40 / 114
メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁20:命名責任とは
しおりを挟むとりあえず決まってしまった物は仕方ない。それに設定を一つ一つ決める毎に姑の如く口出しをしてしまえば、結局それは神々廻さんが私を傀儡にしようとしたのと同じになってしまう。ある程度は寛大に、生暖かく見守るのも大事なのか。だがしかし…うむむ。
「あの…サ、歩き回ってるウチにこの村の名前とかも思いついたんだけど…」
私の葛藤を見抜かれたのか、おずおずと申し出る彼。調子が良いのは喜ばしい事だが果たしてどの様な名前なんだか…ドキドキする。悪い意味で。
「町の名前を付けるにあたってとりあえずまず『オレちゃんルール』を決めたのね」
「ルール?」
意外なプロセスだ。
「この世界の言葉を日本語で統一はしたけど、地名や町の名前は全てカタカナにしよう、と」
「ふむふむ」
既に【たいりく大陸】ってひらがなになっちゃってますけどね。
「どうしてもオレってば名前とか付けるの苦手だから、この先もしかしたら元の地球の地名を使っちゃうかもしれないでしょ?」
「それは…仕方ないと思いますけど」
本人が頑張って考えた名前であっても、知らない所で被ってしまうなんて普通に有り得るだろう。
そもそも地名だけですら計測できないくらいに存在しているのだから。
「だから、もしそうなったとしても『これはアクマでもこの星オリジナルの名前なんだゾ!』って自信を持って言えるように…って。なんでカタカナだからオリジナルなんだよ!ってツッコまれそうだけど、マァ単なる自己満足☆」
頭の後ろで腕を組んで気恥ずかしそうにナハハと笑う。
「そんな事は無いですよ。少なくとも私はその考えを支持します。永遠に終わらない作業になるだろうからこそ動機や理由付けは大事なのではないでしょうか。それでも恐らくいつかは惰性になってしまうかもしれませんが、せめてそれまでの間くらいのモチベーションに繋がるなら採用すべきです」
少し驚いた眼で私を見やる彼。
「え…、も、もしだヨ? もし『シブヤ』とかってあからさまな名前にしようとしても?」
「あなたの中で『あの渋谷とは違うんだ!』という明確な意思が存在しているならいいのでは? 要は自分が創造していく世界に対してどれだけ心を持って取り組んでいるかどうかでしょう」
そこに生きている人々には知る術は無いだろうが、自分達が生きている世界がカミサマの怠慢で適当に設定されていたなんて裏設定は悲劇でしかない。
「マジっすか…反対されるかと思ってビビって損したワ」
「だからもう…。私だって別に何から何まで反対したい訳じゃないんですよ。単におかしい事にはおかしいと言ってるだけで、いいと思った事なら普通に協力します」
「そっか♪ さっチーの事ちょっと誤解してた。ゴメン」
「さっチーもヤメロ」
抗議を都合よく聞き流して再び本を開く彼。
「それで? 決めたというこの村の名前とは?」
「う、うん」
緊張した面持ちでこちらをチラッと見る。まだ私に対して完全に緊張は解けていない様だ。
「……『スタ・アト』の村、ってのはドウデショウ…」
「『スタ・アト』?」
てっきり日本の地名から持ってくる物だと思っていたが予想外だった。
間の『・』がどういう意味なのかと思ったが、ゲームやファンタジーに登場する地名とかは恐らくそんなノリなのだろう。分からないけど。
「私にはファンタジーな世界観はよく分かりませんが、いいのでは?」
「え、ファンタジー??」
え?
「あ、いや、そんなすぐにOK貰えるなんて思わなくてサ! アハハ! やったぜ☆」
「…?」
なんだか引っかかるが、まあ大した事ではないのだろうか。
遠くの女子達からなぜか拍手が贈られた。
『よかったねオニーサーン! おめでとう!!』
『大事にするんじゃよぅ!』
「ありがとーハニー達!! 愛してるよっ!!」
『それこっちに言っちゃ駄目なヤツだからね!?』
…何を言ってるんだろうこの人達は…??? 異世界の文化は謎だ。
「ほら、決めたならすぐに登録しましょう」
「あ、そうだよね」
既に開かれていた大陸地図のページの左端、この村を表すアイコン?を彼がタップすると名称入力欄が展開される。
「では記念すべき最初の【町の名前】…誤字脱字OK。それでは登録、っと!」
私の本も自動で開かれるだろうから前もってシステムメッセージのページを開いておいた。
そのページに新たに刻まれる文章。
《 世界設定/名称/集落名/たいりく:スタ・アト が世界に登録されました。》
ずん。
…という感覚が全身を襲った。それは決して不快なものではなかったが、何と言うか…辺りの空気が締まった、みたいな。それは恐らくは『石』の時と同じで、この世界においてこの村の存在が正式に確定した事の証明なのかもしれない。それによってこの村がどの様に変化するのかは今はまだ不明だけど。
「なんて言ったらいいか分かんないケド…空気? みたいなのが変わったっぽくね? 呼吸がちゃんと出来る…みたいな? いや違うな…」
「言いたい事は何となく分かりますよ。村の雰囲気がハッキリした様に感じます」
「やっぱり? …あれ? ちょ、本見て!」
「え?」
言われた通り再び開いたページに視線を落とすと、先程のメッセージの次に新たに刻まれる文章が───
《 『スタ・アト』が世界に登録された事により、スタ・アト専用町成長イベント『 の巣』が解放されました。》
(次頁/21-1へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

