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第二話 ゾーイ・クラウン
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私の名前はゾーイ・クラウン。
このクラウン王国の第二王女で、先日行われた成人の義を終えて無事、王家の新しい成人として迎えられることとなった。
貴族は一般的に、15歳になる年に成人の義を行い、それが終わると各家の正式な一員として迎えられる。
爵位の低い家や、人手が少ない家にとっては、その子供たちも成人に満たない年齢から家の運営の一部に組み込まれているということもあり、数ある通過儀礼の一つに過ぎないものなのだが、一部の爵位の高い家など、有力貴族にとってはその意味も違った形を表す。
まず、成人として迎えられることによって発生する一番大きな事柄は、結婚が可能になるという点だ。
貴族の中には、成人に満たない間に婚約者を見つけるということも少なくはないが、あくまでそれは婚約であり、結婚できるというわけではない。
そのため、名家の子供が成人すると、多方から結婚や見合いの申し込みが後を立たなくなる。
また、実際に自家の名前を背負って表舞台に立つことができるのも成人になってからである。
クラウン王国は王家がその最大の統治権を持っている。
しかし現在、多くの有力貴族の団結と、クラウン国王である父の病気により、実質的な統治権がその貴族たちに移りつつある。
父が拒否したはずの議案が強引に通り施行されてしまうというような、王家と貴族という縦関係を真っ向から否定する事実も出てきてしまっているほどだ。
それほどに王家の力は弱まっており、このままいくと貴族と王家の力関係がひっくり返るのも時間の問題だ。
私は数年前から王家の弱まりというものを直に感じていた。
王城の中の人間も随分と少なくなった。
この未聞の王家の衰弱の一因を担っているのが私という自覚もある。
有力貴族の跡取りらが多く通う学園で、私は落ちこぼれた。
貴族の子息たちは、ほとんど例外なく何かに秀でている。
剣術、魔法、勉学、その種類は人それぞれであるが、特徴と呼べるような何かしらの芸を持っているのだ。
しかし私ときたらどうだろう。
剣術はおろか運動すらもまともにできず、魔法もダメ。おまけに勉強もいまいち。
私が王女ということもあり、皆直接は口にしないが、周りの生徒や教師たちの目は時が経つにつれ、期待から失望、王家への疑念へと変わっていった。
自分の中に縋るものがなかった私は、その圧力に耐えることができなかった。
私は学園に通わなくなり、自室に引き篭もるようになった。
何をする気も起きない毎日でも、お腹だけは空いた。
頭を使わなくても、甘いものは欲しくなった。
今、真下に目線を下げてもそこに地面はない。
あるのは、暴飲暴食の賜物。脂肪の塊。エネルギーの宝庫だ。
幼い頃から知っている従者たちの励ましや、なにより父が病気で倒れたことが決め手となり、なんとか自室から這い出すことはできたが、何かが進んだかといえばそうではない。
成人になると変わることがもう一つある。
それは、専属執事がつくことだ。
弱小の家だと、それをしないところもあるようだが、ほとんどの貴族は専属執事を迎える。
これも一人の貴族として認められているからだ。
この成人の儀に合わせて、王立執事養成学校の卒業式も行われるため、成績の良い執事の卵はあらゆる貴族から引っ張りだことなる。
王家では、主席卒業をした生徒を王家の子息の専属執事として迎えることを慣例としていた。
王家の力が弱まっている今、その慣例も無くなってしまうのではないかと危惧していたが、建前がある以上、それほど露骨な干渉は避けたようで、私の専属執事にも主席卒業した生徒が就くことになったと聞いた。
私は今、おそらく父がいるであろう、玉座の間に向かっていた。
人が少なくなった無駄に広い廊下に、私の靴が床を叩く音だけが寂しげに響く。
この廊下に長くいると、自分まで寂しさに包まれてしまいそうで、私は玉座の間まで走った。
歩を進める度に、私の腹についたわがままに呼応するように丸い巨体が揺れる。
暫くすると、これも無駄に大きな扉が現れた。
玉座の間とを隔てる扉は、その内部と同様に、これでもかと装飾が散りばめられているが、王家の現状を鑑みると、それすらも皮肉に感じてしまう。
私は見た目ほどには重くないを大胆に開いた。
「お父様!」
玉座にポツンと座る父は、いつも以上に弱々しく見えた。
「私の専属執事は決まりましたの?」
私がそう声をかけると、父は手に持った一枚の紙をひらひらと靡かせた。
私はその紙を手に取り中を見る。
『リーベル・オーネット』
その文字の下には、いかにも好青年そうな少年がいた。
私の専属執事になるということは、学校を主席で卒業したということだ。
この学校はコネや賄賂でどうにかできるような場所でもないのは周知の事実なので、優秀であることに間違いはない。
私は心の奥で、王家は今後どうなるのか心配していたことを自覚した。
たかが執事に、何かを変えてくれないかという、淡い期待を抱いていることに気がついたからだ。
このクラウン王国の第二王女で、先日行われた成人の義を終えて無事、王家の新しい成人として迎えられることとなった。
貴族は一般的に、15歳になる年に成人の義を行い、それが終わると各家の正式な一員として迎えられる。
爵位の低い家や、人手が少ない家にとっては、その子供たちも成人に満たない年齢から家の運営の一部に組み込まれているということもあり、数ある通過儀礼の一つに過ぎないものなのだが、一部の爵位の高い家など、有力貴族にとってはその意味も違った形を表す。
まず、成人として迎えられることによって発生する一番大きな事柄は、結婚が可能になるという点だ。
貴族の中には、成人に満たない間に婚約者を見つけるということも少なくはないが、あくまでそれは婚約であり、結婚できるというわけではない。
そのため、名家の子供が成人すると、多方から結婚や見合いの申し込みが後を立たなくなる。
また、実際に自家の名前を背負って表舞台に立つことができるのも成人になってからである。
クラウン王国は王家がその最大の統治権を持っている。
しかし現在、多くの有力貴族の団結と、クラウン国王である父の病気により、実質的な統治権がその貴族たちに移りつつある。
父が拒否したはずの議案が強引に通り施行されてしまうというような、王家と貴族という縦関係を真っ向から否定する事実も出てきてしまっているほどだ。
それほどに王家の力は弱まっており、このままいくと貴族と王家の力関係がひっくり返るのも時間の問題だ。
私は数年前から王家の弱まりというものを直に感じていた。
王城の中の人間も随分と少なくなった。
この未聞の王家の衰弱の一因を担っているのが私という自覚もある。
有力貴族の跡取りらが多く通う学園で、私は落ちこぼれた。
貴族の子息たちは、ほとんど例外なく何かに秀でている。
剣術、魔法、勉学、その種類は人それぞれであるが、特徴と呼べるような何かしらの芸を持っているのだ。
しかし私ときたらどうだろう。
剣術はおろか運動すらもまともにできず、魔法もダメ。おまけに勉強もいまいち。
私が王女ということもあり、皆直接は口にしないが、周りの生徒や教師たちの目は時が経つにつれ、期待から失望、王家への疑念へと変わっていった。
自分の中に縋るものがなかった私は、その圧力に耐えることができなかった。
私は学園に通わなくなり、自室に引き篭もるようになった。
何をする気も起きない毎日でも、お腹だけは空いた。
頭を使わなくても、甘いものは欲しくなった。
今、真下に目線を下げてもそこに地面はない。
あるのは、暴飲暴食の賜物。脂肪の塊。エネルギーの宝庫だ。
幼い頃から知っている従者たちの励ましや、なにより父が病気で倒れたことが決め手となり、なんとか自室から這い出すことはできたが、何かが進んだかといえばそうではない。
成人になると変わることがもう一つある。
それは、専属執事がつくことだ。
弱小の家だと、それをしないところもあるようだが、ほとんどの貴族は専属執事を迎える。
これも一人の貴族として認められているからだ。
この成人の儀に合わせて、王立執事養成学校の卒業式も行われるため、成績の良い執事の卵はあらゆる貴族から引っ張りだことなる。
王家では、主席卒業をした生徒を王家の子息の専属執事として迎えることを慣例としていた。
王家の力が弱まっている今、その慣例も無くなってしまうのではないかと危惧していたが、建前がある以上、それほど露骨な干渉は避けたようで、私の専属執事にも主席卒業した生徒が就くことになったと聞いた。
私は今、おそらく父がいるであろう、玉座の間に向かっていた。
人が少なくなった無駄に広い廊下に、私の靴が床を叩く音だけが寂しげに響く。
この廊下に長くいると、自分まで寂しさに包まれてしまいそうで、私は玉座の間まで走った。
歩を進める度に、私の腹についたわがままに呼応するように丸い巨体が揺れる。
暫くすると、これも無駄に大きな扉が現れた。
玉座の間とを隔てる扉は、その内部と同様に、これでもかと装飾が散りばめられているが、王家の現状を鑑みると、それすらも皮肉に感じてしまう。
私は見た目ほどには重くないを大胆に開いた。
「お父様!」
玉座にポツンと座る父は、いつも以上に弱々しく見えた。
「私の専属執事は決まりましたの?」
私がそう声をかけると、父は手に持った一枚の紙をひらひらと靡かせた。
私はその紙を手に取り中を見る。
『リーベル・オーネット』
その文字の下には、いかにも好青年そうな少年がいた。
私の専属執事になるということは、学校を主席で卒業したということだ。
この学校はコネや賄賂でどうにかできるような場所でもないのは周知の事実なので、優秀であることに間違いはない。
私は心の奥で、王家は今後どうなるのか心配していたことを自覚した。
たかが執事に、何かを変えてくれないかという、淡い期待を抱いていることに気がついたからだ。
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