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第四章 伝説編

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ロイドは静かに口を開く…

「お前の好みは理解してる…」

「なら安心できるだろ!?」

「だから出来ないんだよ!」

「……っ…」

「お前が今まで遊んできた女を知ってる!──だから…気づくんだよ」

「──……」

「アルに向けたお前の目がっ…今までの女達に向けた瞳と違うことにどうしても気づくんだよっ!!」


力いっぱい訴えるロイドの瞳が不安に揺れる。その瞳に見つめられ、ルイス自身も戸惑いを露にしていた。

うろたえた視線が行き場を無くす…


ルイスは必死で言葉を探す。

「…お、前の…思い過ごしだろ…」


今のルイスにはこんな言葉しか思い浮かばなかった。

再び背を向けたルイスの後ろ姿をロイドは黙って見つめる。

今ここでルイスを責めても始まらない…


何故ならロイドにも分かるから。


ルイス自身が自分の想いに戸惑いを感じていることが分かるから…


ロイドは静かな溜め息をつくと艶やかな黒い前髪をくしゃりと鷲掴んだ。




────


「ちょっと風が出てきましたね…」

「…?」

屋根のあるアーチ型の庭園。役所の裏の小さな憩いの場、椅子に腰を下ろし何気なく溜め息をつくアルにそっと穏やかに声を掛ける…


その主はアレンだった。



「どうしたんですか? そんな溜め息ばかりついて?」

いつもと変わらぬ優しい笑みを向け、アレンは尋ねる。アルはそんなアレンをじっと見つめた…


「どうしました?…」

アレンは見つめたままのアルに戸惑いながら笑みを向け再度聞き返す…


「アレンも…」

「……?」

「アレンもやっぱりこ~んな女の人が好き?」


「………は!?」

アルの突飛な質問にアレンは驚声を上げた。


ははぁ…

もしや、ルイス殿ですね…


アルの悩みの根源が分かりアレンは苦笑いを溢す…


「好みとは…人それぞれだと思います…」

「それは分かるんだけど…

じゃあ…アレンの好みは?」

「わ、たしのですか?…


私は・・・」


アルに返され、とっさに空に何かを描き掛けたアレンの手が何故かピタッと止まった。




「やっぱりアレンもそんな感じの人が好みなんだ…」

途中まで描き掛けた手を慌てて引っ込めたアレンは気まずそうに詫びていた。

「なんで謝るの?」

「いや…ちょっと……」


聞き返され、アレンは微かにどもる…


「私…
もしかして今、大変いやらしい顔してますか?…」


「…べ、つに……」




ほんのりと赤らんでは居るが、別にいやらしさは感じない…

「な、んで?…」

アルは戸惑いながら不思議そうに尋ねた。


「いや…それならいいんです…」

焦りを悟られないようにアレンは作り笑いを向ける。アルは納得のいかない表情を浮かべていた…

「やっぱり男の人ならそうだよね…」

そう呟き溜め息を漏らすとアルは自然と頬を膨らませる。

…別に隊長さんの好みじゃなくたって…


ただ、思春期の女の子らしい悩みなのだろう…

誰にでもモテモテで。

羨望の眼差しを全身に浴びて。

目を見張る程に美しい…。


そんな憧れの的。。。


女の子なら一度は必ず夢見るだろう…



アルはそんな女の子を思い描き遠くを見つめた…




切ない溜め息を漏らすアルの横顔をアレンは見つめる。

アルは自分の美しさに気づいていない…


アルが思い描く理想の女の子

それはまんま、アル自身だということを―――


ロイドにルイスにレオ…


ルバールきっての男前達がこんなにも夢中になってしまう程の魅力

全てを手にしていることをアルはまったく気づいていない。

アレンだってそうだった。

何故なら先ほどアレンが空に描き掛けたのは、役所に飾られた《豊艶の女神》

……そう。アルの裸婦画を思い浮かべての動きだったからだ。

無駄のない若々しい躰のライン。
なのに付いている所にはしっかりと量感のある女性らしい曲線を持っている…



それ以上の何を求めると言うのだろうか…


「何をそんなに悩むんです?…」

アレンはアルの瞳を覗き込んだ。

「私が思うに…アルはとても贅沢過ぎます…」

「贅…沢って…」

近すぎるアレンの息を肌に感じる…



「アルは恐らくご自分の美しさに気付いていない…」

「…え?」


「…何なら…

私が教えて差し上げましょうか…」


艶めく声に吐息が混ざる…

アルを見つめるアレンの瞳が妖しく揺らいだ…


でた・・・


でたっ・・・


アルの瞳がギョッと見開く!!


切長の澄んだ瞳から艶香が滲む…

薄い口角に笑みを浮かべるアレンにアルは危険を覚えた―――


「良かったら今夜辺りどうです……」

「……なっ!?」


柔らかな物腰なのに異常に危険を感じる!



少しずつ身を乗り出し近づくアレンから、無理に躰を反らしたアルはそのまま椅子に倒れてしまった…

「ふ…
いくら何でも、ここではマズイでしょう?」


クスクスと笑いながらアレンは倒れたアルを起こし上げる。

もしかして…
またからかわれた?…


妖しさの消えた穏やかな笑みを向けられ、アルは白い目でアレンを密かに睨む…


アレンてやっぱり…

隊長さんの右腕だ………




アルはまた頬を膨らませていた…。

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