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御伽話
開幕
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皆さん「こんにちは。」
夜だったら「こんばんは」、朝だったら「おはようございます」ですね。
ワタシの名前は「メモリー」。
すべての御伽話を記録する、記録係です。
ワタシの仕事はただ、御伽話を記録するだけの簡単なものです。
けれど、こんな簡単なお仕事でも…問題はたくさんあるのです。
ある者は幸せを手に入れ、ある者はその命を奪われ、ある者は人生を狂わされました。
そんな御伽話でも、一つに「御伽話」と言葉にしても様々あります。
人や時代と共にその姿を変えて行く御伽話に、記録係のワタシはいつも天手古舞なのです。
主人公やヴィラン役の人がみんな、幸せになる世界があるとしたら…それは、どれほどの「御伽話」となるのでしょうか?
『どれほどって、そんなん在ったら御伽話の定義が変わっちまうよ。』
そう言う男の子は、ワタシの友人の「シャード」。
口が悪いけど、根はいい人なの。
シャドーは物語の影そのもので、御伽話の別の姿がシャドーを形作っているのです。
だから、物語によってシャドーの姿形は変わってしまうのです。
先程まで王子様のような格好をしていたというのに、物語が変わってしまったことにより、彼の姿はツバメになってしまいました。
「それって…。」
『多分、〈幸福の王子〉だな。』
「えっと、イギリスのオスカー・ワイルド作のお話ですね。」
『ああ、そうだ。渡り鳥であるが故の、ツバメの性だよなぁ。』
そう言うシャドーは、いたずらっ子のような笑みを浮かべていました。
シャドーの姿は、人や時代の力ですぐに変わってしまいます。
だから、次々と姿が変わるシャドーは、自分の本当の姿を忘れてしまったのです。
それでも、本来の姿に戻れるのは、ワタシが彼の本当の姿を覚えていて、記録しているからなのです。
『本当、メモリーにはいつも頼ってばっかだなぁ。』
「いいえ。記録するのが、ワタシの仕事なので気にしないで下さい。」
『…なぁ、メモリー』
「何ですか?」
シャドーの顔が、ワタシの顔に近づきました。
記録するのが、ワタシの仕事です。
それは、変わることのないワタシの日々の仕事でした。
『お前の姿は、いつ変わるんだ?』
そう聞くシャドーは、少し寂しそうでした。
「…ワタシは、変わることはありませんよ。だって、ワタシは…。」
物語を記録し、次の時代に記録されたものを送るのがワタシに託された、永遠に変わることのない仕事なのです。
ワタシは、そのお仕事に不満を持ったことは一度もありませんでした。
だからこそ、シャドーのように姿形が変わらずとも、ワタシは何も…
『メモリー、見てみろ!今度は、ニャンコだぜ!』
そう言うシャドーは、可愛らしい猫になっていました。
真っ赤な長靴を履いた、トラ柄の猫になっていました。
ワタシは何も…思うことは、ありません。
「シャドー…遊ばないでください。」
『いいだろ、…別に。それに、お前もオレみたいに姿変えてみろよ。』
「変えません。ワタシは、今の姿を気に入っているんです。」
『…ふぅーん。』
つまらなそうにワタシに返すシャドーは、トラ柄の猫からまた王子様の姿へと変わります。
初めの王子様とは違う、別の王子様へと姿を変えたシャドーは、ワタシに言いました。
『ま、昔から一緒にいるし?どんなことがあっても、メモリーはオレの』
「シャドー、物語が始まりますよ。」
『なぁ。いつも最後まで言わせてくれないの、何で?』
「は?何か言いました?」
『あ、うん。分かった、何でもねぇや。』
そう言って目を逸らすシャドーに、ワタシは背を向くて記録書を取り出しました。
言わせません。
決して、言わせるはずがないでしょう?
だって、ワタシはそんなハッピーエンドを望んではいませんから。
だから、だから…あと少し。
あと少しだけ、この物語を続けさせてください。
物語はまだ…始まったばかりなのですから。
夜だったら「こんばんは」、朝だったら「おはようございます」ですね。
ワタシの名前は「メモリー」。
すべての御伽話を記録する、記録係です。
ワタシの仕事はただ、御伽話を記録するだけの簡単なものです。
けれど、こんな簡単なお仕事でも…問題はたくさんあるのです。
ある者は幸せを手に入れ、ある者はその命を奪われ、ある者は人生を狂わされました。
そんな御伽話でも、一つに「御伽話」と言葉にしても様々あります。
人や時代と共にその姿を変えて行く御伽話に、記録係のワタシはいつも天手古舞なのです。
主人公やヴィラン役の人がみんな、幸せになる世界があるとしたら…それは、どれほどの「御伽話」となるのでしょうか?
『どれほどって、そんなん在ったら御伽話の定義が変わっちまうよ。』
そう言う男の子は、ワタシの友人の「シャード」。
口が悪いけど、根はいい人なの。
シャドーは物語の影そのもので、御伽話の別の姿がシャドーを形作っているのです。
だから、物語によってシャドーの姿形は変わってしまうのです。
先程まで王子様のような格好をしていたというのに、物語が変わってしまったことにより、彼の姿はツバメになってしまいました。
「それって…。」
『多分、〈幸福の王子〉だな。』
「えっと、イギリスのオスカー・ワイルド作のお話ですね。」
『ああ、そうだ。渡り鳥であるが故の、ツバメの性だよなぁ。』
そう言うシャドーは、いたずらっ子のような笑みを浮かべていました。
シャドーの姿は、人や時代の力ですぐに変わってしまいます。
だから、次々と姿が変わるシャドーは、自分の本当の姿を忘れてしまったのです。
それでも、本来の姿に戻れるのは、ワタシが彼の本当の姿を覚えていて、記録しているからなのです。
『本当、メモリーにはいつも頼ってばっかだなぁ。』
「いいえ。記録するのが、ワタシの仕事なので気にしないで下さい。」
『…なぁ、メモリー』
「何ですか?」
シャドーの顔が、ワタシの顔に近づきました。
記録するのが、ワタシの仕事です。
それは、変わることのないワタシの日々の仕事でした。
『お前の姿は、いつ変わるんだ?』
そう聞くシャドーは、少し寂しそうでした。
「…ワタシは、変わることはありませんよ。だって、ワタシは…。」
物語を記録し、次の時代に記録されたものを送るのがワタシに託された、永遠に変わることのない仕事なのです。
ワタシは、そのお仕事に不満を持ったことは一度もありませんでした。
だからこそ、シャドーのように姿形が変わらずとも、ワタシは何も…
『メモリー、見てみろ!今度は、ニャンコだぜ!』
そう言うシャドーは、可愛らしい猫になっていました。
真っ赤な長靴を履いた、トラ柄の猫になっていました。
ワタシは何も…思うことは、ありません。
「シャドー…遊ばないでください。」
『いいだろ、…別に。それに、お前もオレみたいに姿変えてみろよ。』
「変えません。ワタシは、今の姿を気に入っているんです。」
『…ふぅーん。』
つまらなそうにワタシに返すシャドーは、トラ柄の猫からまた王子様の姿へと変わります。
初めの王子様とは違う、別の王子様へと姿を変えたシャドーは、ワタシに言いました。
『ま、昔から一緒にいるし?どんなことがあっても、メモリーはオレの』
「シャドー、物語が始まりますよ。」
『なぁ。いつも最後まで言わせてくれないの、何で?』
「は?何か言いました?」
『あ、うん。分かった、何でもねぇや。』
そう言って目を逸らすシャドーに、ワタシは背を向くて記録書を取り出しました。
言わせません。
決して、言わせるはずがないでしょう?
だって、ワタシはそんなハッピーエンドを望んではいませんから。
だから、だから…あと少し。
あと少しだけ、この物語を続けさせてください。
物語はまだ…始まったばかりなのですから。
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