9 / 40
1章
009.ゴブリン
しおりを挟む
朝起きた時、いつもと違う音が聞こえた。金属が何かを叩くような音。目をこすりながら起き上がり、若木の方を見てつい息を呑んでしまう。
そこには小柄な緑色の魔物──ゴブリンがいた。錆びた短剣を握り締め、俺の若木をひたすらに攻撃している。
「……おい! 何してんだ!」
思わず声をあげたがゴブリンは振り向きもせず若木を攻撃し続ける。まだそこまでダメージを受けていないようではあったが、葉が少し千切れ、幹には傷が刻まれている。
「いや待て、冷静になれ。所詮、ただの木だ……」
つい叫んでしまったが俺には魔力はあっても魔法はない。なのでゴブリンを攻撃する手段がない。襲われたらひとたまりもないだろう。だからわざわざ相手をする必要もない。
今は何故かは知らないがあの若木に攻撃がしているだけでこっちを襲ってくる様子はない。逃げるなら今だ。せっかく植えたアップルンたちも勿体無いがまた植えればいい。命には変えられない。
俺はもう一度、攻撃されている若木を見た。葉がちぎれ、幹には深い傷が刻まれている。その姿を見て、胸の中に奇妙な痛みが走った。
「ただの……木だろ……?」
頭の片隅でそう言い聞かせようとしている自分がいる。所詮は木だ。この土地に生える植物の一つに過ぎない。壊されたって大したことないはずだ。
「若木なんてまた植えればいい……」
そう頭で理解しているつもりなのに、足が動かない。
この若木は俺が生み出したものだ。この不毛の地で、俺が生き延びるために掴んだ希望の象徴だ。それをゴブリンが一方的に壊していく光景は、まるで俺の存在そのものを否定されているように感じた。
「ふざけんな……!」
気がついたら拳を握り締めゴブリンに突進していた。魔法は使えない。武器もない。それでもこのまま見ているだけなんてできるはずがない!
「やめろクソ野郎!!」
拳を振り上げ、ゴブリンの背中に叩きつけた。だが、ゴブリンはほとんど反応しない。小蝿が止まった程度にしか思っていないのか、振り向く気配すらない。
「このっ!」
何度も殴る。だが、そんなことを意に返さずゴブリンは短剣を振り下ろし、若木を切り裂いていく。俺の攻撃はまるで意味をなしていなかった。
「やめろよおおおおおおぉぉ!!」
苛立ちと無力感が交じり合い叫び散らす。ゴブリンは一瞬だけ俺に目を向けると、まるで邪魔者を払うように手を払った。
俺はその手に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。鈍い痛みが背中を走る。その間にもゴブリンは若木を攻撃し続ける。
一体こいつになんの恨みがあるって言うんだ! お前にとってはただの木だろうがっ……。
無力感に項垂れていると、ふと、自分の隣に生えている毒々しい色をした草が目に入った。地面に埋めていたポイズンリーフだ。それは触るだけで毒を持つ危険な植物だが、俺にはそれを使うしか方法がなかった。
「これで……どうだ!!」
俺はポイズンリーフをちぎり取り、今も若木に攻撃しているゴブリンの背後に飛びかかった。そのまま口をこじ開けて、無理やり毒草を押し込む。
「ぐぎゃあああっ!」
ゴブリンは毒の苦しみに耐えきれず、地面に倒れ込み、喉を押さえて暴れ始めた。俺は素早く横にそれてゴブリンの悪あがきから離れた。
ゴブリンはしばらくの間手足をジタバタさせて悶えていたが、そのまま体を痙攣させ、ついには完全に動かなくなった。
そこには小柄な緑色の魔物──ゴブリンがいた。錆びた短剣を握り締め、俺の若木をひたすらに攻撃している。
「……おい! 何してんだ!」
思わず声をあげたがゴブリンは振り向きもせず若木を攻撃し続ける。まだそこまでダメージを受けていないようではあったが、葉が少し千切れ、幹には傷が刻まれている。
「いや待て、冷静になれ。所詮、ただの木だ……」
つい叫んでしまったが俺には魔力はあっても魔法はない。なのでゴブリンを攻撃する手段がない。襲われたらひとたまりもないだろう。だからわざわざ相手をする必要もない。
今は何故かは知らないがあの若木に攻撃がしているだけでこっちを襲ってくる様子はない。逃げるなら今だ。せっかく植えたアップルンたちも勿体無いがまた植えればいい。命には変えられない。
俺はもう一度、攻撃されている若木を見た。葉がちぎれ、幹には深い傷が刻まれている。その姿を見て、胸の中に奇妙な痛みが走った。
「ただの……木だろ……?」
頭の片隅でそう言い聞かせようとしている自分がいる。所詮は木だ。この土地に生える植物の一つに過ぎない。壊されたって大したことないはずだ。
「若木なんてまた植えればいい……」
そう頭で理解しているつもりなのに、足が動かない。
この若木は俺が生み出したものだ。この不毛の地で、俺が生き延びるために掴んだ希望の象徴だ。それをゴブリンが一方的に壊していく光景は、まるで俺の存在そのものを否定されているように感じた。
「ふざけんな……!」
気がついたら拳を握り締めゴブリンに突進していた。魔法は使えない。武器もない。それでもこのまま見ているだけなんてできるはずがない!
「やめろクソ野郎!!」
拳を振り上げ、ゴブリンの背中に叩きつけた。だが、ゴブリンはほとんど反応しない。小蝿が止まった程度にしか思っていないのか、振り向く気配すらない。
「このっ!」
何度も殴る。だが、そんなことを意に返さずゴブリンは短剣を振り下ろし、若木を切り裂いていく。俺の攻撃はまるで意味をなしていなかった。
「やめろよおおおおおおぉぉ!!」
苛立ちと無力感が交じり合い叫び散らす。ゴブリンは一瞬だけ俺に目を向けると、まるで邪魔者を払うように手を払った。
俺はその手に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。鈍い痛みが背中を走る。その間にもゴブリンは若木を攻撃し続ける。
一体こいつになんの恨みがあるって言うんだ! お前にとってはただの木だろうがっ……。
無力感に項垂れていると、ふと、自分の隣に生えている毒々しい色をした草が目に入った。地面に埋めていたポイズンリーフだ。それは触るだけで毒を持つ危険な植物だが、俺にはそれを使うしか方法がなかった。
「これで……どうだ!!」
俺はポイズンリーフをちぎり取り、今も若木に攻撃しているゴブリンの背後に飛びかかった。そのまま口をこじ開けて、無理やり毒草を押し込む。
「ぐぎゃあああっ!」
ゴブリンは毒の苦しみに耐えきれず、地面に倒れ込み、喉を押さえて暴れ始めた。俺は素早く横にそれてゴブリンの悪あがきから離れた。
ゴブリンはしばらくの間手足をジタバタさせて悶えていたが、そのまま体を痙攣させ、ついには完全に動かなくなった。
167
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる