悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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8. 私の婚約者(ジェンシャン視点)

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「男の愛人を囲っていると思われていたとは、傑作ですね」
「相手はお前かもしれんぞ」
「やめてください。私にも選ぶ権利はあるはずです」

 私はトルゴード王国のウィロウ公爵家次男ジェンシャン。25歳だ。18歳から騎士団に所属している。
 私に軽口をたたいているのは侍従のカクタスだ。子どもの時から共に育てられたので、遠慮がない。

 私の父であるウィロウ公爵はトルゴード王国の宰相、兄が父の後を継ぐので、私は身体を動かすのが好きだったこともあって騎士団に入ることにした。
 剣の才能があったのか、騎士団の中でも身分とは無関係に評価され、まあ有り体に言えば調子に乗っていた。
 公爵家という家柄に加え、社交界でも有名だった母譲りの顔で、女性たちからはそれはもうモテた。既に別の婚約者がいらっしゃった王女殿下が私の婚約者になりたいと仰った時も、当然だと思っていた。自分にできないことは何もないと、本気で思っていた。

 その思い上がりに罰が下されたのだろう。
 魔物討伐中に、魔物の爪で顔を引き裂かれた。目の上から頬にかけてつけられた傷は、奇跡的に視力には影響ないとのことだったが、醜い跡が一生残るだろうという診断だった。
 けれど、本当の罰だと思ったのは、その傷跡を見て、それまで私に熱を上げていた令嬢たちが、波が引くように去って行ったことだ。王家と公爵家を巻き込んで婚約者を私に変えてほしいと大騒ぎされた王女殿下まで、やはり今の婚約者がいいと仰ったのだ。
 それで悟った。周りが見ているのは、私自身ではなく私の殻だけなのだと。家柄と容姿、それ以外には興味がないのだと。
 王女殿下と高位貴族の令嬢が抜けて、私に群がるのは公爵家という家柄に惹かれる令嬢ばかりだ。彼女たちの興味は家柄にしかないのだと思うと、相手をするのも億劫になった。

 怪我が治って騎士団に戻ると、むしろ勲章がついたじゃないかと言われ、やっと肩の力が抜けた。ここでは容姿など関係ない。魔物相手に役に立つのは剣の腕だけだ。
 騎士団での居心地が良すぎて、実家に帰ることも少なくなった。もう令嬢の相手はしたくない。
 それからは、王女殿下の掌返しに傷ついたということにして、ほぼすべてのパーティーを欠席した。

 ある日、母から至急屋敷に帰ってくるようにと言われ、何かあったのかと久しぶりの屋敷に足を踏み入れた。そこで聞かされたのは、私の婚約が決まり、しかもお相手は隣の隣の国ボターニの公爵令嬢だという。
 聞いた感想は、まだ諦めていなかったのか、他国だともう断れないな、の2つだった。

「公爵家のご令嬢でとても優秀らしいの。薬師としてやっていけるくらいの実力がおありだそうよ。でもあの国では女性活躍できないでしょう。それにそういう方なら、騎士団に入り浸りの貴方と気が合うんじゃないかと思って」

 話を聞くと、第二王子殿下から婚約破棄をされてしまった令嬢の嫁ぎ先を探していたボターニの公爵家から連絡があったものの、ローズモス国王陛下の側妃の話が持ち上がり、その話は無くなってしまった。それで他にいい方はいないかとこちらから聞いたところ、今回の令嬢が候補に上がったらしい。自国の伯爵家の長男と婚約しているそうだがそちらは断って、公爵家の養女として嫁いでくるという。
 実質もう断れないところまで話は進んでいる。
 ご令嬢なのに、最初から仕事仲間のような間柄を期待しては失礼だと思うが、この国で活躍の場を得てくれれば、結婚生活についてはうるさく言われないかもしれない。

「まずはボターニに行ってらっしゃい」
「仕事があるのですが」
「少しの休みも取れないとは、他の方の鍛え方が足りないんじゃなくて?」

 ああ、これは行かないと、母が騎士団に文句をつけてしまう。宰相夫人の言葉を無視することはできないだろうから、混乱が起きる前に行くべきだな。
 騎士団の仕事の都合をつけて、移動の速さ重視のために、侍従のカクタスと数人の護衛と共に馬を飛ばしてボターニ王国へと急いだ。


 国を離れられない父からの手紙をグローリ公爵に渡し、お互いの条件を確認した後に顔合わせに臨んだが、そこにいたのは陽の光をいっぱいに浴びて咲く大輪の花のような令嬢と、月夜にひっそりと開く小さな花のような令嬢だった。大輪の花が、ボターニの花と言われるローズモス国王に嫁ぐ令嬢だろう。となると、こちらの清楚な令嬢が私の相手か。華やかさはないが、凛とした静かな美しさがある。

 お互いに自己紹介したが、ナスターシャ嬢が私の顔をぼんやりと見ている。何かを考えているようだが、悲鳴を上げたり、あからさまに顔をそらされたりしないだけマシなのだろう。
 面倒なことはさっさと終わらせようと声をかけたが、返ってきたのは、眼球に傷がついていないかという予想外の返答だった。本が好きな変わり者だとは聞いていたが、本当に変わり者のようだ。
 しかも、本人は言うつもりがなかったのにうっかり声に出してしまったようで、澄まして取り繕おうとしているが、全く取り繕えてない。公爵令息が笑いをこらえているので、どうやらこれが素のようだ。

 せっかくなので、本音で話そうと気になっていることを聞き出してみると、私の婚約が決まらなかった理由は、私が女性に興味がないからではないか、と推測していた。
 意表を突かれたなんてものじゃない。頭は良いようだが、予想が斜め上すぎる。何故そこにたどり着いたのか、詳しく聞いてみたい。
 年齢相応の空想好きな少女なのだろうか。だが少女が夢見るのは白馬の王子様ではないのか?うちは兄弟が男ばかりだったから分からないな。

 この令嬢、妙に落ち着き払っているし、変わり者というカテゴリに入れていいのか迷うくらい変わっているが、まあでも彼女となら上手くやっていけそうな気がする。
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