知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題

頁40:星の名とは 3

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 突如彼の雰囲気が変わる。シュウさんと入れ替わったのだろうか。

「理屈は分かった。だが、今の話の様にいずれ世界に気候やらなんやらが設定されていくのは決定項なのか?」
「…どういう意味でしょう」

 シュウさんの真意は未だ図り切れずにいる。何に対して興味を抱くのか、何に対して怒りを感じるのか。表面的な事さえ私にはまだ分からない。

「自分で選んだ事だから後悔はしていないが、この星の連中はただでさえ敵対生物ヴィクティムの出現によって生きるか死ぬかなんだろう? なのにその他の要因を追加して死ぬ確率を上げるってのか?」

 確かに。傍目はためから見れば快適な気候のままで変動が無いのであればこの上なく楽だろう。

「あんたはこの星の人間を救いたいんだろう。いたずらに試練を与えるような真似をするのはあんたの言う正しさなのか?」
「そうですね…実は気付いていました」

 ひろしさんの苦しみを何とかしようと選択したあの決断。

「死の定義を根付かせた直後、世界の人口が急激に減りました。世界が死を死として理解出来ていなかった、もしくは死という物がとされていなかった世界に、強制的に死を押し付けたんです。私は」

 でも。

『なあ、知ってるなら教えてくれ…、俺達はどっかおかしいのか…?』

 ゆがみを感じながらそれが分からずに苦しんでいる人だっている。少なくともひろしさんの流していた涙はそう語っていた。

「それでも、自分は正しいと? …うるさい、少し黙ってろ」

 …?
 脳内で神々廻ししばさんが何か言っているのだろうか。そう言えばシュウさんが表にいる時に脳内会話をしている姿を見るのは初めてか。

「…生き死には正しさなのでしょうか」
「何?」

 言い訳にならない様に、私は私の中の素直な感情を必死に言葉に変換する。

「シュウさんが言ってた『世界が死体で埋まる』という冗談ですが、…え、あれ冗談ですよね? ともかくそれがもし本当に起きてしまった場合、確かに亡くなった人達は目を覚まさないだけで眠っている扱いになるのだと思います。でも…それは生きているのでしょうか? それとも死んでいるのでしょうか?」
「……」

 無表情で私を見つめるシュウさん。
 私は手にした【辞典ストラペディア】を閉じ、その表紙に視線を落とす。

「正しく生き、正しく死ぬ。その正しさとは正義ではありません。しかしこれだけははっきり言えます。人が人のことわりから外され、【辞典ストラペディア】により生命も世界の在り方もしばられている状態だけは…! だから、私は私の自分勝手な正しさの為にこの星をおかしな呪縛じゅばくから解放します。そしてそれが【編纂へんさん者】として私の背負う責任です。シュウさんの言った通り、よ」

 気が付けば全身にうっすらと汗をかいていた。言葉に対してそれだけの熱量を込めていたのだろうか。
 しばしの沈黙の後、シュウさんが口を開いた。

「【辞典ストラペディア】って名前にしたのか、それ」
「…え? あ、いや、その、あの」

 咄嗟とっさの事で忘れていたが、『ストラペディア』は先程思いついただけの自分の中での愛称あいしょうみたいな物だった。口に出していた事に気付かなかった私は何となく気恥ずかしさで耳まで顔が熱くなった。

「いいんじゃないか」
「え……あ、ありがとうございます…」

 肯定されるとは思わなかった。

「なあ、『二番目』を意味する言葉を知ってるだけ言ってくれないか」
「え? あ、はい、えっと…」

 唐突にどうしたんだろうか。

secondセカンド제이ゼイ第二ディーアルвторойフタローィδεύτεροςゼフテロスsegundoセグンド…」
「よくそんなにポンポン出て来るモンだな…流石さすがに関心する…」

 自分で聞いておきながら引くってどういう事だろうか。

「どうも。後は…deuxièmeドゥズィエムtweedeトゥエーデzweitツヴァイト
「ああ、それだ」
「?」

 何なんだろうか。このやりとり、なんだか覚えがあるような。

「───OK、異存は無い」
「あの…」
「俺達にはもう帰る故郷は無い」
「え…?」

 シュウさんが【辞典ストラペディア】を手にこちらに向き直った。

「もう。生きるも、いつか死ぬのも。だから…今からこのが俺達の故郷だ」

 そうか。既視感きしかんの正体、それは。

「決められたんですね、やっと」
「…気の迷いだ」
「そういう事にしておきます」
「…フン、いい顔をする様になったじゃないか」


 驚いた顔をすると、ククッと笑った。

「違いない」

 この人の笑った顔、初めて見た。神々廻ししばさんと同じ顔でありながらこんなにも違うんだな。
 開いたページの表面を指先でさらさらとでると、間違いが無いか確認している様だ。

「それでは、登録」「それじゃ、登録!」

 二人の声が同時に聴こえた気がした。
 空が、大気が、地面が、大きく震える。
 一瞬前よりも呼吸は深くなり、足は確かに大地を踏みしめ、篝火かがりびと月明かりを溶かして飲み込む闇夜はその群青色ぐんじょういろを一層深める。
 それはつまり、この宇宙にこの星が正式に誕生した事を証明していた。


《  世界設定/名称/世界:地球 (ツヴァイ・アス) が登録されました。世界設定の一部が修正されます。》








   (次頁/41-1へ続く)







   
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