意地っ張りな天使

中村 心響

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耳元で響く声。まるですぐ傍に居るような錯覚が起きて理央を慌てさせる。

そんな理央の耳にピチャ…と、水分を含む音が繰り返し聞こえていた…


な、に…

「感じるか?……相変わらずこの程度で溢れさせるんだなお前は…」

「え……」


ジュッと強く吸引する音。そして溜め息を含む声音…

英二は瞳に妖しい笑みを浮かべると携帯を耳に充てたまま、自分の長い指先を口に含みねっとりと舌を滑らせた。

熱い唾液が絡みながら英二の男の指を濡らしていく…

まとわりつく唾液と這い回る肉厚な舌。


「あ…っ…英、二…っ」

理央は電話口で立てられる音の行為そのものを想像し、自分自身を強く握り締めていた。

「濡れてきたか」

「っ…はぁ……ああっ…すごっ」


強がる余裕がない。

自分のものを口内に含む英二の幻影が現れて下半身に顔を埋める。

スピーカーに切り替えられた携帯電話。
理央は自分をシゴク手を二本に増やし英二がいつもするようにして自分を責めた。



「お前は淫乱だから、こうされた方がよがるんだよな…」

「アアッ…ダメっ…英二…」

理央は英二の声に乱されて、自ら根元を圧迫して先端だけを上下させた。

「ふ…その声じゃもう濡れてるどころじゃないな理央。どれだけシーツを汚してる」

「…っ……」

…イイっもっ…すごく気持ちいっ…


もう英二の鳴らす濡れた舌の音も耳には届かない。

理央は自分が滴らす粘液でクチュクチュと摩擦の水音を淫らに立てて狂う。
英二は携帯を横に置くと、自慰に溺れる理央を双眼鏡で視姦し続けた。


「…………」

こういうのも結構…

興奮するもんだな……



前の刺激だけではやっぱり物足りず、後ろのすぼみに手を伸ばす理央を眺めていると、手放した英二の携帯から切な気な理央の声が漏れていた。


「…はぁ…英二っ…挿れてっ……」

アアァっ…もうやだっ

我慢できなっ…


理央は英二から丸見えの位置で尻を高く上げて両手ですぼみを開いた。

「理央…もっと広げてねだってみろ」


まるで自分の淫らな姿をありのままに見ているような英二の言葉。理央は盛ったメス犬のように英二に言われるまま腰を高く上げてピンク色の粘膜を両手で晒した。



距離を置いた向こう側で、頬を高揚させて身悶える恋人の姿に英二は思わず口に溜った唾液を飲み込む。

耳に届く理央の荒い息遣いに“早く早く”と強くせがまれているようで、英二自身も少しずつ張りを帯ていた。

「理央…」

「んっ………」

「俺が欲しいか?…」

「……っ…はぁっ…欲しっ…欲し…いっ」


「…ふ…じゃあ挿入てやるからもっとケツを開け…」

「……っ…」

「わかるだろ? 俺がどうしたら突っ込みやすいか」

――っ…

そんなこと…
もちろんわかってる

英二がどの位置からどの角度で動くかも…


英二の刻むリズムも…


「英…二っ……」


かすれた声で小さく囁く。

理央は英二とのセックスを思い出すと熱いため息を吐いた。

大好きな英二の声が自分に求められることを要望している―――

そう思うだけで理央の桜のすぼみがヒクリと痙攣を起こす。

今は触れられぬ英二の体温を思い浮かべると理央は一段と高く白い尻を突き上げてマットにへばり付くように顔を伏せた。




「はあ…英二……っ…英二ぃ……早く…あっ…」


待ちきれずにすぼみを開いていた理央の指がゆっくりと中に潜っていくと、理央は英二に為れているようにして粘膜の中を掻き回しはじめた。


止めようもなく指が這い、過敏に反応する部分を犯す。

そんな理央を魅惚れるように目にとめて英二は満足な笑みを口元に含んだ。


いつ見ても理央の乱れ狂う姿は絵になる。英二だけのとっておきの美術品。

額に収めたらどれだけの価値がするだろうか…

「あ…っ…英二っ…ふっ…」

「は…やっぱりお前は好きだな…気持ちいいかそんなに」

動きを躊躇う理央をいたずらに凌辱するとその声に合わせて理央の躰が大きく波を打つ。

「はっ…英二っ…ダメっ…すぐイッちゃ…」


「いいぜ…たまにはお前の好きに動いてみろ」


「んんっ…やっ…だ…英……っ…あ、あ、…もっ――!!っ…」

切迫詰まった理央の喘ぎが電話口から高く響き渡った。



シーツの上にほとばしらせた白濁の滴。

そしてその一瞬でしか見れない恍惚の入り交じる苦し気な理央の美しい表情。

泣き顔の次にお気に入りでもあるその顔を眺めると英二は携帯電話を静かに切った。

「はあ……英…二」

久し振りに全力で喘いだせいか喉が渇く。
理央は乱れる息を抑え、疲労を含む空ろな声で電話の向こうに話しかけた。



「英二? もしもし?……っ…」

――!っ…


無機質な機械の発する音だけが聞こえてくる。

汚してしまったシーツを暫し呆然と見つめると、今度は切られた携帯電話を理央はベッドに投げ付けた。


――…っ…何だよ英二のヤツ!!

「もう少し…っ…有るだろ!? 余韻を味わうとかっ…んだよバカっ…」

大きな独り言が口をついて出ると理央はそのまま、またベッドに伏せ込んだ。




ちょっと優しくして、何でいつもっ…いつもっ…


思わせぶりな言葉の後に必ず待ってる仕打ち。英二のお決まりの態度に腹を立てながら虚しさが後から後から溢れてくる。


気持ちよかった分だけ置いてけぼりな想いも疼き理央はシーツを抱き寄せて零れそうな涙を堪えた。

………やっぱり拗ねたか…

窓際に背を向けてベッドの上で蹲る理央の後ろ姿を見て英二はふうっとため息をついた。

切ったままの携帯にはまだ折り返しの電話は掛ってきては居ない。だがそれでよかった…

理央が電話を掛け直してきたとしても、英二は電話に出るつもりはない。

今の戯れはほんの気まぐれ。

悪ふざけをそう何度もしている暇はない。うつつを抜かしていると理央にとっても命に関わるかもしれない件が絡んでいるから……


そう自分に言い聞かせながら眉根を寄せて強いため息を吐く。

…やばいな…

「…俺にも刺激が強すぎた」

椅子に深々と腰を落とし英二は組んだ手の甲に額を押し当て苦み渋ったように舌を打つ。

そして感情を押し殺して呟いた。
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