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第三章 ザハラ王国編
エピローグ2 〜 幸せは、ここに 〜
いよいよ別れの時がやってきた。
背後では、サリーム王がカインに抱きついて別れを惜しんでる。
「ねえ、カイン……君まで帰ることないじゃないか。ずっと、ここにいればいいのに。何も不自由させないよ」
そんなサリームを見守るレイラ姉さんの瞳が、とても優しい。
「私も、あんなふうにロイドを引き止めるべきかしら? ロイドは、もうザハラの王族として認められてるのだし」
「どうしようかな……そんなふうに言うなら、ここに残ろうかな」
「ふふっ、そんなわけないでしょう……ほら、ルシアンさんがこっちを見てるわ」
俺は、慌てて振り返った。
……ルシアン、そんな心配そうな顔をするなよ。
俺と姉さんは、それぞれの故郷で新しい時代を見届けると約束した。
あれだけあった魔力も魔法陣に吸い尽くされ、今ではわずかに残るだけ。まあ……普通になったってことかな。
けれど、神々の声はもう聞こえない。
でも、声が聞こえないってことは、もう神々の力は必要ないってこと。それが、平和ってことだ。
そして、俺はラクロス国へ戻る。そこで、これからの人生を彼と一緒に歩んでいきたいから。
……そうだろう、ルシアン?
今日、その想いを彼に伝えたら、ルシアンがぽつりと呟いた。
(私もこの国に残って……ロイドと一緒に新しい土地で暮らすってのもいいかもな。戦もない、王族だ貴族だなんてしがらみもなく二人きり。朝起きれば、まずお前に口づけて、夜はお前を腕に抱いて眠る──そんな暮らしもいいかもな)
あの時の、ルシアンの甘い表情ときたら……
「ロイドどうしたの? 顔が真っ赤よ!?」
姉さん、頼むから、ルシアンの前でそんなことをバラさないで。
姉さんはイタズラっぽく微笑みながら、俺の髪を撫でた。
「ロイド……ルシアンさんと幸せになってね。次に来るときは一緒にね?」
「もちろん。また、すぐに会えるよ」
「そうね。ザハラで船が造れるようになったら、真っ先にあなたに会いにゆくわ」
姉さんに抱きしめられると、ふわっと柔らかな香りが鼻先を掠めた。
離れるのが寂しい……その気持ちが伝わってくる。
「ロイド、そろそろ出航だ……」
「……わかった」
ルシアンの声に振り返ると──
んっ? ルシアンが片膝をついて、俺を見上げてる?
すると、みんなが俺たちの周りにわらわらと集まってきた。
お前ら……何をそんなにニヤニヤしてるんだよ?
ルシアンが、俺に向かって片手を差し出した。
「ロイド、お前だけを一生愛すると誓う。だから、どうか……」
その瞬間、俺は息をするのも忘れてルシアンを見つめた。
「私の黒狼……その心を私にくれないか」
ルシアンが俺の手を取って、指先に口づけた。
こ、これは……もしかして求婚されてる!?
そう気づいた瞬間、俺は耳の先まで真っ赤になった。
辺りはしんと静まり返って、みな固唾を呑んで俺の返事を待っている。
俺は、どうすれば……いい?
── パン、パンッ!
その時、誰かが手を叩く音がして、たちまち俺たちは拍手と歓声に包まれた。
「ロイド、おめでとう!」
「ルシアン団長、長かったっすね! やっと想いが叶いましたね!」
「お似合いだぞ!」
俺は、一瞬たじろいだ。
「ルシアン、正気か……俺なんかでいいのか?」
「お前こそもうザハラの王族じゃないか。それでも……私のような、辺境貴族にすぎない男でも良いだろうか……」
「何を言ってるんだよ!」
俺だって、ルシアン、お前がいい。
もう二度と……お前を諦めたくない!
でも、まだ一抹の不安が過ぎる──俺たち、男どうしだぞ?
それに、親父どのがなんて言うか……
おそるおそる振り向けば、そこでは親父どのが手を叩きながら、満面の笑みを浮かべていた。
隣にいるセリーヌ夫人の肩をぐいっと抱き寄せて、頷いてくれる。
それって……どういうこと?
すると、ルシアンも負けじと俺の肩を抱き寄せた。
「ほら見ろ、父上も義母上も、あんなに祝ってくれてる」
「義母上って……えっ、親父どのとセリーヌ夫人が?!」
いつの間に……でも、良かったな。
二人の、互いを見る目がとても温かい。
俺は、ゆっくりと周りを見回した。
レイラ姉さん、サリームとカイン、エリスにトビアス、そして大勢の仲間たちが、俺たちを祝ってくれる。みな笑顔で、幸せそうで、希望に満ちて……
ああ、そうか……俺は、ずっとこんな光景が見たかったんだ。
すると、ジェイが俺に大声で叫んだ。
「ロイド、さっさと返事をしてやれよ!団長の顔が引き攣ってきたぞ!」
「……えっ?」
でも……こんな大勢の前で、なんて答えればいいんだ。
こんなに胸が熱くて、想いが溢れそうなのに……うまい言葉がみつからない。
だがら、俺はルシアンの襟元を引き寄せて──口づけた。
その瞬間、周囲から悲鳴のような歓声が上がった。
藍色の瞳が、一瞬、大きく見開かれ、すぐに嬉しそうに輝く。
その潤んだ瞳の中で、星が静かに流れていった。
◆
バタン!
ドアが閉まる音も、もう聞こえなかった。
俺たちはもつれ合うようにして船室に転がり込むと、互いを求め合った。
ああ、やっと……俺だってずっと我慢してたんだ!
甘い口づけも、俺の名を呼ぶその声も、そして、俺だけを見つめているその藍色の瞳も──すべて俺のものだ。
「ロイド……そんなに煽られたら、優しくできない……」
「んっ、いいよ……お前になら、なにをされたって……」
熱に浮かされたように囁くと、ルシアンの瞳から理性の光が吹き飛んだ。
「……ロイドっ!」
壁に背を押しつけられ、唇を塞がれた。
熱い手のひらが、俺の髪をかき乱す。
もっと、触れたい……もっと……感じたい……
夢中になって、彼の肌に手を這わせた。
「ロイド……待て、待てって!」
不意に腕を引かれ、身体がくるりと反転した。
頬に冷たい壁が触れて、彼の腕の中に閉じ込められる。
ルシアンが、俺の背に熱い肌を押しつけながら、息を吐く。
「……ダメだ……このままじゃ、抑えきれなくなる……」
耳元に落ちる息が荒い。
爆発しそうな感情を、必死に抑えようとしているようだ。
「……顔が、見えない……」
「こうしないと……優しくできそうにない……」
「そんなこと……」
「……いきなりは、さすがに無理だろ……ゆっくり、触れたい……」
「……今更だよ……」
掠れた声が、自分のものじゃないみたいだ。
彼が唾を呑みこむ気配がした。
指先がそっと背に触れた。指先が撫でる跡を、すぐに濡れた舌先がなぞってゆく。触れられるたびに喉がひくりと震えて、微かな喘ぎが溢れた。
微かな疼きが少しずつ膨らんで、やがて大きな塊となって暴れ出した。その激しさに堪えきれず、俺は壁に額を擦りつける。
「……あぁっ……」
指先が尻の割れ目をなぞり、深く潜り込んできた。固く閉じた蕾にそっと触れられ……目の前に火花が散った。
蕾の縁を優しく撫でられると──恥ずかしさで、涙が出そうになった。
「や……やだ、っ……」
「我慢して……少し準備するから……」
耳に息が吹き込まれて、びくっと身体が震えてしまう。
次の瞬間──彼の指先が、つぷっと俺の中に潜り込んだ。
「あ、あっ……っ……」
下半身に、甘く痺れるような感覚が走る。
これ……魔力だ……
固く閉じていた蕾がゆっくりと開き、彼の指を柔らかく包み込む。
グチュッ、と濡れた音がするようになった頃には、もう喘ぐことしかできなくなっていた。
「気持ちよさそうだ……義母上に教えてもらっておいて、よかったよ……」
それって、まさかセリーヌ夫人に……?!
俺は、本気で泣きそうになった。
指が増やされて、少しずつ中を広げられる。
見られてる……今にも蕩けて崩れてしまいそうになる。
「ロイド……ロイド……」
俺を怖がらせないようにと……耳元で囁く声が、俺の名を繰り返す。
その優しさが、俺の胸を焦がしてゆく。
……けれど、その指先は容赦無く、甘く俺を苛みつづける。
もう片方の手が、迷うように俺の肌を彷徨い出す。
けれど、欲しいところには触れてくれない。
一瞬の期待……その度に裏切られ……それが何度も繰り返される。
もどかしさを堪えきれず、気づけば、強請るように腰を揺らしていた。
「……ル、シアン……っ」
顎を掴まれ、彼の方へと強引に顔を向けさせられる。
藍色の瞳はすでに欲望に呑まれ、どこか意地悪な光を放っていた。
「ロイド……こんなに乱れるなんて……感じてるのか……?」
「くっ……そんな……」
「ほら、言ってごらん……ここは……?」
彼の指先が、俺を暴いた。
「あっ!」
全身に甘い痺れが走った、その時。
心の奥に、ゆっくりと仄暗い影が立ち昇ってきた── 抑えつけられ、弄られ、辱められた、あの忌まわしい記憶が。
「あ……」
息ができなくなった。今、自分がどこにいるのかもわからない。
肌を這う指先が急に冷たく感じられ、背後に聞こえる荒い息遣いが、嫌でもあの時の感覚を呼び覚ます。
俺は、まだあの男に囚われたままなのか……
気づけば、見えない影から逃れようと、目の前の壁を掻きむしっていた。
「ロイド!……ロイド!」
後ろから温かい腕が回されて、俺の身体はルシアンに優しく包み込まれた。
背に彼の温もりを感じると、それまで強張っていた身体から一気に力が抜けていった。
「ルシアン……俺っ……」
「すまない、虐めすぎたな……」
ルシアンが、俺の肩に顔を埋める。
肩先が彼の温かな涙に濡れた。
「もう、誰にも触れさせやしない……お前は、私だけのものだ」
その切ない声に振り向くと、噛みつくように口づけられた。
逞しい腕が俺を抱きしめ、深く舌を絡ませてくる。
「ふっ、ん……ル、シアン……」
彼の名を呼ぶと、潤んだ瞳に再び光が灯った。
その光の中で、俺は蕩けるような顔をしていた。
「あぁ、ロイド……そんな顔、私以外、誰にも見せるなよ……!」
逞しい腕に抱き寄せられ、甘い疼きが身体中を駆け巡る。
喉から漏れるのは、甘い喘ぎ声だけ。
「ごめん、ロイド……もう、我慢できない……」
俺の後ろで、ルシアンの熱い欲望が、俺を貫きたいというようにビクッと震えている。
「……っ!」
両手で荒々しく尻を割り開かれ、息が詰まるほど奥深くまで押し込まれて、
一瞬、目の前が真っ白になった。
「あぁっ……!」
俺の腹の奥深くで、彼の欲望が激しく脈打っている。それなのに、彼は俺を抱きしめたまま動こうとしない。
熱く荒い息が、耳に触れる。
「ロイド……もう、お前を離さない。こうやって抱きしめて、どんな苦しみからも守ってやる……だから、もう、泣くな」
振り向くと、藍色の瞳が潤んでいた。
「……っ、泣いてるのは、お前だろ」
「これは、嬉し涙だからいいんだ」
絡める視線から、彼の想いが伝わってくる。
(愛してるよ……ロイド……)
ああ……俺は、こんなにも愛されてる。
俺の銀狼《シルバー》──お前が、心から愛しいよ。
胸が熱い。想いが溢れて、もう止めることができない。
互いに微笑みあって、また唇を重ねる──彼の欲望が、俺の中でびくっと蠢いた。
あぁ、俺も……お前のすべてが、欲しい!
◆
俺の中でルシアンが猛々しく暴れ狂う。
突き上げられるたび、悦びが身体中を駆け巡る。
「……もっと……もっと、奥まで……」
もっと……愛して……
身体が勝手に跳ね回る。
自分から脚を大きく広げ、尻を上げる。もっと深いところへと彼を誘おうとして。
「あ、あっ……ルシアンっ……ルシアン……っ!」
俺は壊れた玩具みたいに、ひたすらルシアンの名を呼び続けた。
彼の名を口にするたび、あの忌まわしい影が薄れてゆく。
身体の奥深くに彼を感じるたび、不安や恐れが消えてゆく。
「あぁ、ロイド……もう……イっ……!」
突然、ルシアンの動きが切羽詰まったように激しくなった。
彼が身体を震わせて──
……っ!
一瞬、真っ白な光に包まれた──
その瞬間
心の片隅で、何かがパリンと音を立てた。
あの忌まわしい記憶が、粉々に砕けて消えていく。
あいつに与えられた痛みも、屈辱も、悲しみも── もう、何も感じない。
あいつが最期に見せた微笑みも、記憶の彼方へ静かに消えていった。
今、俺の胸に残っているのは、たった一つの想いだけ。
……ルシアン、愛してる。
◆
俺たちは抱き合ったまま、一緒に毛布に包まって、朝焼けが空の色を変えてゆくのを眺めていた。
肌に散らされた無数の口づけの跡に、身体の奥に残る微かな痛み。その全てが、昨夜の行為のすべてを物語っていて──ものすごく恥ずかしい。
「昨夜は、どうだった?」
こめかみに柔らかく口づけられ、そんなことを聞かれると、心まで擽られてるようで照れ臭くなる。
まさか、お前がこんなに甘いなんて思わなかったよ……
俺は恥ずかしさに打ち震えてるっていうのに、ルシアンはのんびり空を仰いでいる。
「あぁ、夢みたいだ……お前と、こんなふうに朝を迎えられるなんて」
そう呟く彼が愛しくて、乱れた髪をそっと梳いてやる。
「俺だって……」
俺はルシアンの手を取って自分の胸に重ねた。
「まだこんなにドキドキしてる。お前を見るたび、こうなってしまうんだ。きっと、これからだって……ずっと」
すると、ルシアンが俺の肩に崩れ落ちて、呻くように言った。
「ロイド……今すぐ、部屋に戻ろう」
「なに言ってんだよ……もう散々したじゃないか……」
「お前はいつも私を狂わせる……そのことが、ちっともわかってない!」
「大袈裟だな……ほら見ろよ、陽が昇ってきたぞ」
朝の光が水面に煌めき、世界がゆっくりと目を覚ます。
温かな光が、俺たちを照らす。
ルシアンが、ぽつりと呟いた。
「こんな美しい朝焼け、見たことない……」
俺の心にも、温かな光が射し込んでくる。
ルシアン、お前に伝えたい──
俺、幸せだ
完
背後では、サリーム王がカインに抱きついて別れを惜しんでる。
「ねえ、カイン……君まで帰ることないじゃないか。ずっと、ここにいればいいのに。何も不自由させないよ」
そんなサリームを見守るレイラ姉さんの瞳が、とても優しい。
「私も、あんなふうにロイドを引き止めるべきかしら? ロイドは、もうザハラの王族として認められてるのだし」
「どうしようかな……そんなふうに言うなら、ここに残ろうかな」
「ふふっ、そんなわけないでしょう……ほら、ルシアンさんがこっちを見てるわ」
俺は、慌てて振り返った。
……ルシアン、そんな心配そうな顔をするなよ。
俺と姉さんは、それぞれの故郷で新しい時代を見届けると約束した。
あれだけあった魔力も魔法陣に吸い尽くされ、今ではわずかに残るだけ。まあ……普通になったってことかな。
けれど、神々の声はもう聞こえない。
でも、声が聞こえないってことは、もう神々の力は必要ないってこと。それが、平和ってことだ。
そして、俺はラクロス国へ戻る。そこで、これからの人生を彼と一緒に歩んでいきたいから。
……そうだろう、ルシアン?
今日、その想いを彼に伝えたら、ルシアンがぽつりと呟いた。
(私もこの国に残って……ロイドと一緒に新しい土地で暮らすってのもいいかもな。戦もない、王族だ貴族だなんてしがらみもなく二人きり。朝起きれば、まずお前に口づけて、夜はお前を腕に抱いて眠る──そんな暮らしもいいかもな)
あの時の、ルシアンの甘い表情ときたら……
「ロイドどうしたの? 顔が真っ赤よ!?」
姉さん、頼むから、ルシアンの前でそんなことをバラさないで。
姉さんはイタズラっぽく微笑みながら、俺の髪を撫でた。
「ロイド……ルシアンさんと幸せになってね。次に来るときは一緒にね?」
「もちろん。また、すぐに会えるよ」
「そうね。ザハラで船が造れるようになったら、真っ先にあなたに会いにゆくわ」
姉さんに抱きしめられると、ふわっと柔らかな香りが鼻先を掠めた。
離れるのが寂しい……その気持ちが伝わってくる。
「ロイド、そろそろ出航だ……」
「……わかった」
ルシアンの声に振り返ると──
んっ? ルシアンが片膝をついて、俺を見上げてる?
すると、みんなが俺たちの周りにわらわらと集まってきた。
お前ら……何をそんなにニヤニヤしてるんだよ?
ルシアンが、俺に向かって片手を差し出した。
「ロイド、お前だけを一生愛すると誓う。だから、どうか……」
その瞬間、俺は息をするのも忘れてルシアンを見つめた。
「私の黒狼……その心を私にくれないか」
ルシアンが俺の手を取って、指先に口づけた。
こ、これは……もしかして求婚されてる!?
そう気づいた瞬間、俺は耳の先まで真っ赤になった。
辺りはしんと静まり返って、みな固唾を呑んで俺の返事を待っている。
俺は、どうすれば……いい?
── パン、パンッ!
その時、誰かが手を叩く音がして、たちまち俺たちは拍手と歓声に包まれた。
「ロイド、おめでとう!」
「ルシアン団長、長かったっすね! やっと想いが叶いましたね!」
「お似合いだぞ!」
俺は、一瞬たじろいだ。
「ルシアン、正気か……俺なんかでいいのか?」
「お前こそもうザハラの王族じゃないか。それでも……私のような、辺境貴族にすぎない男でも良いだろうか……」
「何を言ってるんだよ!」
俺だって、ルシアン、お前がいい。
もう二度と……お前を諦めたくない!
でも、まだ一抹の不安が過ぎる──俺たち、男どうしだぞ?
それに、親父どのがなんて言うか……
おそるおそる振り向けば、そこでは親父どのが手を叩きながら、満面の笑みを浮かべていた。
隣にいるセリーヌ夫人の肩をぐいっと抱き寄せて、頷いてくれる。
それって……どういうこと?
すると、ルシアンも負けじと俺の肩を抱き寄せた。
「ほら見ろ、父上も義母上も、あんなに祝ってくれてる」
「義母上って……えっ、親父どのとセリーヌ夫人が?!」
いつの間に……でも、良かったな。
二人の、互いを見る目がとても温かい。
俺は、ゆっくりと周りを見回した。
レイラ姉さん、サリームとカイン、エリスにトビアス、そして大勢の仲間たちが、俺たちを祝ってくれる。みな笑顔で、幸せそうで、希望に満ちて……
ああ、そうか……俺は、ずっとこんな光景が見たかったんだ。
すると、ジェイが俺に大声で叫んだ。
「ロイド、さっさと返事をしてやれよ!団長の顔が引き攣ってきたぞ!」
「……えっ?」
でも……こんな大勢の前で、なんて答えればいいんだ。
こんなに胸が熱くて、想いが溢れそうなのに……うまい言葉がみつからない。
だがら、俺はルシアンの襟元を引き寄せて──口づけた。
その瞬間、周囲から悲鳴のような歓声が上がった。
藍色の瞳が、一瞬、大きく見開かれ、すぐに嬉しそうに輝く。
その潤んだ瞳の中で、星が静かに流れていった。
◆
バタン!
ドアが閉まる音も、もう聞こえなかった。
俺たちはもつれ合うようにして船室に転がり込むと、互いを求め合った。
ああ、やっと……俺だってずっと我慢してたんだ!
甘い口づけも、俺の名を呼ぶその声も、そして、俺だけを見つめているその藍色の瞳も──すべて俺のものだ。
「ロイド……そんなに煽られたら、優しくできない……」
「んっ、いいよ……お前になら、なにをされたって……」
熱に浮かされたように囁くと、ルシアンの瞳から理性の光が吹き飛んだ。
「……ロイドっ!」
壁に背を押しつけられ、唇を塞がれた。
熱い手のひらが、俺の髪をかき乱す。
もっと、触れたい……もっと……感じたい……
夢中になって、彼の肌に手を這わせた。
「ロイド……待て、待てって!」
不意に腕を引かれ、身体がくるりと反転した。
頬に冷たい壁が触れて、彼の腕の中に閉じ込められる。
ルシアンが、俺の背に熱い肌を押しつけながら、息を吐く。
「……ダメだ……このままじゃ、抑えきれなくなる……」
耳元に落ちる息が荒い。
爆発しそうな感情を、必死に抑えようとしているようだ。
「……顔が、見えない……」
「こうしないと……優しくできそうにない……」
「そんなこと……」
「……いきなりは、さすがに無理だろ……ゆっくり、触れたい……」
「……今更だよ……」
掠れた声が、自分のものじゃないみたいだ。
彼が唾を呑みこむ気配がした。
指先がそっと背に触れた。指先が撫でる跡を、すぐに濡れた舌先がなぞってゆく。触れられるたびに喉がひくりと震えて、微かな喘ぎが溢れた。
微かな疼きが少しずつ膨らんで、やがて大きな塊となって暴れ出した。その激しさに堪えきれず、俺は壁に額を擦りつける。
「……あぁっ……」
指先が尻の割れ目をなぞり、深く潜り込んできた。固く閉じた蕾にそっと触れられ……目の前に火花が散った。
蕾の縁を優しく撫でられると──恥ずかしさで、涙が出そうになった。
「や……やだ、っ……」
「我慢して……少し準備するから……」
耳に息が吹き込まれて、びくっと身体が震えてしまう。
次の瞬間──彼の指先が、つぷっと俺の中に潜り込んだ。
「あ、あっ……っ……」
下半身に、甘く痺れるような感覚が走る。
これ……魔力だ……
固く閉じていた蕾がゆっくりと開き、彼の指を柔らかく包み込む。
グチュッ、と濡れた音がするようになった頃には、もう喘ぐことしかできなくなっていた。
「気持ちよさそうだ……義母上に教えてもらっておいて、よかったよ……」
それって、まさかセリーヌ夫人に……?!
俺は、本気で泣きそうになった。
指が増やされて、少しずつ中を広げられる。
見られてる……今にも蕩けて崩れてしまいそうになる。
「ロイド……ロイド……」
俺を怖がらせないようにと……耳元で囁く声が、俺の名を繰り返す。
その優しさが、俺の胸を焦がしてゆく。
……けれど、その指先は容赦無く、甘く俺を苛みつづける。
もう片方の手が、迷うように俺の肌を彷徨い出す。
けれど、欲しいところには触れてくれない。
一瞬の期待……その度に裏切られ……それが何度も繰り返される。
もどかしさを堪えきれず、気づけば、強請るように腰を揺らしていた。
「……ル、シアン……っ」
顎を掴まれ、彼の方へと強引に顔を向けさせられる。
藍色の瞳はすでに欲望に呑まれ、どこか意地悪な光を放っていた。
「ロイド……こんなに乱れるなんて……感じてるのか……?」
「くっ……そんな……」
「ほら、言ってごらん……ここは……?」
彼の指先が、俺を暴いた。
「あっ!」
全身に甘い痺れが走った、その時。
心の奥に、ゆっくりと仄暗い影が立ち昇ってきた── 抑えつけられ、弄られ、辱められた、あの忌まわしい記憶が。
「あ……」
息ができなくなった。今、自分がどこにいるのかもわからない。
肌を這う指先が急に冷たく感じられ、背後に聞こえる荒い息遣いが、嫌でもあの時の感覚を呼び覚ます。
俺は、まだあの男に囚われたままなのか……
気づけば、見えない影から逃れようと、目の前の壁を掻きむしっていた。
「ロイド!……ロイド!」
後ろから温かい腕が回されて、俺の身体はルシアンに優しく包み込まれた。
背に彼の温もりを感じると、それまで強張っていた身体から一気に力が抜けていった。
「ルシアン……俺っ……」
「すまない、虐めすぎたな……」
ルシアンが、俺の肩に顔を埋める。
肩先が彼の温かな涙に濡れた。
「もう、誰にも触れさせやしない……お前は、私だけのものだ」
その切ない声に振り向くと、噛みつくように口づけられた。
逞しい腕が俺を抱きしめ、深く舌を絡ませてくる。
「ふっ、ん……ル、シアン……」
彼の名を呼ぶと、潤んだ瞳に再び光が灯った。
その光の中で、俺は蕩けるような顔をしていた。
「あぁ、ロイド……そんな顔、私以外、誰にも見せるなよ……!」
逞しい腕に抱き寄せられ、甘い疼きが身体中を駆け巡る。
喉から漏れるのは、甘い喘ぎ声だけ。
「ごめん、ロイド……もう、我慢できない……」
俺の後ろで、ルシアンの熱い欲望が、俺を貫きたいというようにビクッと震えている。
「……っ!」
両手で荒々しく尻を割り開かれ、息が詰まるほど奥深くまで押し込まれて、
一瞬、目の前が真っ白になった。
「あぁっ……!」
俺の腹の奥深くで、彼の欲望が激しく脈打っている。それなのに、彼は俺を抱きしめたまま動こうとしない。
熱く荒い息が、耳に触れる。
「ロイド……もう、お前を離さない。こうやって抱きしめて、どんな苦しみからも守ってやる……だから、もう、泣くな」
振り向くと、藍色の瞳が潤んでいた。
「……っ、泣いてるのは、お前だろ」
「これは、嬉し涙だからいいんだ」
絡める視線から、彼の想いが伝わってくる。
(愛してるよ……ロイド……)
ああ……俺は、こんなにも愛されてる。
俺の銀狼《シルバー》──お前が、心から愛しいよ。
胸が熱い。想いが溢れて、もう止めることができない。
互いに微笑みあって、また唇を重ねる──彼の欲望が、俺の中でびくっと蠢いた。
あぁ、俺も……お前のすべてが、欲しい!
◆
俺の中でルシアンが猛々しく暴れ狂う。
突き上げられるたび、悦びが身体中を駆け巡る。
「……もっと……もっと、奥まで……」
もっと……愛して……
身体が勝手に跳ね回る。
自分から脚を大きく広げ、尻を上げる。もっと深いところへと彼を誘おうとして。
「あ、あっ……ルシアンっ……ルシアン……っ!」
俺は壊れた玩具みたいに、ひたすらルシアンの名を呼び続けた。
彼の名を口にするたび、あの忌まわしい影が薄れてゆく。
身体の奥深くに彼を感じるたび、不安や恐れが消えてゆく。
「あぁ、ロイド……もう……イっ……!」
突然、ルシアンの動きが切羽詰まったように激しくなった。
彼が身体を震わせて──
……っ!
一瞬、真っ白な光に包まれた──
その瞬間
心の片隅で、何かがパリンと音を立てた。
あの忌まわしい記憶が、粉々に砕けて消えていく。
あいつに与えられた痛みも、屈辱も、悲しみも── もう、何も感じない。
あいつが最期に見せた微笑みも、記憶の彼方へ静かに消えていった。
今、俺の胸に残っているのは、たった一つの想いだけ。
……ルシアン、愛してる。
◆
俺たちは抱き合ったまま、一緒に毛布に包まって、朝焼けが空の色を変えてゆくのを眺めていた。
肌に散らされた無数の口づけの跡に、身体の奥に残る微かな痛み。その全てが、昨夜の行為のすべてを物語っていて──ものすごく恥ずかしい。
「昨夜は、どうだった?」
こめかみに柔らかく口づけられ、そんなことを聞かれると、心まで擽られてるようで照れ臭くなる。
まさか、お前がこんなに甘いなんて思わなかったよ……
俺は恥ずかしさに打ち震えてるっていうのに、ルシアンはのんびり空を仰いでいる。
「あぁ、夢みたいだ……お前と、こんなふうに朝を迎えられるなんて」
そう呟く彼が愛しくて、乱れた髪をそっと梳いてやる。
「俺だって……」
俺はルシアンの手を取って自分の胸に重ねた。
「まだこんなにドキドキしてる。お前を見るたび、こうなってしまうんだ。きっと、これからだって……ずっと」
すると、ルシアンが俺の肩に崩れ落ちて、呻くように言った。
「ロイド……今すぐ、部屋に戻ろう」
「なに言ってんだよ……もう散々したじゃないか……」
「お前はいつも私を狂わせる……そのことが、ちっともわかってない!」
「大袈裟だな……ほら見ろよ、陽が昇ってきたぞ」
朝の光が水面に煌めき、世界がゆっくりと目を覚ます。
温かな光が、俺たちを照らす。
ルシアンが、ぽつりと呟いた。
「こんな美しい朝焼け、見たことない……」
俺の心にも、温かな光が射し込んでくる。
ルシアン、お前に伝えたい──
俺、幸せだ
完
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キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【16話完結】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。