追われる身にもなってくれ!

文月つらら

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誤魔化すな危険

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「ちょっとライトぶれっぶれなんだけど!」

「ライトもう少しきちんと当ててくれねえとオレの弓が味方を貫くぜ!」

「俺も戦ってるんだから仕方ないだろ! って痛えクナイを俺に刺すなよソフィア!」

 暗闇の中で俺がライトを片手に戦闘をするという暴挙に出た俺たちは当然のように苦戦していた。というのも考えたらすぐわかることだが、ライトでうまく敵を照らせないのだ。
 もちろんライトを持つだけの係になっていいのならずっとうまく照らせるだろうが、協調性をどこかへ置いてきたこいつらは俺を守ることなど考えてもいない。先ほどから狙われては誰かが助けてくれることもなく、片手に持った双剣の片割れで攻撃を防いでいた。

「ていうか守れよ俺を! ライト持ってるせいで俺を狙ってくるんだから! 痛え矢刺さったちょっと!」

「悪ぃ、痛みくらい耐えてくれフィン! それもう一発!」

「痛いって! 執拗に俺の足に矢を射つな! 逆に器用か!」

 蜂と紛らわしいんだよねキミの足、とよくわからないことを言いながら俺の足を弓でひたすら狙うルキ。仮にも狩人ならこの人間よりも大きい巨大蜂なんて簡単に仕留めてほしい。
 もはやわざとなのではないかというくらい正確に俺の足を狙う弓矢に苛立ちを感じ始めてきたとき、更なる衝撃が俺の腕を襲った。

「あっ! 蜂かと思ったごめん。」

「リーナには俺の腕がこのでっかい蜂に見えるのか? 足のせいで麻痺してきたが腕にスピアは流石に痛いんだが?」

「刺さらなかったし許してよ、ギリかすり傷みたいな感じだし……。」

 かすり傷でこんなに血が出てたまるか、というくらいドボドボと出血を始めた腕。肩から肘にかけて見事な一直線を描いた傷は、どう見ても重症だった。
 なんで俺がこんな目に、とか蜂むしろ無傷なのではとか言いたいこともたくさんあるが、足の弓矢のこともあって段々と意識も遠ざかってきている。
 それでもこんなところで倒れるわけにはいかず、俺は必死で意識を保ちながらライトを握りしめた。

「俺そろそろおまえらのせいでヤバいから早く蜂を仕留めっ……!」

「あっ!」

 腕に走る更なる衝撃と、シンティアのやってしまったというような声とともに俺は今度こそ意識を手放した。




「……っと、あれ、俺は……。」

「良かった、目を覚ましたのね。」

 後頭部にあたる柔らかいぬくもりを感じながら俺は目を開けた。何故寝ているのかって、そういえば腕と足をまさかの味方にやられて意識を飛ばしたような気がする。
 気になって腕と足を上に上げてみるとどこも痛みはなく、傷も見事になくなっていた。ソフィアが治癒魔法で治してくれたのだろうか。
 それでもかなりの血が流れたからか、まだ頭がボーッとしている。ここは何処だろうとか、蜂はとか気になることはたくさんあるのに、口を動かすのも怠い。
 しばらくボーッとしているとそれが伝わったのかわからないが、リーナがあれからの事を話し出した。

「あの巨大な蜂だけど、あれからみんなで魔法連発してなんとか倒せてね。でもまた同じようなのがいたらまずいから、ソフィアが治癒魔法で傷を治したあと、ルキがフィンを背負ってここまでなんとか運んだの。」

 そういえばここはあの落ちた洞窟のような場所ではなく、お日様もあるし近くに焚き火のようなものもある。外に出られたのか、と安心すると同時にまたドッと疲れが押し寄せてきた。
 何処かはわからないしもうすぐ夕方のようだが、お日様があるというだけでこんなにも安心できるとは。
 未だに感じる後頭部のぬくもりと柔らかさも堪能しつつ、俺はリーナが話を続けるのを待った。

「腕ごめんね、痛かったでしょ。」

 やられた方の腕を撫でながらそう聞くリーナの顔はかなり曇って見える。もう痛くないし傷もないのだから気にするな、とその手を掴もうか悩むが、好きにさせておく方が良さそうだ。

「気にするな、もう痛くない。」

「でも……。私ももちろんだけど、シンティアたちも心配してたわよ。私たちのせいだし……。」

 そういえばシンティアたちはどうしたんだろう、と辺りを見渡すが何処にも姿が見当たらない。また狩りとかに出かけているのだろうか。

「他のみんなは……。」

「食べ物探しに行ってるわ。木はなんとか少し見つけたからこうして焚き火にできたんだけど、食べ物は見つからなくて。干物とかはできるだけ取っておきたいし。あ、何か飲む?」

「いや、いい……。俺もそろそろ起き上がってキャンプの準備を……。起き上がって……?」

 俺はどこに寝ているんだろう、と頭の下にある柔らかいものを撫でる。こんな柔らかい枕を買った覚えはない。
 すべすべしていて、それでいて柔らかくて気持ちがいいこれは最高の枕だな、と離れ難く感じてしまう。疲れもとれてきたが、どうせならこのままもう一眠りしてしまいたいくらいだ。
 ずっと触っていたいと撫でまわしていると、リーナの顔がどんどん赤くなっていった。それと同時に枕も少し震え出している。

「どうした?」

「どうした、じゃないわよ! 足撫でまわすのはやめてよね。私だって恥ずかしいんだから!」

「足……? え、まさかこれ!」

 急いで上半身だけ起こして自分が寝ていた場所を見ると、そこには足を伸ばして座っているリーナがいた。俺がずっと寝ていたからか、その太ももは少し赤くなってしまっている。
 膝枕をされていたのか、とようやく気づくと同時に俺の顔も熱を持っていくのを感じた。これが、膝枕。俺が恋人ができたらやってほしいベスト10に入っている膝枕、しかも生。
 そう、生の太ももである。ミニスカート履いててくれて本当にありがとうの気持ちしかない。
 恋人ではないにしろ突如訪れた夢の体験に少しだけ意識を飛ばしてよかったと出血にも感謝した。

「私のせいでもあるしって罪悪感もあって膝枕してたの! まさか撫でられるとは思わなかったけど。」

「やけに気持ちが良い枕だなってつい……。すまん……。でもおかげでだいぶ良くなったよ。」

 そう言うと私の膝枕なんだから当然でしょとリーナはドヤ顔をした。まだ恥ずかしさがあるのか相変わらず顔は赤いままだ。
 それには触れないようにして、さてそろそろキャンプの準備をするか、と立ちあがろうとすると凄い勢いで腕を引っ張られ俺の頭は太ももへ戻された。仮にも大量出血した後なのだからもう少し優しく扱ってくれてもいいのではないか。

「もう大丈夫なんだが。」

「ソフィアが戻ってくるまで寝てて! キャンプの準備なら大丈夫だから。」

「そうは言ってももうどこも悪くないぞ。あ、いや、膝枕は嬉しいんだけどな。ただ暇というか……。」

「じゃあこのまま私とお話ししてて。」

 そう言ってリーナは俺の頭を太ももにグイグイと押しつけた。何このご褒美状態だがそんなに頭を抑えらつけられると少し痛い。
 それにしても本当にこの太ももは最高だ。もう起き上がりたくない。ずっとここで寝たいしあわよくばもう一回撫でまわしたい。
 そんな変態みたいなことを考えながら膝枕を堪能していると、リーナが俺の髪を撫でながら口を開いた。

「フィンはさ、前に女の子の理想はないって言ってたけどタイプくらいあるでしょ? どんな子がタイプなの?」

 まさかの恋バナ。前に二人でいたときもそうだったが恋バナのレパートリー多すぎるだろ。
 そういう話をするのはどちらかといえば苦手で逃げたい気持ちが出てしまう。また適当に答えて違う話題になるのを待とう、と俺はリーナを見上げた。

「可愛い彼女が欲しいとはずっと思ってるが、条件とか好みは特に思いつかないな。可愛いってのも自分で言っててよくわからないし。」

 そう言うと求めていた回答と違ったらしいリーナは少し不満げな表情をした。

「んもう、それじゃあよくわからないじゃない! もっとあるでしょ!」

「いやマジで可愛いしか思いつかないんだって……。」

「じゃあ私は? 私は可愛い?」

 思ってもいなかったその返しに俺の思考は一瞬停止した。そりゃあこの下から見ても整っている顔は可愛いと思う。
 自分で言い出したくせに恥ずかしくなって目を逸らすところも、俺の体を気にして膝枕をしてくれるところも、顔だけでなく行動も可愛いとは思っているけれど。
 それでもこれが恋愛感情の可愛いかと聞かれるとよくわからない。それくらい俺は女性と接した回数が少なすぎた。
 おかげでこういうときどう答えたら正解なのかもわからない。モテる男はサラッと可愛いよとか言うものなのだろうか。
 モテる男、そう、ルキ助けてくれ頼むと思いながら顔を横に向けると、気まずそうにしながら立っている三人の姿が見えた。

「あー、悪ぃ。取り込み中? もっかい狩り行ってくるわ。」

「お姉さんは続きが見たいからここにいるけど気にしないでね~。」

「いや気にしろ、そして続きなんてねえよ。ルキも戻ってきてくれ。」

 そう言って立ち上がるとリーナも続いて横に並んだ。先ほどの回答をまだ待っているのかジッとこちらを見つめてきている。
 いやさすがに勘弁してくれとリーナの頭を撫でて誤魔化そうとするも、その後も続く無言の圧力に俺は逃げ出そうとした。

「あー、また今度、な。ほら、夕飯の準備しよう。じゃ、俺お皿とか出すから!」

 それだけ早口で言ってバッグを取りに行こうとするとすごい力で腕を掴まれた。見なくてもわかる、この強さはリーナだ。

「そんなに私可愛くない……?」

 泣きそうな声に慌てて振り返ると、リーナが目に涙を溜めながらこちらを見ていた。泣くほどのことかこれは、と俺は軽くパニックになりながらリーナの涙をぬぐう。

「おいおい、なにも泣くことないだろ……。」

「だって、可愛くないって、ショックでっ。」

 そんなことは一言も言ってないが、答えなかったということは可愛くないということだとリーナの中でまとまってしまったようだ。
 困ったなと思っている間にもどんどん涙は溢れてきていて、すでに俺の指では役不足になっている。これはもう恥ずかしいとか言ってる場合ではなさそうだ。
 もうどうにでもなれと俺はリーナを引き寄せてしっかりと抱き締めた。
 想像よりも華奢で柔らかい女性特有の体つき、鼻をくすぐるシャンプーの香り。どちらも俺の理性をグラつかせてくるが今はそんなことを言っている場合ではない。
 こんなことしたことないし、心臓もかつてないほどドキドキしていて格好がつかないが意を決して口を開いた。

「誰も可愛くないなんて言ってないだろ。おまえは誰より可愛いよ。」

 いやもっと気の利いた言葉あっただろと自分でもツッコみたくなったが、こちらも余裕がないのでこれで許して欲しい。一応本心ではあるし、これでダメならもうお手上げだ。
 泣きやんでくれないかなと恐る恐る手を緩めてリーナを見ると、涙は止まったがこれでもかと顔を真っ赤にしてフリーズしていた。息しているだろうか。
 少し不安になって、リーナ、と呼びかけるとハッとしたように勢いよく俺の腕から逃げてソフィアの後ろに隠れていった。

「いやそんな逃げなくても……。」

 今度は俺が凹む番だった。

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