知識０から創る異世界辞典（ストラペディア）～チャラ駄神を添えて～

メガネスーツ女子と未知との遭遇

頁24：想定外の助っ人とは １

　 　 　 　 








　彼の声、そして衝撃を告げる音に驚いて振り向くと、彼の体がゆっくりと仰向けに地面へ崩れていった。

「神々廻ししばさん！！」

　倒れたままこちらの呼びかけには全く反応しない。仰向けに倒れたと言う事は真正面から攻撃を食らったのだろう。恐らくは衝撃による脳震盪のうしんとうを起こしている。な・ぜ・【力・】を・使・わ・な・か・っ・た・の・だ・ろ・う・か・…。
　介抱かいほうしたいのは山々だがまだ周囲には飛ぶ目フライングアイが数匹飛び回っている。これを片付けなければ助けに行った所で危険に変わりはない。それに、意識が飛んでしまったとしても一定時間で回復出来る筈はずだ。私がそうだった様に。
　ならば私のすべき事は……安全の確保だ。
　網膜の縮小地図と視野、両方の情報を脳内で処理する。どちらかに頼ってはダメだ。それでは両方の良さを潰してしまう。両方を統合して活かせ───！
　視界に捉とらえた一匹はホバリングして私との距離を維持している。その間に背後に回った一匹を縮小地図で把握はあくしていた。私は背中を見せているぞ…さあ釣られろ。
　そして案の定、背後から襲い来る飛ぶ目フライングアイ。
　振り向き様にカウンターを決めながら、私は脳内で無意識に時間をカウントしていた。それはあの空間で散々磨すり潰されていた間に覚えてしまった、再生までの時間。

「（３、２、１…）」

　あれ…？
　本当ならここで意識ごと復活するはずだった。それなのに彼はまだ気絶したままだ。なぜ───
　ふと気づいた。先程傷つけられた頬を拭ぬぐった、手の甲の血。
　な・ぜ・、ま・だ・血・が・？　塞がり切っていない頬の傷口への困惑に一瞬気を取られてしまう。目ざとい敵対生物ヴィクティムはその一瞬を逃さなかった。より静かに、より勢いを増して私の後頭部へと飛来する。人類を殺す心算つもりで。

「しまっ…！」

　振り返った時にはもう回避不能な位置だったが、私の顔面に衝突する直前、間に手・が割って入り敵の攻撃を受け止めてくれた。私の手ではない。つまり…

「神々廻ししばさん！　大丈夫ですか！？」
「…」
「…あの？」

　受け止めた飛ぶ眼フライングアイをついでに飛べない様に握り締め捕獲した神々廻ししばさんが、彼の普段の印象にしては珍しく無表情で立っていた。
　捕獲したその飛ぶ眼フライングアイ、どうするんだろう…？　と思った瞬間、彼は逃げられない状態の敵を洞窟の壁に圧おし潰すかの様に叩きつけ───そのまま削り落としながら真横に薙ないだ。
　口の無い胴体から発せられたのは間違い無く断末魔の叫びだったろう。眼球の表面が失われたその肉塊を彼が手放すと、ドロリとした体液を流しながらビチャっという音と共に力なく地面へと落ちる。

「油断大敵、だな。嵯神さがみ」

　ニヤリとした顔。彼の顔をした、ダブって見える別の顔。私はこの顔を知っている。何度も見た。というより、今・ハ・ッ・キ・リ・と・思・い・出・し・た・。どうして今まで忘れていた？　何度も、何度もその存在を感じていた筈はずなのに…！
　全身が総毛そうけ立つ。嫌悪感に、そして静かな怒りに。

「───お前は、誰だ」









　　　(次頁／24－２へ続く)