こんな厳しい自然環境の地を尊ぶのだから、彼らがいかに大自然を畏れ敬っているのかが窺える。やはり、決して野蛮人ではない。
現在でも三千人程度、ニウア族の末裔が北方に住んでいるとは聞いたが、倭俱槌人との積極的な関わり合いは拒みがちで、物資の売買、いわゆる交易を少しばかり行っているのみのようだ。
倭俱槌人に迫害された過去があるので、それも理解できる。もう七十年ぐらい前のこととはいえ、彼らにとっては昨日でも百年前でも記憶として残っているのだ。
こんな自治区境付近で出会うとは予想外である。もっと遥か北の最果てに住んでいるのかと思っていた。
こっちの言葉を知っているなら、最初から使えばいいのに。意地悪な奴。
「おばあちゃんが……祖母がニウア人だったので……子供の頃に少しだけ教わりました」
ノエル先輩は自分の言葉が通じたことに安堵しているようだった。
祖母がニウア人って、初耳なんですけど?
局長でさえ目を丸くしていた。
「あ、隠していたわけではないんです。ただ、今まで話す機会がなかっただけで……」
「お前の祖母、名前、何だ?」
と、ニウア族の男性。だいぶ口調が落ち着いてきている。
「シャヌレ……です」
ノエル先輩は局長からニウア族の男性に向き直り、恐る恐る答えた。
「シャヌレ! 昔、大人達言った。シャヌレ、ワグツチ人と結婚した。ニウア族、シャヌレ追い出した。悪かった。謝る」
「いや、あの……もう昔のことですし……祖母も六年前に亡くなりましたので……気にしないでください」
突然謝られ、ノエル先輩は戸惑ってしまった。今となっては子供、孫の世代であり、ノエル先輩本人に実害もないので、問題にするほどのことでもないのだろう。
そもそも、ノエル先輩はそんなに心の狭い男ではない!
それにしても、ニウアの人達って実直なのかな。たとえ何十年経っても、自分達の親や祖父母の過ちにまで気付けばきちんと謝るなんて。
「シャヌレの孫、ニウアの仲間。シャヌレの孫の仲間、ニウアの仲間」
ニウア族の男性は初めて笑顔を見せた。
一安心である。ここで地元の人々に敵対心を持たれては、何かと仕事がやりづらくなり、協力も得られなくなってしまうのだから。
「ノエル、さっき何て言ったの?」
と、局長。
「助けてもらったお礼を言いました。……それが精一杯でした」
少しでも覚えているなんて凄い。わたしなんか、昨日勉強した内容ですらキレイサッパリ脳内から消え失せてしまうのに。
それはそうと、ノエル先輩もニウア族の末裔の一人ということになる。それだけで、元々高い魅力度がさらにアップしたかも♥ やっぱりニウア族は絶対に野蛮人なんかじゃない。後でランチデートの時に、ノエル先輩におばあちゃんのことも聞いてみよう♪
「我、名前、コタンシュ。お前達、名前、何だ?」
「申し遅れました。我々は紅衣貌撲滅を目指す組織アンブローズです。わたしが局長の神楽坂静香です。先程は助けていただき、本当にありがとうございました。皆を代表して、局長のわたしから改めてお礼を申し上げます」
局長は思い出したように謝意を述べ、コタンシュさんに丁寧に一礼した。
それから各々簡単に自己紹介をすると、コタンシュさんは済まなそうにうつむく。
「謝る。お前ら、ワグツチの男の仲間違う。女、子供怒鳴る、いけない」
いちいち律儀。やっぱり真面目な気質の民族なんだ。ノエル先輩もそういうところあるし♥
ところで、『ワグツチの男』って誰?
「ワグツチの男、我の息子、ションタク盗った。我、ワグツチの男探す」
なるほど。子供をさらわれたから、さっきはあんなに怒鳴って何かを問い詰めていたのだ。わたし達がそのワグツチの男の仲間だと思って。
そのワグツチの男って、やっぱりアポカリプスの信者かな?
「気になるわね。そのワグツチの男」
局長は眉間に皺を寄せ、わたし達に向き直った。
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