クズスキル、〈タネ生成〉で創ったタネが実はユグドラシルだった件

Ryoha

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1章

009.ゴブリン

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 朝起きた時、いつもと違う音が聞こえた。金属が何かを叩くような音。目をこすりながら起き上がり、若木の方を見てつい息を呑んでしまう。

 そこには小柄な緑色の魔物──ゴブリンがいた。錆びた短剣を握り締め、俺の若木をひたすらに攻撃している。

「……おい! 何してんだ!」

 思わず声をあげたがゴブリンは振り向きもせず若木を攻撃し続ける。まだそこまでダメージを受けていないようではあったが、葉が少し千切れ、幹には傷が刻まれている。

「いや待て、冷静になれ。所詮、ただの木だ……」

 つい叫んでしまったが俺には魔力はあっても魔法はない。なのでゴブリンを攻撃する手段がない。襲われたらひとたまりもないだろう。だからわざわざ相手をする必要もない。

 今は何故かは知らないがあの若木に攻撃がしているだけでこっちを襲ってくる様子はない。逃げるなら今だ。せっかく植えたアップルンたちも勿体無いがまた植えればいい。命には変えられない。

 俺はもう一度、攻撃されている若木を見た。葉がちぎれ、幹には深い傷が刻まれている。その姿を見て、胸の中に奇妙な痛みが走った。

「ただの……木だろ……?」

 頭の片隅でそう言い聞かせようとしている自分がいる。所詮は木だ。この土地に生える植物の一つに過ぎない。壊されたって大したことないはずだ。

「若木なんてまた植えればいい……」

 そう頭で理解しているつもりなのに、足が動かない。

 この若木は俺が生み出したものだ。この不毛の地で、俺が生き延びるために掴んだ希望の象徴だ。それをゴブリンが一方的に壊していく光景は、まるで俺の存在そのものを否定されているように感じた。

「ふざけんな……!」

 気がついたら拳を握り締めゴブリンに突進していた。魔法は使えない。武器もない。それでもこのまま見ているだけなんてできるはずがない!

「やめろクソ野郎!!」

 拳を振り上げ、ゴブリンの背中に叩きつけた。だが、ゴブリンはほとんど反応しない。小蝿が止まった程度にしか思っていないのか、振り向く気配すらない。

「このっ!」

 何度も殴る。だが、そんなことを意に返さずゴブリンは短剣を振り下ろし、若木を切り裂いていく。俺の攻撃はまるで意味をなしていなかった。

「やめろよおおおおおおぉぉ!!」

 苛立ちと無力感が交じり合い叫び散らす。ゴブリンは一瞬だけ俺に目を向けると、まるで邪魔者を払うように手を払った。

 俺はその手に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。鈍い痛みが背中を走る。その間にもゴブリンは若木を攻撃し続ける。

 一体こいつになんの恨みがあるって言うんだ! お前にとってはただの木だろうがっ……。

 無力感に項垂れていると、ふと、自分の隣に生えている毒々しい色をした草が目に入った。地面に埋めていたポイズンリーフだ。それは触るだけで毒を持つ危険な植物だが、俺にはそれを使うしか方法がなかった。

「これで……どうだ!!」

 俺はポイズンリーフをちぎり取り、今も若木に攻撃しているゴブリンの背後に飛びかかった。そのまま口をこじ開けて、無理やり毒草を押し込む。

「ぐぎゃあああっ!」

 ゴブリンは毒の苦しみに耐えきれず、地面に倒れ込み、喉を押さえて暴れ始めた。俺は素早く横にそれてゴブリンの悪あがきから離れた。

 ゴブリンはしばらくの間手足をジタバタさせて悶えていたが、そのまま体を痙攣させ、ついには完全に動かなくなった。

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