辺境騎士が、涙を流すとき【完結】

てる

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第三章 ザハラ王国編

エピローグ2 〜 幸せは、ここに 〜

 いよいよ別れの時がやってきた。
 背後では、サリーム王がカインに抱きついて別れを惜しんでる。

「ねえ、カイン……君まで帰ることないじゃないか。ずっと、ここにいればいいのに。何も不自由させないよ」

 そんなサリームを見守るレイラ姉さんの瞳が、とても優しい。

「私も、あんなふうにロイドを引き止めるべきかしら? ロイドは、もうザハラの王族として認められてるのだし」
「どうしようかな……そんなふうに言うなら、ここに残ろうかな」
「ふふっ、そんなわけないでしょう……ほら、ルシアンさんがこっちを見てるわ」

 俺は、慌てて振り返った。

 ……ルシアン、そんな心配そうな顔をするなよ。

 俺と姉さんは、それぞれの故郷で新しい時代を見届けると約束した。
 あれだけあった魔力も魔法陣に吸い尽くされ、今ではわずかに残るだけ。まあ……普通になったってことかな。

 けれど、神々の声はもう聞こえない。
 でも、声が聞こえないってことは、もう神々の力は必要ないってこと。それが、平和ってことだ。

 そして、俺はラクロス国へ戻る。そこで、これからの人生を彼と一緒に歩んでいきたいから。
 ……そうだろう、ルシアン? 
 今日、その想いを彼に伝えたら、ルシアンがぽつりと呟いた。

(私もこの国に残って……ロイドと一緒に新しい土地で暮らすってのもいいかもな。戦もない、王族だ貴族だなんてしがらみもなく二人きり。朝起きれば、まずお前に口づけて、夜はお前を腕に抱いて眠る──そんな暮らしもいいかもな)

 あの時の、ルシアンの甘い表情ときたら……

「ロイドどうしたの? 顔が真っ赤よ!?」

 姉さん、頼むから、ルシアンの前でそんなことをバラさないで。
 姉さんはイタズラっぽく微笑みながら、俺の髪を撫でた。

「ロイド……ルシアンさんと幸せになってね。次に来るときは一緒にね?」
「もちろん。また、すぐに会えるよ」
「そうね。ザハラで船が造れるようになったら、真っ先にあなたに会いにゆくわ」

 姉さんに抱きしめられると、ふわっと柔らかな香りが鼻先を掠めた。
 離れるのが寂しい……その気持ちが伝わってくる。

「ロイド、そろそろ出航だ……」
「……わかった」

 ルシアンの声に振り返ると──

 んっ? ルシアンが片膝をついて、俺を見上げてる?
 
 すると、みんなが俺たちの周りにわらわらと集まってきた。
 お前ら……何をそんなにニヤニヤしてるんだよ?
 
 ルシアンが、俺に向かって片手を差し出した。

「ロイド、お前だけを一生愛すると誓う。だから、どうか……」
 
 その瞬間、俺は息をするのも忘れてルシアンを見つめた。

「私の黒狼ブラック……その心を私にくれないか」

 ルシアンが俺の手を取って、指先に口づけた。
 
 こ、これは……もしかして求婚プロポーズされてる!?
 
 そう気づいた瞬間、俺は耳の先まで真っ赤になった。
 辺りはしんと静まり返って、みな固唾を呑んで俺の返事を待っている。
 俺は、どうすれば……いい?

 ── パン、パンッ!

 その時、誰かが手を叩く音がして、たちまち俺たちは拍手と歓声に包まれた。

「ロイド、おめでとう!」
「ルシアン団長、長かったっすね! やっと想いが叶いましたね!」
「お似合いだぞ!」

 俺は、一瞬たじろいだ。
 
「ルシアン、正気か……俺なんかでいいのか?」
「お前こそもうザハラの王族じゃないか。それでも……私のような、辺境貴族にすぎない男でも良いだろうか……」
「何を言ってるんだよ!」

 俺だって、ルシアン、お前がいい。
 もう二度と……お前を諦めたくない!

 でも、まだ一抹の不安が過ぎる──俺たち、男どうしだぞ? 
 それに、親父どのがなんて言うか……

 おそるおそる振り向けば、そこでは親父どのが手を叩きながら、満面の笑みを浮かべていた。 
 隣にいるセリーヌ夫人の肩をぐいっと抱き寄せて、頷いてくれる。

 それって……どういうこと?

 すると、ルシアンも負けじと俺の肩を抱き寄せた。

「ほら見ろ、父上も義母はは上も、あんなに祝ってくれてる」 
義母はは上って……えっ、親父どのとセリーヌ夫人が?!」
 
 いつの間に……でも、良かったな。
 二人の、互いを見る目がとても温かい。
  
 俺は、ゆっくりと周りを見回した。
 レイラ姉さん、サリームとカイン、エリスにトビアス、そして大勢の仲間たちが、俺たちを祝ってくれる。みな笑顔で、幸せそうで、希望に満ちて……

 ああ、そうか……俺は、ずっとこんな光景が見たかったんだ。

 すると、ジェイが俺に大声で叫んだ。

「ロイド、さっさと返事をしてやれよ!団長の顔が引き攣ってきたぞ!」
「……えっ?」

 でも……こんな大勢の前で、なんて答えればいいんだ。
 こんなに胸が熱くて、想いが溢れそうなのに……うまい言葉がみつからない。

 だがら、俺はルシアンの襟元を引き寄せて──口づけた。

 その瞬間、周囲から悲鳴のような歓声が上がった。

 藍色の瞳が、一瞬、大きく見開かれ、すぐに嬉しそうに輝く。
 その潤んだ瞳の中で、星が静かに流れていった。
 

 ◆
 

 バタン!

 ドアが閉まる音も、もう聞こえなかった。
 俺たちはもつれ合うようにして船室に転がり込むと、互いを求め合った。
 
 ああ、やっと……俺だってずっと我慢してたんだ!
 甘い口づけも、俺の名を呼ぶその声も、そして、俺だけを見つめているその藍色の瞳も──すべて俺のものだ。

「ロイド……そんなに煽られたら、優しくできない……」
「んっ、いいよ……お前になら、なにをされたって……」

 熱に浮かされたように囁くと、ルシアンの瞳から理性の光が吹き飛んだ。
 
「……ロイドっ!」

 壁に背を押しつけられ、唇を塞がれた。
 熱い手のひらが、俺の髪をかき乱す。
 
 もっと、触れたい……もっと……感じたい……
 夢中になって、彼の肌に手を這わせた。

「ロイド……待て、待てって!」
 
 不意に腕を引かれ、身体がくるりと反転した。
 頬に冷たい壁が触れて、彼の腕の中に閉じ込められる。
 
 ルシアンが、俺の背に熱い肌を押しつけながら、息を吐く。

「……ダメだ……このままじゃ、抑えきれなくなる……」

 耳元に落ちる息が荒い。
 爆発しそうな感情を、必死に抑えようとしているようだ。

「……顔が、見えない……」
「こうしないと……優しくできそうにない……」
「そんなこと……」
「……いきなりは、さすがに無理だろ……ゆっくり、触れたい……」
「……今更だよ……」
 
 掠れた声が、自分のものじゃないみたいだ。
 
 彼が唾を呑みこむ気配がした。
 指先がそっと背に触れた。指先が撫でる跡を、すぐに濡れた舌先がなぞってゆく。触れられるたびに喉がひくりと震えて、微かな喘ぎが溢れた。

 微かな疼きが少しずつ膨らんで、やがて大きな塊となって暴れ出した。その激しさに堪えきれず、俺は壁に額を擦りつける。

「……あぁっ……」

 指先が尻の割れ目をなぞり、深く潜り込んできた。固く閉じた蕾にそっと触れられ……目の前に火花が散った。
 蕾の縁を優しく撫でられると──恥ずかしさで、涙が出そうになった。

「や……やだ、っ……」
「我慢して……少し準備するから……」

 耳に息が吹き込まれて、びくっと身体が震えてしまう。
 次の瞬間──彼の指先が、つぷっと俺の中に潜り込んだ。

「あ、あっ……っ……」

 下半身に、甘く痺れるような感覚が走る。
 これ……魔力だ……

 固く閉じていた蕾がゆっくりと開き、彼の指を柔らかく包み込む。
 グチュッ、と濡れた音がするようになった頃には、もう喘ぐことしかできなくなっていた。

「気持ちよさそうだ……義母はは上に教えてもらっておいて、よかったよ……」

 それって、まさかセリーヌ夫人に……?!
 俺は、本気で泣きそうになった。
 
 指が増やされて、少しずつ中を広げられる。
 見られてる……今にも蕩けて崩れてしまいそうになる。
 
「ロイド……ロイド……」

 俺を怖がらせないようにと……耳元で囁く声が、俺の名を繰り返す。
 その優しさが、俺の胸を焦がしてゆく。
 ……けれど、その指先は容赦無く、甘く俺を苛みつづける。

 もう片方の手が、迷うように俺の肌を彷徨い出す。
 けれど、欲しいところには触れてくれない。
 一瞬の期待……その度に裏切られ……それが何度も繰り返される。
 もどかしさを堪えきれず、気づけば、強請るように腰を揺らしていた。
 
「……ル、シアン……っ」

 顎を掴まれ、彼の方へと強引に顔を向けさせられる。
 藍色の瞳はすでに欲望に呑まれ、どこか意地悪な光を放っていた。

「ロイド……こんなに乱れるなんて……感じてるのか……?」
「くっ……そんな……」
「ほら、言ってごらん……ここは……?」

 彼の指先が、俺を暴いた。

「あっ!」

 全身に甘い痺れが走った、その時。
 心の奥に、ゆっくりと仄暗い影が立ち昇ってきた── 抑えつけられ、弄られ、辱められた、あの忌まわしい記憶が。

「あ……」

 息ができなくなった。今、自分がどこにいるのかもわからない。
 肌を這う指先が急に冷たく感じられ、背後に聞こえる荒い息遣いが、嫌でもあの時の感覚を呼び覚ます。

 俺は、まだあの男に囚われたままなのか……

 気づけば、見えない影から逃れようと、目の前の壁を掻きむしっていた。

「ロイド!……ロイド!」

 後ろから温かい腕が回されて、俺の身体はルシアンに優しく包み込まれた。
 背に彼の温もりを感じると、それまで強張っていた身体から一気に力が抜けていった。

「ルシアン……俺っ……」
「すまない、虐めすぎたな……」
 
 ルシアンが、俺の肩に顔を埋める。
 肩先が彼の温かな涙に濡れた。

「もう、誰にも触れさせやしない……お前は、私だけのものだ」

 その切ない声に振り向くと、噛みつくように口づけられた。
 逞しい腕が俺を抱きしめ、深く舌を絡ませてくる。

「ふっ、ん……ル、シアン……」

 彼の名を呼ぶと、潤んだ瞳に再び光が灯った。
 その光の中で、俺は蕩けるような顔をしていた。
  
「あぁ、ロイド……そんな顔、私以外、誰にも見せるなよ……!」

 逞しい腕に抱き寄せられ、甘い疼きが身体中を駆け巡る。
 喉から漏れるのは、甘い喘ぎ声だけ。

「ごめん、ロイド……もう、我慢できない……」

 俺の後ろで、ルシアンの熱い欲望が、俺を貫きたいというようにビクッと震えている。

「……っ!」

 両手で荒々しく尻を割り開かれ、息が詰まるほど奥深くまで押し込まれて、
 一瞬、目の前が真っ白になった。

「あぁっ……!」

 俺の腹の奥深くで、彼の欲望が激しく脈打っている。それなのに、彼は俺を抱きしめたまま動こうとしない。
 熱く荒い息が、耳に触れる。

「ロイド……もう、お前を離さない。こうやって抱きしめて、どんな苦しみからも守ってやる……だから、もう、泣くな」

 振り向くと、藍色の瞳が潤んでいた。

「……っ、泣いてるのは、お前だろ」
「これは、嬉し涙だからいいんだ」

 絡める視線から、彼の想いが伝わってくる。

(愛してるよ……ロイド……)
 
 ああ……俺は、こんなにも愛されてる。
 俺の銀狼《シルバー》──お前が、心から愛しいよ。 
 
 胸が熱い。想いが溢れて、もう止めることができない。
 互いに微笑みあって、また唇を重ねる──彼の欲望が、俺の中でびくっと蠢いた。
 
 あぁ、俺も……お前のすべてが、欲しい!
 
 
 ◆


 俺の中でルシアンが猛々しく暴れ狂う。
 突き上げられるたび、悦びが身体中を駆け巡る。

「……もっと……もっと、奥まで……」
 
 もっと……愛して……

 身体が勝手に跳ね回る。
 自分から脚を大きく広げ、尻を上げる。もっと深いところへと彼を誘おうとして。
 
「あ、あっ……ルシアンっ……ルシアン……っ!」

 俺は壊れた玩具みたいに、ひたすらルシアンの名を呼び続けた。
 彼の名を口にするたび、あの忌まわしい影が薄れてゆく。
 身体の奥深くに彼を感じるたび、不安や恐れが消えてゆく。

 「あぁ、ロイド……もう……イっ……!」

 突然、ルシアンの動きが切羽詰まったように激しくなった。
 彼が身体を震わせて──
 

 ……っ! 


 一瞬、真っ白な光に包まれた──

 その瞬間 

 心の片隅で、何かがパリンと音を立てた。
 あの忌まわしい記憶が、粉々に砕けて消えていく。
 
 あいつに与えられた痛みも、屈辱も、悲しみも── もう、何も感じない。
 あいつが最期に見せた微笑みも、記憶の彼方へ静かに消えていった。
 
 今、俺の胸に残っているのは、たった一つの想いだけ。


 ……ルシアン、愛してる。 

 
 ◆


 俺たちは抱き合ったまま、一緒に毛布に包まって、朝焼けが空の色を変えてゆくのを眺めていた。
 肌に散らされた無数の口づけの跡に、身体の奥に残る微かな痛み。その全てが、昨夜の行為のすべてを物語っていて──ものすごく恥ずかしい。

「昨夜は、どうだった?」

 こめかみに柔らかく口づけられ、そんなことを聞かれると、心までくすぐられてるようで照れ臭くなる。
 まさか、お前がこんなに甘いなんて思わなかったよ……

 俺は恥ずかしさに打ち震えてるっていうのに、ルシアンはのんびり空を仰いでいる。

「あぁ、夢みたいだ……お前と、こんなふうに朝を迎えられるなんて」

 そう呟く彼が愛しくて、乱れた髪をそっと梳いてやる。

「俺だって……」

 俺はルシアンの手を取って自分の胸に重ねた。

「まだこんなにドキドキしてる。お前を見るたび、こうなってしまうんだ。きっと、これからだって……ずっと」

 すると、ルシアンが俺の肩に崩れ落ちて、呻くように言った。

「ロイド……今すぐ、部屋に戻ろう」
「なに言ってんだよ……もう散々したじゃないか……」
「お前はいつも私を狂わせる……そのことが、ちっともわかってない!」
「大袈裟だな……ほら見ろよ、陽が昇ってきたぞ」

 朝の光が水面に煌めき、世界がゆっくりと目を覚ます。
 温かな光が、俺たちを照らす。

 ルシアンが、ぽつりと呟いた。

「こんな美しい朝焼け、見たことない……」

 俺の心にも、温かな光が射し込んでくる。
 ルシアン、お前に伝えたい──
 
 俺、幸せだ



 完 
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