1 / 31
ヒーローは1日にして成らず?
ある日突然未知との遭遇、なにそれ本当にあるわけ?
しおりを挟む【ヒーローは1日にして成らず?】
(この辺りに登場する主要CAST)
赤城 (♂)… 普通に毎日を過ごしていた無気力少子化世代の青年。ある日自分が異能力者だと知ってしまう。
司令 (♀)… 宇宙戦艦の艦長服みたいなのが私服になってる、一見アレな感じの女性。喋り方が胴に入っている。
===============
日常、それは退屈で安心で、ぶっ壊したいという人間は数あれど、ぶっ壊されれば慌てふためく砂の城———。
そんな自分には似つかわしくないポエミィな雑念を胸中で吟ずる程度には、今日のバイト先は平和だった。
勤め始めの頃は頻繁に頭痛に悩まされたデカすぎる気がする筐体の電子音BGMも、プッシャーやメダル払い出し機が打ち鳴らす金属音も、今じゃ日常って奴を再確認させてくれる。
ゲームセンターが悪の詰め所みたいな扱いを受けていたのは自分が生まれるより前の話。そりゃあ場所柄変なのは時々は湧くけど、それでもちゃんとした?お客さんの方が遥かに多いし、大手の傘下だけあって警備体制だってそれなりにちゃんとしてると前面に打ち出しているせいか、今の所ヤバいトラブルに遭遇した例はない。
ああ、世は並べて事も無し、か。今日の昼は何食べようかな。
そんな贅沢な算段をつけている時だった。
入口の方から、異質なざわめきが聴こえてきた。どんなバイトでも慣れてくるとみんな分かるようになるアレって言うやつ? 難易度の高いキャッチャーで景品を取れた歓声とか、集団の悪ふざけのはしゃぎ声とかでもなく、【どよぉ…】みたいな。
あ、なんか、めんどくさそう。俺のアンテナが訴えた。お願い、来るな、こっちくんな、神様仏様イエス様、頼むから先輩のトコ行って。
俺の完璧な無表情の裏に隠された必死の祈祷が天に届いたのか、ざわめきの原因は迷う事無く一直線に俺の方に向かって来る。
ちくしょう神仏ども、俺は一生無神論者を貫いてやる。
そして、【それ】はやたらデカい足音と共に、俺の前で仁王立ちして立ち塞がった。
「そこの君! 突然だが君には秘められた力がある!!」
「…は?」
断言しよう、こいつは掛け値なしの大迷惑客だ。
「驚くのも無理は無い。こんな世知辛い世の中だ、現実に疲れ果てて想像力を活性化させるという行為すら無気力になっているのだろうが、これはまぎれもない事実だ」
よくもまあスラスラと喋れるもんだ。劇団の人か何かか? 何言ったのか殆ど忘れちゃったけど。
ていうか、ざわめきの原因が分かった。服装だ。ついでに言えばこの人自身も原因の一つか?
ひと言で言うと、銀河を走る鉄道の車掌か宇宙戦艦の艦長だ。いや、このヤバいくらいに気合いの入ったマントはもしかしたら宇宙海賊かベルサイユ宮殿のバラの君かもしれない。
ただ、それだけならばそこまでどよめかないだろうが、目の前のこの人は…長身・切れ長の瞳・ツヤッツヤでサラッサラなロングヘアーの、モデルと言われたら素直に信じてしまいそうな女性だった。年齢は情報量が多すぎてちょっと予想付かない。
俺は自分でも驚くほどの冷静な分析結果を脳裏に、コッソリこちらをうかがっていた先輩の方をマッハで見る。しかし先輩もマッハで視線を外し、いつもならやらない筐体清掃始めやがった。そして右手だけこちらに向けてサムズアップ。
ああ、あの親指を時計回りに90度へし折ってやりたい。
「運命を、呪いたくなったか?」
鋭い眼差しが俺を射抜く。
俺は覚悟を決めた。
「…ええと、コスプレ用のプリクラなら7階になります」
笑顔が引きつってるだろうなって事くらいは自覚してる。
「ハハハこのツンデレめ。私だってコスプレと現実の差くらいは理解している」
「うわぁ、参ったなぁ…」
心と体が一つになって口から参った感がはみ出した。
「ふむ、まあいつもの事だが」
艦長 (仮名)は視線を俺の左胸、ネームプレートに落とし、意味深に微笑む。
「赤城君…かな? どうせ君も私の事を『うわー…まいったなあ…』と思っているのだろう?」
「思うだけじゃなくて言っちゃいましたごめんなさい」
あれ、聞こえてなかったのかよ。言ったのバレちゃったよ。
しかし艦長は特に気に留めた様子も無く続ける。
「気にはしてない。当然の反応だからな。とりあえず私が言うよりも実際に自分の目で確かめた方が早いだろう」
え? 何を?? コスプレ???
戸惑う俺を他所に、艦長は自らの背中、マントの内側をまさぐり、取り出したのは———
「ホレ、この水の入ったヤカンの下に手をあててみろ」
「なんでヤカンなんか持ち歩いてるんですか! しかも背中からとかベタな!」
再び、心と体が一つとなった。
「小さい事は気にするな。さあ!」
艦長の切れ長の目がくわっ!っと見開かれ、有無を言わさない圧で迫った。ヤカンと。
ちょ、ま、無駄に美人なだけに近いの困る!
だって未成年だもん。
「し、仕事中なんですけど…」
ドギマギしつつ、先輩を見る。
こちらを見ていない。
なのに【裏山】と大きく書かれたスケッチブックをこちらに向けながら他の客の質問に応対してる。
先輩…期待はしてなかったけど、いつか労働基準局に告発してやるからな。あとそのスケブどっから出した。
「ふふふ…今に仕事などと言っていられなくなるぞ」
俺は観念した。
(本編次話【じっと手を見る厨二ポーズが意外に使い勝手が良くて困る】へ続くッ!)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる