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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁43:隠蔽とは 2
しおりを挟む不慣れそうな手つきでスコップを地面に刺す神々廻さん。話しながらも手が止まらないのは良い事です。
「私も上手く説明出来ませんが…、実は同じ様な現象が女性陣の広場でもありまして。名称未設定の物同士をぶつけたら弾け飛んだんです」
「マジで? 怪我しなかった!?」
「ええまあそれは…その時に服を着替えたんですけどね」
ボロボロになったなんて言えない。
「その時はまさかこれが原因だとは夢にも思わなかったんですが…これはあくまで仮説ですが、我々にとってまだ名前を付けていない物は『そこに在ってそこに無い』状態だと思います。言い換えれば『何モノでもあり何モノでも無い』、でしょうか。ぼんやりと映る姿はそんな不安定な内側を辛うじて繋ぎ止める薄皮みたいな物なのかもしれません」
「つまり…着ぐるみの中の人が本当はヒトかどうかも分からない…みたいな?」
「いや、ちが…」
……ん?
「……概ねその通りです」
「初めて当たった!?」
なんだろうこの悔しさは。
「で、内側にそんな宇宙みたいな概念を抱えた物質同士が激しくぶつかり混ざり合う事で化学反応みたいに周辺の事象を書き換えてしまうのでは無いでしょうか。存在し得ない物質が存在する確率が変動し、起こり得ない事象が起こる確率が変動する、みたいな。その範囲は到底計り知れる物ではないと思います。もしかするとぶつけ合う物の質量が小さかったからこの程度で済んだのかもしれません」
「この程度…って」
隣に生える樹を見上げてごくりと生唾を飲む神々廻さん。
「それすらも仮定の話ですけどね。なので、くれぐれもこれを必殺技だとか勘違いして故意に引き起こさないで下さいね? 最悪、我々だけでなく辺り一帯を巻き込んで一瞬で蒸発したりする可能性だってあるんですよ」
「い、イエス・マム…」
どうやら事の重大さが伝わった様だ。
「この世界の人達が日常的に振るうのは問題が無い様なので、あくまでも我々が注意すべき事、ですね。そう考えると編纂作業もそうのんびりしていられないのかも…」
「まぁまぁ、焦ってもシカタないしとにかくめっちゃ気をつけましょうって事で!」
貴方が一番心配なんですけどね。
「よっしゃ、穴まで溝つながったヨ」
池から穴まで傾斜をつけた溝が真っ直ぐに繋がった。溝の端と池の縁にあたる土の隔たりをスコップの先端で崩すと、ダークファンタジー色の液体がちょろちょろと穴に向かって流れ出す。
「上手くいったみたいだネ」
「ええ」
液体がすっかり流れ出た後の窪みの残滓も抉り出す様にスコップで掘り起こし、穴の中へと放り込んでいく。着地した音が本気で聞こえないのだが一体何メートルくらいの竪穴なんだろうか…。
「樹以外はこれで処理できたケド…この穴どうしようか? このままだと危ないよネ」
「そうですね。大きな石とかで塞げればいいのですが…」
「あ、そうか」
神々廻さんが何かを閃いたらしい。この人の表情は分かりやすくて後頭部で電球が光ったのではないかと言う錯覚すら見える。
「ちょっと離れてて…」
「? 何を…」
すると神々廻さんは穴の真上で手を…手が消えた??
あ、成程。
「よっと!」
虚空から手を引き抜くと、後ろにぴょんと飛び退く。続いて虚空から召喚されたのは…大きな石だった。
そのまま石は真下の穴を隠す様に落下し、ドスンという強い振動を辺りに響かせた。
「これでオッケーっしょ!」
「ええ…まあ…」
OKなのはOKなのだが、突然現れた大木と巨石…。なんて説明したらいいんだろうか。頭が痛い。
「な…なんじゃこりゃああああぁぁぁぁ!!!??」
聴き慣れた声が飛び込んできた。
ああ頭が痛い。イタイイタイ。
(次頁:44-2へ続く)
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