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ヒーローは1日にして成らず?
人類はその日、カタカナ4文字で殺られる事を知った
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赤城 (♂)… 心に相棒を持つ青年。【意外と想像力は中二なのでは疑惑】が浮上している。詳しくは前話まで読み返して復習して。
司令 (♀)… 前話で登場予定だったが、進行の都合により声だけの出演となってしまった。しかしそれでもずっと椅子に座ったまま出番を待っていたらしい。鉄の尻を持つ謎の女性。
青沼 (♂)… 前話からずっと何かを話したくて仕方がない少年アニキ。残念ながらまだ話せない。進行状況のせいで。
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何の変哲もない玄関で靴を脱ぎ、何の変哲もない、ちょっとだけ洗い残された食器がある台所に立ち、見切れていた左右の空間 (前話参照)から何が飛び出してきても対応できるよう、自分の持つオーラを反射神経に電光石火フィードバックさせながら、俺は最奥の部屋へと歩を進めた。
うん、ビックリするのも疲れたくらいにマジで普通のアパートの一室だった。自分の部屋の方が多分家賃高い。少なくとも、この部屋の京壁風壁面パネルの表面のムンクの叫びのような染みとかウチには無いです。怖すぎィ!(101)
" 艦長 " 改め " 司令? " は、部屋に上がる前に見た無駄にデカいワークチェアへの座姿勢から微動だにせずに俺達を迎えた。
司令がいる奥の部屋はこれまた普通を通り越してレトロな六畳間だった。某核家族のアニメぐらいでしか見ないような円形のちゃぶ台、画面が湾曲したブラウン管テレビ、おばあちゃんが送ってくれた救援物資の様な段ボール箱…。下宿先かよ。
ていうかちゃぶ台にその椅子って使いにくくないか?
「いつもすまんな」
「いいってことよ、これも平和のためさ」
平和のため?
まだどういう人なのか分からない青沼さんが、冗談とも本気ともつかない事を言った。
「そうそう、司令、勝手に上がらせちまったけど、コイツがもしかして…」
青沼さんと司令、二人の視線がこちらへと滑る。
俺は無意識に生唾を飲み込んだ。
あの目…数日前に俺の日常を揺さぶった、得体の知れない目。恐れなのか、それとも未知への期待なのか、俺はただただその瞳に射竦められたまま動けずにいた。
「ふふ…、やっと来たのか」
やっと、という事は、ずっと待っていたという事だろうか。普通に考えたら到底《とうてい》関わり合いになりたくないと思われるようなあんな騒ぎを起こしておきながら。(第1話参照)
「あの…、こないだはどうも…」
無理矢理捻り出した返事が皮肉になってるんじゃないかと、言ってから気付き焦る。
…ごめんなさい、こういう時どんな返事をすればいいかわからないの。心の中のRが呟いた。
笑えばいいと思うよ…って笑えるか馬鹿タレ!! 心の中の碇マサカズが…ってうるせえよお前ら!! ビークワ!!!
「ふむ…ここまで来ておきながらノリが悪いようだが、まだ何か悩んでいるのか?」
司令がさも不思議そうな顔で尋ねる。
いやノリノリで来る状況じゃないでしょ。パリピかよ。
「ツッコむ所が多すぎて…」
正直こんな回答すること自体何かの末期なんだと思うが、本気で何一つ展開しない状況に対してのちょちょ本音だった。
ぶっちゃけキレられてもいいや、と少々投げやりだったが、反応は意外な所から起こった。
「な…なんだって…! 戦う前から敵陣に突っ込む事で悩んでいるなんて…! こいつは想像以上の戦士じゃねぇか!!」
「はい?」
この人ヤバい人だったぁぁぁぁ! すっかり油断してた!!
しかし勝手に盛り上がる青沼さんを司令がなだめる。
「青沼君、ビークワイアット」
あれ? なんか記憶にあるフレーズだな。
はははキコエナーイ。
「私は君の名前を憶えているが、青沼君とは初対面だろう。改めて自己紹介してもらえないだろうか?」
確かに、多分このままだと青沼さんの中で俺は一生レッドという名前で呼ばれる危険があった。それだけは避けたい。恥ずすぎる。
けど自分の口で自己紹介なんて一体いつ以来だろうか。バイトの面接の時も履歴書に必要な事は書いてあったからわざわざ口頭で自己紹介しなかったもんな。えーと…
「名前は、赤城って言います。赤い城って漢字です」
や、生まれてからずっと同じ苗字だけど、改まって言うと
「アカいシロって紅白かよ! おめでたいなオイ!!」
そっちじゃねえええええええええ!!!
【紅白】をどう読んだらアカギになるんですか!!?
地の文を遮られた反動で心のマサカズが三度降臨しかけたが、司令の鋭い眼差しがそれを制した。
「青沼君、ビークワ」
お願いだから畳み掛けるのやめて下さい。死ぬ。
マジでビークワに殺される。
「なるほど…」
司令はゆっくりと椅子に座り直す。あの時も感じた、底知れない何かが漂った気がした。青沼さんも感じたのか思わず黙り込む。
やっぱり…凄い人だったのか…!? 俺も青沼さんの緊張にあてられて息をのむ。しかし司令が次に発した言葉は打って変わって穏やかな物だった。
「赤城…そうか。いい名前だな」
えっ。
「あ、有難うござい…ます」
まさか苗字を褒められるとは思わなか
「ではレッドで!!」
「いきなり無視ですか?」
まあ何となく予想してたけどね!! ^p^
この数秒のやり取りに費やした文字数を返してくれ。
あと何であなた達、俺の地の文にセリフ被せてくるわけ?
「やっぱりレッドじゃねえか!」
青沼さんが嬉しそうだ。殴りたい、その笑顔。初対面でも全力で。
絶対負けるだろうけど。
「レッドって名前の呼び方についてはとりあえず置いといてですね! 俺が今日来たのは」
「ふふ、まあそう焦るな。分かっている」
あの時に見せた、悪戯を思いついた子供のような顔。
この人は一体どこからが本当で、どこまでが本当なのだろうか。自分でも何を言ってるか分からなくなるが、それそのものがまさに目の前の人物の印象だった。
「ずっと、何一つ疑問に思う事無く日常を送っていたのだろう? そこに突然私という異物が現れ、自らの秘密の一端を知った。それを見なかった事にせず、敢えてここにやって来た。という事はつまり、だ」
肘を置くデスクが無い代わりにワークチェアの肘掛けを利用し、やや前かがみで両手を組んで鼻から下を隠す例の司令ポーズをすると、司令は勿体ぶった仕草で言い放った。
「── 君の疑問に答えよう」
視界が一瞬ハレーションを起こしたかのような錯覚を覚える。
ここからが、始まりだ。
…たぶん。
(本編次話【ラッキーナントカってあるけど、必ずしもラッキーが幸せとは限らない例】に続くッ!)
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