96 / 114
メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題
頁46:追跡と遭遇とは 1
しおりを挟む夜気を吸い込んで柔らかくなっている早朝の地面は通り過ぎる無法者の足跡をしっかりと刻み込んでいた。
もし距離が開いてしまいお互いに現在位置がどこなのか分からなくなったとしても【辞典】の大陸地図を見れば分かるのだろうけれど、走りながら本を読むなんて真似は危なすぎてしたくなかったのでこれは助かる。
ヒールのほぼ無い靴ではあるものの、未舗装未開拓の山中を走り抜けるには無理があったか。今からでも交換しようかしら。
と思っていた矢先、進行方向から騒がしい気配が急速に接近して来る。
どうする? どうするって、もし相手が敵対生物の集団とかだったら対処出来ない可能性が高い。まずは隠れて様子を見よう。
脳内で瞬間的に行動を決定すると、近くの幹が太めの杉の後ろに静かに回り込んで身を潜めた。
気配は真っ直ぐにこちらの方へと向かってきている。
「… … ………ァァァァァァァァァああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
…うん、まあ、概ね予想通り神々廻さんだった。敵対生物達に追いかけられている所まで含めて悲しいくらいに予想通り。
付いて来ている敵対生物は飛ぶ眼が一匹と…知らない個体!? しかも二種類!
地面を滑る様に走っている片方の敵はサイズこそ大きい訳ではないが、子供なら上に乗って運んでくれるのではないかと言う…なんだアレ…? 黒光りする見覚えのある角……カブトムシ?? いややっぱりサイズ大きすぎません!? 怖い怖い怖い!
そしてもう片方は四足歩行の獣? シルエットだけなら中型犬に見えるが、その姿が近付き段々とディティールが明らかに。
毛並みは柴犬っぽく、顔はチワワなくりくりの目、耳はまごう事無きウサギ。なんだろうこの中途半端な可愛さというか可愛く無さは。
見た目はともかく敵対生物は敵対生物だし彼を何とかして助けなければ。でもどうする? 【力】が制限されている以上、私なんて多少武道を齧っただけのただの人間だ。
…ええい、考えている暇なんてあるか!
私は手近な石を拾い集めると投擲の為の相対距離を測る。
「さん…、に…、いち……」
手の中の石をグッと握り締め、立ち上がろうとしたその時───ヒュンという短くも鋭い風切り音を耳が捉えた。直後…
ギイィィアァァァアアアアァァァァ!!!!!
飛ぶ眼が断末魔の悲鳴と共に地面に落ちていく。何が起きたのだろう。突然の異常事態に新顔二匹の動きも止まる。
「神々廻さん!」
何が起きたのかを確認したいが取り敢えず後回しにして物陰から身を乗り出し彼に自分の存在を気付かせる。
私を見た彼の必死の形相が即座に安堵に切り替わる。忙しい顔だ。
「女神様!!」
「誰が女神様だたわけ!!」
カウンターで平手を打ち込んだ。
「サーセンでしたァァァァ!!!」
一切の無駄の無い動作で土下座するカミサマ。そんなの上達しないで欲しい。
「立って!」
「はい!!」
しゅたっ!という音が聴こえそうなくらい機敏に立ち上がる。
「何なんですかあれは!」
「えっと…『でかカブト』と『チワウサギ』で!」
そういう事を聞いてるんじゃない。それで名前が決まってしまったじゃないか。
こちらと周囲の両方を警戒している二匹から目を離さずに挙動を観察する。
外見としては変な犬と大きいカブトムシだが、元の地球の小型犬であっても本気で牙を剥けば人間だって只では済まないし、虫なんてそれこそ人間をいくらでも殺傷出来る生物だ。
だが警戒心が強そうなのは兎耳犬の方で、大甲虫はどちらかと言えば虫の本能のままに動いている様に見える。うう気持ち悪い…。
「とにかく何とかしましょう。先程の移動スピードを見るに逃げるのは難しそうですし」
「ナントカって、どうやって!?」
「まずは動きをよく見ながら隙を誘いましょう。はいこれ持って」
相手からは目を離さずに神々廻さんに先程拾った石をいくつか手渡す。
「石ィ!?」
「当たれば痛いのは皆同じです。突進の軌道を変えさせたり当たり所が悪ければそれなりに動きを阻害出来ますし、恐れをなして逃げ出してくれれば僥倖です」
「簡単に言うけどさァ…」
「自分で蒔いた種でしょう! 泣き言言わない!」
「ごめんなさい!!」
問題は大甲虫の方だ。見た目の通りならば恐らく投石では甲殻に多少傷を付ける程度しか効果は無いだろう。目にでも当たればいいのだけれど、的としては小さすぎる上に投擲には正直自信が無い。突撃されて組み敷かれたら確実にアウトだ。虫に食われるとか想像したくもない。
しかし現実的に見た目通りの虫であるならば木に登ろうが何だろうが逃げ場は無い。若干詰んでいるのは寧ろ我々の方だ。
なら…火はどうだろう? ガソリンとライターでも召喚すれば或いは…!
思い付いたら即実行。私は虚空に手を差し込む。その様子を見ていた神々廻さんが叫んだ。
「あ、そうか、召喚で───!!」
「馬鹿っ!!」
(次頁/46-2へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる