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第四章 伝説編

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「三人……か…神の従者の他に三人の勇者…
この者達も捜し出さなきゃならないわけだな」


ルイスは品のいい顎に手を添え瞳を閉じると眉尻を上げふうっと溜め息を漏らした。

老師の語った言葉を噛み締めながら皆は肩を落とした。謎を解明する度に難しい問題が浮き彫りになっていく…


従者に使える三人の使者…

確か、夢の中でもその人達を集めろって言ってた…

でもどうやって捜し出せばいいの?


今のあたしでは力が足りない―――


“集めるのです

そなたに忠誠を誓う者達を――”



あたしに忠誠を誓う人達…


そんな人達…


どうやって見分けていったら…




「アル?…」

考え込むアルをロイドは心配そうに覗き込む。
アルはそんなロイドに無理に笑って見せた。


従者はあたしです!

なんてまだ、言えない…

だって何にも出来ないんだし、証明だってない。

ただ、…小さい頃からずっと不思議な夢を見ていただけなんだから…


笑いを浮かべたアルの顔は、また自然と曇っていった…


「そう考え込むでない…まだ序章の頁を読んだまで。

とにもかくにも博士にしっかりと訳してもらわんといかんじゃろう」



老師に言われ、皆の難しい表情が幾分か和らいだ。
確かに分厚い書物にはまだまだ、様々なことが記されているであろう。気負うのはまだ、早すぎる。

だが、気持ちの焦りはどうしようも出来ない。追加のお茶を注ぎながら一息つくと、直ぐにマークが訪れた。


「お! 来たな博士」

ルイスはマークの為に椅子を牽いた。


「第五章だ!!」

マークは書物の表紙を見るなり叫ぶと早速、頁を開く。先程、老師の聞かせた話の続きをマークは丁寧に声に出し読み上げた。


∬試練を受けるにふさわしき者達よ

光の剣の元に集え

全ての扉の鍵となり

全ての道を切り開く

神が選びし従者
その手の元に

光の剣の元に集え   ∬



―――…?

全ての扉の鍵!?…っ



マークの読み上げた言葉にルイス達ははっと息を止め顔を見合わせる。そして老師もルイスもロイドも同時にアルを見つめた。


アルはその気配にうつ向いていた顔を上げる。

「な…なに?
どうしたの皆?…」

アルは自分を見つめる皆の表情に驚きを隠せなかった。

“選ばれし者”

“名も無き村の生き残り”

“謎を解くとともに扉の鍵を難無く開けた古びた宝剣”



「そ、う…だったのか…っ」

ルイスは額に手を当てた。

「既成観念に捕われ過ぎていたようじゃな…」

「ああ、…戦う為に創られた神の従者だからてっきり……


いかつい男ばかりを想像してた…

まさかお前が…」


ルイスは大きく息を吸う。

「アルが神の従者だったとは──…っ」


―――…!

アルはルイスの言葉に目を見開いた。

やっと見つけた

やっと…


なのに心から喜べなかった。

アルを見つめるルイスの瞳には憂いの陰りが揺れていた…


まだ少女だ…


神はっ…あまりにも残酷だ


こんな少女の細身の肩にはいくら何でも荷が重すぎる!!



ルイスは頭を抱えて呟いた。

「お前が…従者だなんてっ…」

老師もロイドもアルを心配そうに見つめている。
アルは皆の視線にいたたまれずに目を伏せた…


「ご…めんなさ…」


噛み締めた唇が微かに震える…

やっぱりあたしじゃ…


頼りないよね…っ


張り詰めていた思いが一気に崩れた。

守りたくても守れなかった!

母さんも村の皆もっ…


村を出ることだけが精一杯で…

子供達に助けられてばっかりで…


そんなあたしが神の従者だなんて…っ…




「ごめんなさい…っ…

へへ…
がっかり…させちゃった」


顔を上げて呟き笑ったアルの頬が一気に歪む、堪えきれなかった涙は大きな雫となって瞬く間に溢れだした…


…ふっ…

ダメ…ここで泣いたら余計に頼りなく思われるっ…



「アル!

そんな泣き方をするな!!」


震える唇を止めたくて

無理に口を結ぶアルの顔が涙に溺れていくようだった。

ルイスは必死に涙を堪え、笑おうとするアルの顔を自分に向けた。

全てを抱え込もうとするアル…

そんなアルの泣き顔にルイスは胸を締め付けられる。

「アル…

勘違いをするな…」

後ろからもロイドの大きな手が、アルの後頭部を優しく包み込む。
ルイスはアルの頬を両手で挟むと優しく声を掛けた…


「何度も言った筈だ…

一人じゃない…

皆で守るんだろ?…」



嗚咽を堪えた唇が激しく歪む…そんなアルの姿が痛ましくて堪らない。

アルは自分自身が神の従者だと何時から気づいていたのだろうか?…


もしかすると…


ずっとその重圧に不安を感じて生きてきたのだろうか…


“選ばれし者”

“世界を救う者”

“唯一の存在”として…



ずっと、人知れずその重みに耐えてきたのかもしれない――

錆び付いた宝剣を手にした日から…

アルはきっと底知れぬ恐怖と向き合ってきたのでは…



恐ろしく切れ味のいい…

そしてレオの技からもその身を守った―――

それを目の辺りにしていた筈なのに…

気付くことができなかった…

まさか激しく錆び付いたこの剣が

神が与えた光の剣だなんて―――



「…お前は一人じゃない。
一人で…頑張るなっ

ちび達だって…
お前を守りたいって思ってる!! だから…な!」


ルイスはティム達にウインクした。



悔しそうに唇を噛み締め、涙を堪えるアルに攣られ瞳をうるませたティムが声を張り上げた。


「アル!!

アルはオイラ達っ…守ってくれたぞ!!

だから今度はオイラ達がっ…」

「僕達皆でアルを守るんだからっ!!―――」


涙を堪え過ぎて言葉が詰まったティムの代わりにマークが男らしく叫んだ。
泣き崩れそうな顔を引き締めてマークは小さな手でグーを握っている…


「マーク…っ」


アルの涙は余計に溢れた。

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