追われる身にもなってくれ!

文月つらら

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俺の知らないみんなの関係

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「スミラ・リュースです。元ヒンメル第15師団所属、ご主人様の副官でありメイドです。今はご主人様がいる場所がスーミの居場所です。よろしくです。」

「本当にお待ちしていましたよ、スミラさん! やっと! 家事が! 楽になります!」

 自己紹介をしたスミラにマクシムがわかりやすく歓喜した。そういえば出る時にスミラがいれば家事が楽になると言っていたし、普段1人で家事を請け負っているマクシムにとっては待望のメイドだったのかもしれない。
 もちろん俺たちも自分の部屋などは自分で掃除するが、共用部分はどうしても任せっきりになることが多かった。いくら外出が多いからとはいえ、マクシムの苦労はかなりのものだったのだろう。
 そう思うと少し申し訳なくなってきたが、これからはスミラもいるしきっとマクシムのストレスも軽減されると信じたい。

「あんまり働きたくないです。でもご主人様のためになるなら頑張るです。」

「おうおう、褒めてやっから適当に家事も頑張れや。」

「なでなでもほしいです。」

「おうおう、気が向いたらなぁ。」

 スミラのことを適当にあしらいながらアドラーは優雅に紅茶を飲んでいる。そんな扱いをしながらもスミラが横にいるのが嬉しいのか、前よりも柔らかくなった表情に俺は思わず笑った。

「んだよ、フィン。」

「いや、別に。スミラがきてからアドラーが幸せそうだと思って。」

「……勝手に人の気持ち決めつけてんじゃねーよ。さーてと、俺は疲れたから寝る。何かあったら起こしに来い。」

 じゃあな、と言いながら自室に去ってくアドラーの後をスミラが慌てて追いかけていく。それをチラッと一瞬だけ確認したアドラーはやはり機嫌が良いのか、口元を普段よりも緩めていた。

「完全に逃げたねーアイツ。で、実際どうなの? あの2人の関係。」

 本人がいなくなったのをいいことに、ルキが興味津々にアリーチェに話しかける。正直俺もあの2人の関係性は気になるし、洗いざらい喋ってほしいものだ。

「別にただのメイドと主人ですわ。まぁ、さっきご覧になった通りスミラはアドラーのことが好きですけれど、アドラーはあんな感じではっきり言わず、でも期待させるようなことは言ってそばに置いてる最低な男ですわね。まるでどこかの誰かを彷彿とさせますわ。」

「ルキか?」

「いや絶対キミのことだからね。オレは全員を平等に愛してるから違うし。」

「なんで俺なんだよ。俺は別に誰にもあんな風に接してないだろ。」

 刺さっているかと思うくらいの視線をあちこちから感じるが、俺はわざと気がつかないフリをして軽く咳をした。この流れは無理矢理変えないと俺にとってよくない状況ができあがるのは今までの経験からして高いだろう。
 もちろんさっきの言葉は本心からで、俺からすれば女の子に気を持たせるようなことを言ったりなんてしていないと言い張りたいところではあるが。

「あー、とりあえずその、スミラも仲間にできたことだし俺もあっちで休憩していようかな。それじゃ。」

 適当なことを言いつつ、俺は広間を出て庭園に向かった。本当はもっとスミラとアドラーのことを聞き出したかったが仕方ない。

(そういえばアドラーと仲が良かったのに、一回もスミラと会ったことがない気がするな。今回は忘れてるんじゃなくて、本当に会ったことがないような。)

 普通にしていたらアドラーの副官であそこまでべったりなら出会っていてもおかしくなかったはず。いくら皇帝暗殺の作戦会議のときは遠ざけていたとはいえ、不自然なほどに出会いを避けていたような気がする。

(もしかしてアドラーの独占欲で、スミラをただ俺に会わせたくなかっただけだったりして。)

 まさかそんなことあるはずないか、と少し笑いながら俺は綺麗に咲いている色とりどりのバラに近いた。バラというとクライノートにある別荘に咲いていたのを思い出す。あそこにも綺麗なバラがあったし、もしかしてこれを植えたのもアドラーだろうか。

「希望、信頼、真実。わたくしたちが求めていて、そして最も遠い位置に存在するものの象徴ですわ。」

「アリーチェ……。」

 聞こえた声に振り向けば、ついてきていたのかアリーチェが微笑みながらバラを見つめていた。だが微笑んでいるはずのその表情は、どこか少し暗く感じる。

「わたくしたちは暗殺者。どんな正義を掲げ、どんな綺麗事を言ったって、それは変わらない事実。きっといつか報いを受けることになる。」

「それでも、俺たちはここで立ち止まるわけにはいかない。集まってくれたみんなと一緒に、立ち向かわないと。」

 国民が殺されるのを止めるために皇帝を殺す。この行為は決して正しいわけがなく、やろうとしていることは皇帝と一緒の殺人だ。
 それでも俺たちはやらなければならないと思う。法で裁けないのなら、誰かが裁くしかない。たとえ方法が間違っていたとしても。今はそれしかないのだから。

「何しんみりしてるんです? そんな憂い顔、美しいですが似合わないですよじゃじゃ馬姫……っと、間違えましたアリーチェお嬢様。」

 いつのまにか後ろにいたマクシムがアリーチェにそう語りかける。しかし聞き間違えでなければ、いつものマクシムらしくない言葉が聞こえた気がした。

(じゃじゃ馬姫って言ったよな……)

 普段から物腰が柔らかで誰に対しても礼儀正しいマクシム。そんな彼が一国の姫に対してじゃじゃ馬姫などと言うはずがない。そう信じたいが、アリーチェが怒っているので本当にじゃじゃ馬姫と言ったようだ。

「誰がじゃじゃ馬姫ですってえ!? ハチミツ禁止にいたしますわよ!」

「おや、聞き間違えじゃないですかね。それより、バラは綺麗ですがトゲがすごいのでお気をつけて。まるでどこかの姫様のように扱いが難しいんですよ。」

「マクシム~! 全くわたくしのこといつも馬鹿にして! あっ、ちょっと、まだ説教は終わってませんわ! 待ちなさいマクシム!」

 クスクスと笑いながら去っていくマクシムと、それを怒りながらもどこか楽しそうに追いかけるアリーチェ。もしかしてあの2人は意外と良いコンビだったりするのだろうか。

(それにしてもマクシムが誰かを揶揄うところ、初めて見たな。)

 再び静かになった庭園でバラを眺めながら考える。みんなと過ごした日々はもう結構な日数が経っているが、みんなのことをまだよく知らない気がする。アドラーとスミラのことだって、マクシムがアリーチェにはあんな言動をすることだって今日初めて知った。
 暇なときは積極的に誰かに話しかけていろいろ知るのもいいかもしれないな、とピンクのバラにそっと触れる。薄いそのピンク色はとても可憐で、どことなく思い出すのは。
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