35 / 102
第三章
12 ないなら、作るまでだ。
しおりを挟む
【⚠ このエピソードには残酷描写があります ⚠】
軍曹は紅衣貌を一瞥し、また男に視線を戻す。
「……で、この醜い御神体に俺達を喰わせて、何か御利益があるのか?」
「練識功の保持者の血肉を取り入れることで、我らが御神体の御力は完全なものとなる。我々が丹精込めて作り上げた御神体の、君達は最後のパーツだ。最期の肉の一片、血の一滴、そして断末魔までも」
作り上げた御神体って……? そんなものを崇めて、この人達何が楽しいんだろう? それに、紅衣貌って人工的に作れるのだろうか? そうだとしたら、わざわざこんな気持ち悪い姿に仕上げた彼らの美的センスは破綻している。
第一、わたし達を喰わせたところで、この人面蛇に練識功が備わるとも思えない。
だが合点が行った。伊太池さん、ナヒトが、なぜわたし達のうちの『一人』に拘ったのか。
それは、怪物に喰わせるのは一人で十分だったからである。たとえここが練識功発動不可の場所であっても、複数で来られようものなら、彼らにとっては少々面倒でもあっただろう。
そもそも、オフィスで仕事を依頼した時点から、わたし達が総出で赴くことなど望んでもいなければ期待もしていなかったのだ。その上で後から『一人だけ』と持ち掛けた。
あの時、既にナヒトの策略通りになっていたとは、実に腹立たしい。
こうして大勢の松明の灯りの下、生きたままのわたし達を御神体に喰らわせる。実質的に御利益はないと思うが、いわゆる神聖な儀式のつもりなのだろう。
ただ殺すつもりなら、わたし達を途中で突き落とせば済むのだから。
「悪趣味だな。そんな胸糞悪いイベントに付き合う気はない。紗希、帰ろう」
「帰ろうって……逃げ道がないですよ?」
当然のように言ってきた軍曹に、わたしは小声で問い返す。
紅衣貌の後ろにかなり広い通路らしきものは見えるが、行くとしたらこの怪物のすぐ脇を突っ切る以外に手はない。どこへ通じているのかも不明で、しかも鉄格子の扉で塞がれている。そんな通路を、わざわざ危険を冒してまで逃げ道にするのは愚の骨頂である。
人面蛇が頭をもたげ、人ひとり丸呑みできるほどの大口で、牙を剥き出し迫って来た。
いくら何でも、練識功無しでは太刀打ちできない。わたしは死を覚悟した。
その瞬間、軍曹が跳んだ。
人面蛇が頭を低くした刹那を狙い、振り被った剣に勢いとスピードと渾身の力を乗せて振り下ろす。
ぐしゃあ、と水っぽく不快な音。
軍曹の剣はものの見事に人面蛇の頭を叩き割っていた。
練識功無しの、地の力だけでこの膂力⁉ 信じられない。
「知ってるよ」
答えた軍曹の形相が、今にも狼男に変身しそうなほど獰猛になった。
色めき立つアポカリプスの信者達。
「ないなら、作るまでだ」
軍曹は剣を振り、付着した人面蛇の脳漿を先程の男の方へと投げ付けた。
見せしめとしては効果絶大。お陰で(?)わたしも体の硬直が解けた。
ビキキキキ、と生々しい音を立てながら、なんと人面蛇の頭が再生してゆく。
再生する紅衣貌⁉ それもこんなに早く。
もちろん、悠長に再生完了まで観察しているつもりはない。
「莫迦な! 練識功が使えないはずなのに!」
脳漿を浴びせられた男も動揺を露にしていた。
練識功が発動できない原因を知りたいが、彼らがいちいちご丁寧に説明してくれるはずもないだろう。こちらとしても、そこまでの時間的余裕は持てない。この人面蛇、再生を終えればきっとまた動き出す。
「全力でついてこい」
言い放った軍曹はわたしが返事をするより早く、ダン! と地を蹴る。
まさか、この激長螺旋階段を駆け上げるつもり? しかも、敵が大勢いるのに。
軍曹の作戦を知る由もなく、わたしも遅れまいと後を追った。
軍曹は紅衣貌を一瞥し、また男に視線を戻す。
「……で、この醜い御神体に俺達を喰わせて、何か御利益があるのか?」
「練識功の保持者の血肉を取り入れることで、我らが御神体の御力は完全なものとなる。我々が丹精込めて作り上げた御神体の、君達は最後のパーツだ。最期の肉の一片、血の一滴、そして断末魔までも」
作り上げた御神体って……? そんなものを崇めて、この人達何が楽しいんだろう? それに、紅衣貌って人工的に作れるのだろうか? そうだとしたら、わざわざこんな気持ち悪い姿に仕上げた彼らの美的センスは破綻している。
第一、わたし達を喰わせたところで、この人面蛇に練識功が備わるとも思えない。
だが合点が行った。伊太池さん、ナヒトが、なぜわたし達のうちの『一人』に拘ったのか。
それは、怪物に喰わせるのは一人で十分だったからである。たとえここが練識功発動不可の場所であっても、複数で来られようものなら、彼らにとっては少々面倒でもあっただろう。
そもそも、オフィスで仕事を依頼した時点から、わたし達が総出で赴くことなど望んでもいなければ期待もしていなかったのだ。その上で後から『一人だけ』と持ち掛けた。
あの時、既にナヒトの策略通りになっていたとは、実に腹立たしい。
こうして大勢の松明の灯りの下、生きたままのわたし達を御神体に喰らわせる。実質的に御利益はないと思うが、いわゆる神聖な儀式のつもりなのだろう。
ただ殺すつもりなら、わたし達を途中で突き落とせば済むのだから。
「悪趣味だな。そんな胸糞悪いイベントに付き合う気はない。紗希、帰ろう」
「帰ろうって……逃げ道がないですよ?」
当然のように言ってきた軍曹に、わたしは小声で問い返す。
紅衣貌の後ろにかなり広い通路らしきものは見えるが、行くとしたらこの怪物のすぐ脇を突っ切る以外に手はない。どこへ通じているのかも不明で、しかも鉄格子の扉で塞がれている。そんな通路を、わざわざ危険を冒してまで逃げ道にするのは愚の骨頂である。
人面蛇が頭をもたげ、人ひとり丸呑みできるほどの大口で、牙を剥き出し迫って来た。
いくら何でも、練識功無しでは太刀打ちできない。わたしは死を覚悟した。
その瞬間、軍曹が跳んだ。
人面蛇が頭を低くした刹那を狙い、振り被った剣に勢いとスピードと渾身の力を乗せて振り下ろす。
ぐしゃあ、と水っぽく不快な音。
軍曹の剣はものの見事に人面蛇の頭を叩き割っていた。
練識功無しの、地の力だけでこの膂力⁉ 信じられない。
「知ってるよ」
答えた軍曹の形相が、今にも狼男に変身しそうなほど獰猛になった。
色めき立つアポカリプスの信者達。
「ないなら、作るまでだ」
軍曹は剣を振り、付着した人面蛇の脳漿を先程の男の方へと投げ付けた。
見せしめとしては効果絶大。お陰で(?)わたしも体の硬直が解けた。
ビキキキキ、と生々しい音を立てながら、なんと人面蛇の頭が再生してゆく。
再生する紅衣貌⁉ それもこんなに早く。
もちろん、悠長に再生完了まで観察しているつもりはない。
「莫迦な! 練識功が使えないはずなのに!」
脳漿を浴びせられた男も動揺を露にしていた。
練識功が発動できない原因を知りたいが、彼らがいちいちご丁寧に説明してくれるはずもないだろう。こちらとしても、そこまでの時間的余裕は持てない。この人面蛇、再生を終えればきっとまた動き出す。
「全力でついてこい」
言い放った軍曹はわたしが返事をするより早く、ダン! と地を蹴る。
まさか、この激長螺旋階段を駆け上げるつもり? しかも、敵が大勢いるのに。
軍曹の作戦を知る由もなく、わたしも遅れまいと後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる