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秋~婚約打診
5. 条件のすり合わせ
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「どうかな? 辺境伯領で暮らしていけそうかな?」
「はい。ですが、二つ叶えていただきたいことがあります」
「エリサ、やめなさい!」
「男爵、構わないよ。後から揉めないためにも、今話をしておきたい」
救ってもらう立場にもかかわらず条件を出したエリサをジャンが大慌てで止めるが、ジョフリーは後顧の憂いを断つためにも今話してしまおうと先を促した。その鷹揚さに甘えてしまおう。
本来なら家同士、今のこの場であればジョフリーとジャンの間で話されるはずのことを、ジャンではなくエリサが話している。それを許してくれるのだから、もう少し踏み込んでも大丈夫そうだ。
「ありがとうございます。一つは、私がクレッソン商会の魔法陣の商売に関わることをお許しください。二つ目は、クレッソン商会への魔物の素材の販売をお願いします。私は辺境へと参りますし、辺境で使用する魔法陣は私が書きましょう」
「商談のようだね」とジョフリーが思わずという感じでこぼしたが、まさにそのとおりだ。前世で転職活動は自分を商品として売り込む商談だと言われたが、今がまさにそのときだ。エリサの能力を対価として、エリサの将来と商会の将来を買う。そしてジョフリーも、辺境伯の縁者という身分を対価として、自分の夫人と領の戦闘力を買う。
そもそもが「偽装結婚の相手」から始まった話だ。これくらいドライなほうが、お互い気兼ねがいらない。
「私からの条件も二つ。領に住むことと、魔法陣技師として仕事をしてもらうことだ」
「問題ありません」
合意に至ったところで、ジョフリーがジャンとナタリーに向き直った。
「このような話の後で信用していただけないのは重々承知しておりますが、ご令嬢を悲しませないと誓いますので、結婚の許可をいただけますか?」
「……私からも、一つだけ条件を提示してもよろしいでしょうか」
「何なりと」
ここで断れば、エリサは魔法陣技師として使い潰されるのだから、断ることはできない。そのことを差し引いても、ジョフリーは誠実で、さらに辺境伯の縁者になれるというクレッソン男爵家にとってもこの上ない提案だ。
それでも、ジャンは娘のために一つ条件を出した。
「ときどき娘に会えるように取り計らっていただきたい。親としての願いは、それだけです」
「一年に一度は王都へ来るようにしましょう」
「どうぞ娘をよろしくお願いいたします」
ジャンとナタリー、それに隅っこに小さくなって座っていたアンリも一緒に頭を下げた。
たまには会いたいと条件を出してくれたジャンの思いが、娘の幸せを願う愛情が、エリサはとても嬉しかった。
ジャンの許可を得ると、ジョフリーは従者から花束を受け取り、ソファに座るエリサの前にひざまずいた。花束を差し出す正装に身を包んだ騎士様。剣と魔法で戦う荒々しさは花に覆い隠され、視界がキラキラしてまぶしい。
「エリサ嬢、私と結婚していただけますか?」
「もちろんです。お役に立てるように頑張ります」
「では契約しよう」と言ってくれてもよかったのに、きちんと貴族的なプロポーズをしてくれたことで、この道の先は明るいのだと信じられる。お互いに納得できる将来を作っていけるように、精いっぱい頑張ろう。
けれど目の端にいるナタリーが倒れそうだから、エリサは返事を間違えたらしい。貴族的プロポーズへの回答など習っていないのだから、許してほしい。
ジョフリーとエリサの婚約は、仮だが成立した。辺境伯夫妻に会ってもいないのにいいのか不安になるが、二代続けて領主代理夫人が不在になる状況を回避できるのなら、細かいことは気にしないそうだ。主筋でないというのも大きいのだろう。
魔法陣技師のシモンとフォール侯爵家には、ヴェルニュ辺境伯家から話を通してもらえることになった。家格としては同格だが、重要度も財力もヴェルニュ辺境伯家が圧倒的に上なので、黙らせることができるらしい。
近いうちにヴェルニュ辺境伯家を訪れて、正式に婚約を結ぶことになるが、男爵家からでは家格が違いすぎるので、どこかの伯爵家の養女となってから、婚約になる。その伯爵家は辺境伯家が決めるので、決まったら連絡をもらって挨拶に行く。
そしていずれはお茶会や夜会に出ることになるが、そのためのドレスを仕立てる必要もある。
しばらくは忙しい日々を過ごすことになりそうだ。
「エリサ嬢、観劇にでもお誘いしたいのですが、ご都合はいかがですか?」
「エリサはいつでも空いておりますので、ジョフリー様のご都合に合わせますわ」
魔法陣を刻むのに忙しいとエリサが答えてしまわないようにか、ナタリーが横から答えてしまった。マナー違反も甚だしいが、エリサに答えさせるとそれ以上のことをやらかしそうだと先手を打ったのだ。さすがにエリサだってこの状況で仕事を優先するほど空気が読めないわけではない。信用のなさが悲しいが、それだけやらかしたのも分かっているので反論できない。
ジョフリーはそんな母と娘の様子を見ておおらかに笑ってくれたので、よしとしよう。そのジョフリーは、この後辺境伯夫妻に話を通す必要があるのだからと従者に急き立てられ、慌ただしく帰っていった。
「エリサちゃん、おめでとう、と言ってもいいのかな……」
「お父様、ありがとうございます」
「エリサ、貴女はマナーを習いなおしなさい。モルビエ伯爵夫人にお願いしようかしら」
「エリサちゃんがお嫁に行っちゃう」と感傷に浸っているジャンの横で、ナタリーは現実的だ。せっかくまとまった話も白紙撤回されるかもしれないという危機感を抱いているらしい。
辺境伯領に引っ越してしまえば、マナーが必要になる場面は少ないだろうが、これからジョフリーの婚約者としてお披露目される場では必要になる。付け焼き刃で何とかなるものでもないような気がするが、やらないよりはましだ。
かなりの好条件で窮地を救ってもらったジョフリーの評価を落とさないためにも、真剣に取り組もうとエリサは決心した。
「はい。ですが、二つ叶えていただきたいことがあります」
「エリサ、やめなさい!」
「男爵、構わないよ。後から揉めないためにも、今話をしておきたい」
救ってもらう立場にもかかわらず条件を出したエリサをジャンが大慌てで止めるが、ジョフリーは後顧の憂いを断つためにも今話してしまおうと先を促した。その鷹揚さに甘えてしまおう。
本来なら家同士、今のこの場であればジョフリーとジャンの間で話されるはずのことを、ジャンではなくエリサが話している。それを許してくれるのだから、もう少し踏み込んでも大丈夫そうだ。
「ありがとうございます。一つは、私がクレッソン商会の魔法陣の商売に関わることをお許しください。二つ目は、クレッソン商会への魔物の素材の販売をお願いします。私は辺境へと参りますし、辺境で使用する魔法陣は私が書きましょう」
「商談のようだね」とジョフリーが思わずという感じでこぼしたが、まさにそのとおりだ。前世で転職活動は自分を商品として売り込む商談だと言われたが、今がまさにそのときだ。エリサの能力を対価として、エリサの将来と商会の将来を買う。そしてジョフリーも、辺境伯の縁者という身分を対価として、自分の夫人と領の戦闘力を買う。
そもそもが「偽装結婚の相手」から始まった話だ。これくらいドライなほうが、お互い気兼ねがいらない。
「私からの条件も二つ。領に住むことと、魔法陣技師として仕事をしてもらうことだ」
「問題ありません」
合意に至ったところで、ジョフリーがジャンとナタリーに向き直った。
「このような話の後で信用していただけないのは重々承知しておりますが、ご令嬢を悲しませないと誓いますので、結婚の許可をいただけますか?」
「……私からも、一つだけ条件を提示してもよろしいでしょうか」
「何なりと」
ここで断れば、エリサは魔法陣技師として使い潰されるのだから、断ることはできない。そのことを差し引いても、ジョフリーは誠実で、さらに辺境伯の縁者になれるというクレッソン男爵家にとってもこの上ない提案だ。
それでも、ジャンは娘のために一つ条件を出した。
「ときどき娘に会えるように取り計らっていただきたい。親としての願いは、それだけです」
「一年に一度は王都へ来るようにしましょう」
「どうぞ娘をよろしくお願いいたします」
ジャンとナタリー、それに隅っこに小さくなって座っていたアンリも一緒に頭を下げた。
たまには会いたいと条件を出してくれたジャンの思いが、娘の幸せを願う愛情が、エリサはとても嬉しかった。
ジャンの許可を得ると、ジョフリーは従者から花束を受け取り、ソファに座るエリサの前にひざまずいた。花束を差し出す正装に身を包んだ騎士様。剣と魔法で戦う荒々しさは花に覆い隠され、視界がキラキラしてまぶしい。
「エリサ嬢、私と結婚していただけますか?」
「もちろんです。お役に立てるように頑張ります」
「では契約しよう」と言ってくれてもよかったのに、きちんと貴族的なプロポーズをしてくれたことで、この道の先は明るいのだと信じられる。お互いに納得できる将来を作っていけるように、精いっぱい頑張ろう。
けれど目の端にいるナタリーが倒れそうだから、エリサは返事を間違えたらしい。貴族的プロポーズへの回答など習っていないのだから、許してほしい。
ジョフリーとエリサの婚約は、仮だが成立した。辺境伯夫妻に会ってもいないのにいいのか不安になるが、二代続けて領主代理夫人が不在になる状況を回避できるのなら、細かいことは気にしないそうだ。主筋でないというのも大きいのだろう。
魔法陣技師のシモンとフォール侯爵家には、ヴェルニュ辺境伯家から話を通してもらえることになった。家格としては同格だが、重要度も財力もヴェルニュ辺境伯家が圧倒的に上なので、黙らせることができるらしい。
近いうちにヴェルニュ辺境伯家を訪れて、正式に婚約を結ぶことになるが、男爵家からでは家格が違いすぎるので、どこかの伯爵家の養女となってから、婚約になる。その伯爵家は辺境伯家が決めるので、決まったら連絡をもらって挨拶に行く。
そしていずれはお茶会や夜会に出ることになるが、そのためのドレスを仕立てる必要もある。
しばらくは忙しい日々を過ごすことになりそうだ。
「エリサ嬢、観劇にでもお誘いしたいのですが、ご都合はいかがですか?」
「エリサはいつでも空いておりますので、ジョフリー様のご都合に合わせますわ」
魔法陣を刻むのに忙しいとエリサが答えてしまわないようにか、ナタリーが横から答えてしまった。マナー違反も甚だしいが、エリサに答えさせるとそれ以上のことをやらかしそうだと先手を打ったのだ。さすがにエリサだってこの状況で仕事を優先するほど空気が読めないわけではない。信用のなさが悲しいが、それだけやらかしたのも分かっているので反論できない。
ジョフリーはそんな母と娘の様子を見ておおらかに笑ってくれたので、よしとしよう。そのジョフリーは、この後辺境伯夫妻に話を通す必要があるのだからと従者に急き立てられ、慌ただしく帰っていった。
「エリサちゃん、おめでとう、と言ってもいいのかな……」
「お父様、ありがとうございます」
「エリサ、貴女はマナーを習いなおしなさい。モルビエ伯爵夫人にお願いしようかしら」
「エリサちゃんがお嫁に行っちゃう」と感傷に浸っているジャンの横で、ナタリーは現実的だ。せっかくまとまった話も白紙撤回されるかもしれないという危機感を抱いているらしい。
辺境伯領に引っ越してしまえば、マナーが必要になる場面は少ないだろうが、これからジョフリーの婚約者としてお披露目される場では必要になる。付け焼き刃で何とかなるものでもないような気がするが、やらないよりはましだ。
かなりの好条件で窮地を救ってもらったジョフリーの評価を落とさないためにも、真剣に取り組もうとエリサは決心した。
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