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再び、胸アツ(当社比)の現実

部屋に戻ったら秘密の本棚が整理整頓されていた如き絶望感よ君に届け

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 オンボロワークチェアに座っていた司令がスッとスマホ画面から視線を外し顔を上げた。待ってましたと反射的に司令の方に振り替える。
 俺の過去をより詳しく説明するために、口頭での説明を端折はしょって司令にTIPS俺の過去を読んでもらっていた。なので現在しばしのアイドルタイム。
 青沼さんはグーグー寝てて、桃井さんは再び部屋に帰っていた。
 俺は特にする事も無く、それならばボーっとしていたかったんだけど…モモの執拗しつようなオカマBARトークに付き合わされて軽い胃もたれを起こしかけていた。なんでこのAI話題尽きないの? オカマの共通スキルなの??

「なるほど…」

 瞳を閉じ何を反芻はんすうしているのか。司令の読了の独り言が狭い部屋の天井へ溶けていく。

「レッド」

 司令の瞳が開かれ、俺を映す。

「は、はい」
「君は何と言うか…ポエミィだな」
「コロ…シテ……コロシ…テ…」

 一部の思春期少年がしたためる秘密の詩集を親に見られた時のような強烈なコロシテ感アポトーシスが俺をコロしに来た。
 いやそりゃあ自分で見せたんだけどさ!

「ふむ…君の御友人だが、状況から察するに恐らく偶然にも " 力 " に目覚めてしまったのだと推測できる」
「! やっぱり…そう思いますか」

 『練習したい』と言っていた理由やあの子が消えたと同時に無かった事になっていたボヤ騒ぎ。イタズラで火遊びをした可能性も無くは無いけれど人に迷惑がかかるような遊びは絶対にしない子だったし、だったら…ってうっすら予想してはいた。

「君にとっては辛く不快な話になってしまうかもしれないが」

 先程俺が見せてしまった荒れた姿を配慮はいりょしてか、司令は丁寧に前置きを入れてくれた。

「消えてしまった者達に高確率で共通している事の一つに、 " 力 " の発現がある」
「…えっ…?」

 司令は帽子の角度を調整し直すと続けた。

「勿論、全員がそうであったかは近い者の記憶からの推測でしかないので、という曖昧あいまいな表現になるが」

 力に目覚めた者がさらわれて怪人にされるって言う事は…

「それは、つまり…」
「そう。その推測すいそくが本当に正しかった場合、

 全身が泡立つ。
 俺も、あの子と同じように?

「安心しろ。君はもうすでに我々の保護下に置かれている」
「…もし俺がここに来なかったら…?」
「勿論日常を選択した者もいるが、一度でも我々に接触した能力者が世界から消えたという記録は無い。本人には申し訳ないが、一応発現してしまった能力が社会に混乱をきたさないか軽微けいびな監視下に置かれるからな」
「そう…なんですか…」

 もし俺がここに来る事を選ばなかったらそうなっていたのか。
 確かに気持ちのいい話じゃないよな。風呂とかお湯沸かすってだけの力で監視されるとか。公園の噴水でも沸騰ふっとうさせるんじゃないかとか思われてたのかしら。しないわい。

「話を戻すが、御友人の能力は推測するに【火】に関連するものであると思われる。建物をがすならば電気や光なども考えられるが、制御の利かない幼子(おさなご)が力を暴走させた場合にボヤ程度で済むとは思えんからな」

 ふと、あの子の日常の姿を思い出した。
 確かに、建物を落雷でうっかり吹っ飛ばすか光線でうっかり溶かしそうな気がする。うっかりと。

「本部の研究所の報告によると、怪人の持つ能力は消失前に発現した力をそのまま引き継いでいる可能性が高いそうだ。それは同時に、青沼君、桃井君、そして君にとってのでもある」

 そうか、それがつまり───。

「消えてしまった " 誰かにとっての大切な人 " に会えた例があった、って事ですよね? 例え怪人の姿であっても」
「その通りだ」

 さっき俺はその事実に絶望した。
 けれど確かにそれこそが希望でもあった。そう気付かされた。
 消えたまま二度と会えないワケじゃない。どんな姿にされたとしても、少なくとも生きているんだ。死んでしまえばそれこそ二度と会う事なんて出来ない。
 …!

「フッ…」

 司令はそれに気付いた俺を見てどこか満足げに微笑ほほえみ、ちゃぶ台に置かれた対話用マイクに話し掛けた。

「モモ」
『はぁ~い御指名ですかぁ~❤』

 空気を無視した音声でポンコツAIが返事をした。
 まだ続いてたのオカマBARのノリ。

「組織が過去に遭遇そうぐうした怪人の全リストを」
『え~~~? それお高いわよぉ??』

 ちょっと何言ってるか分からない。

「フッ…ではいずれ知るであろうレッドの秘密でどうだ?」
『うおっしゃあああぁぁぁぁぁゲットだおぅルあぁぁぁぁァァァァ!!!』
「なんでやねん!!!!」

 勝手に秘密を売られる予定にされた俺のツッコミは綺麗に無視された。
 モモの映っている画面の余白?にいくつも表示されるウィンドウ。そして次々表示されていく【番号+アルファベットの組み合わせ】で名付けられたファイル。
 え…怪人ってこんなにいるの…?

『ちょっと画面内に表示しきれないけどどうする?』
「構わん。その中から火に関する能力を持った怪人のデータだけ表示してくれ」
『りょ~かい❤ …ふンぬヴァッ!!』
「ヒッ」

 モモの筋肉が一瞬盛り上がった。
 えっ、なに、検索ってそうやるわけ? やだこわい。

『こんなん出ました~❤ あら、少ないわね?』
「…二件?」

 筋肉マッスル検索で結果に表示されたファイルはたった二つだけだった。

『一つは " 逃走 " 、もう一つは " 凍結処理 " されてるわね』

 凍結という単語に喉が鳴った。先程聞かされた空間凍結の意味───。
 しかし司令は淡々と指示を出す。
 そうか…きっと司令は何度もそれを目の当りにしてきたから…。

「戦闘記録ドローンによる映像はあるか?」
『どっちもバッチリあるわよぉ★』
「そうか…」

 司令は腰かけた椅子をこちらにくるっと体ごと向け、俺を真っ直ぐに見据みすえた。

「レッド。聞いての通り、君の御友人がもし怪人として現れていた場合、このいずれかにその姿が映されている。どうする? もしアレならあせらなくても…」
「見ましょう」
「…!」

 俺はブラウン管テレビ画面の真正面にドカッと爪先を立てて正座した。
 この怪人の対処の結果は " 逃走 " に " 凍結 " …。凍結の解凍方法はまだ分からないけれど、少なくともどちらもって事だ。
 希望が残されているなら絶望するのは後でもいい。

「よし。モモ、映してくれ」
『りょ~かい♪』




 俺、信じてみるよ。
 君がまだきっと生きてるって。








(本編次話【RPGで敵がパンツマンだった時の勇者はどれだけ複雑な心境だったのだろう】へ続くッ!!) 




          
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