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間章2 椎名と工藤の腕試し
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時間は少し遡る。
祠(ほこら)を目指して空を悠々と進んでいた時のことだ。
「ほえ~。快適だなぁ~、空を飛ぶって」
「こんな所で鳥の気持ちを体験出来るなんて思ってもみなかったわ」
私はすっかり小慣れた空の旅を楽しんでいた。最早人一人分の風を操るなんてわけない。
「あ~……。あのよ、椎名」
「ん?」
隣を並走する工藤くんが言葉を詰まらせ気味にそう言うものだからちらとそちらを見やる。
すると何故だか彼の顔はほんのり赤い。
不思議に思いつつ首を傾げる私。
「く、工藤くんっ! もしかして私をやらしい目で見てるんじゃないでしょうね!?」
「ばっ、バカ! 何でそーなるんだよっ!? ちげーっての!」
そんな私の口をついて出た冗談に目を逸らしつつ必死で否定してくる。
でもどんどん顔は赤くなっていって、今や耳まで茹でダコのように真っ赤だ。
こんな事は珍しい。
慣れない彼の反応に、段々と半分私も少し恥ずかしくなってきた。
「……な、何よ!? 言いたいことがあんならはっきり言いなさいよねっ!?」
煮え切らない態度に私の方がもやもやしてしまう。
私は一度飛行を止めてお互い向かい合う形で空に停止した。
私は赤い顔の彼をキッと見据える。
すると工藤くんは焦ったような感じになり、わたわたじたばたとその場で動いた。
なんだかその動きが面白くて内心ほくそ笑んだのは内緒だ。
「わっ、わかったよ! 俺はただこれをお前に渡そうとだなっ!?」
私の勢いに観念した工藤くんは、そう言いつつ腰巾着から取り出した何かを私の目の前に差し出した。
見ると白っぽい先の尖った石だった。
パッと見ではそれが一体何なのか見当もつかない。
「は……?? ……何これ?」
私はその石から視線を再び工藤くんに移すと、彼は少し罰が悪そうに視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻いていた。
「……お前にいいかと思って作った武器だよ。椎名も多分俺と同じで剣とかじゃなくて格闘戦で戦うだろうと思ってさ。俺は武器とかなくても岩とか操れるから何とかなりそうなんだが、椎名は風じゃん? ナックルとかあった方がいいのかなって」
ようやく理解した。
何だかこの一週間森でこそこそやってるなと思ったら、私のための武器を作ってくれていたわけだ。
私は新ためてその武器を手に取ってみた。
穴に手を入れて、握ってみる。
「……工藤くん」
だがしかし、これが中々どうしたものか。
「ん?」
私はふうと短いため息を吐いて彼を見る。
「これ、全然私の手に合わないわよ?」
ナックルと言うらしいその武器は、実際手に取ってみると穴の大きさが大きすぎて、握りづらく明らかに扱いづらい。
これでは全く使い物にならなそうなのだ。
だけど工藤くんはそんな私の言葉にショックを受けるかと思いきや、得意気に指で鼻を擦ってニカリと笑う。
「ああそれな。最後の仕上げすっからちょっとそのまま握っててくれ。あと椎名、もうちょっと俺を近づけてくれ」
「え? えっちなことしない?」
「しねーよっ! てかこんな所でできるかっ!」
反射的に言った私の言葉に得意気な表情が再び赤ら顔へと転じる工藤くん。
ちょっと面白いとか思いつつ、仕方なく工藤くんの体を風の操作でこちらへと引き寄せる。
すると彼はナックルに視線を向け、それに触れた。
「よし。じゃあやるからしっかりと掴んでろよ?」
工藤くんがそう言った途端、穴が萎(しぼ)んで私の手に吸い付くような形に変化した。
更に形状も変わり、外側が私の肘位まで伸びて、私の右腕を覆うような形になった。
その一部始終を目の当たりにしながら気づけば「へえ」と私は感嘆の声を漏らしてしまっていた。
ちょっと工藤くんのクセに生意気。
「これでよし。攻防一体のナックルの完成だぜっ! あ、名前決めなきゃなっ!」
「名前?」
私の呟きに、工藤くんはこくりと嬉そうに頷く。
「そうだな……ユニコーンナックルってのはどうだ?」
「ユニコーンナックル?」
「ああ。あ、でも白くねーからバイコーンか?」
などと一人ブツブツ言っている。
「バイコーン? 何それ? いーわよユニコーンナックルで。気に入ったわ」
私は彼の呟きを遮りユニコーンナックルで手を打つことにした。
何となくだけれど、それだって気持ちになったのだ。
すると工藤くんは目を丸くして私を見る。
「お、マジで? 椎名にしては珍しく素直じゃねーか」
「は? 私はいっつも素直ですけど? 工藤くんがいっつもいらんこと言うからでしょ?」
私が反射で抗議の声を上げると、工藤くんは薄く微笑んで私を見た。
「はいはい。そーだな」
工藤くんのクセに急に大人びた感じで私は窘(たしな)められたはようになり、ほんのちょぴっとドキリとしてしまう。
いつもと違いあっさりと自分の非を認めるとかマジで生意気。
「何よ。工藤くんこそ急に素直になって。気持ち悪い」
「ぐっ……。ぐふっ」
私のセリフにいつものように打ちのめされる工藤くん。
悪口やめてってまた言われるんだろう。
だけど、彼から出た言葉はこの時ばかりは私の予想とは違っていたのだ。
「椎名、誕生日おめでとう」
「……はっ!?」
私は工藤くんの言葉に完全に呆けた。
何? 誕生日? 意味が分からないのだけれど。
「いや、だから、今日で18だろ?」
「え? だって今9月でしょ? 私の誕生日10月なんだけど?」
そう。
私は夏休み最後の日にこっちの世界に転移してきた。
それからはまだ一週間程しか経っていないので、まだ九月の前半のはずなのだ。
私の誕生日は十月二十九日。
だからまだ一ヶ月以上あるはずなのだけれど。
「だってさ、ネムルさん言ってたじゃねーか。俺たちがこっち来た日に10月20日って」
「……」
そう言えばそうかもしれない。
毎日目まぐるしくて日にちなんてそこまで気にしてなかったけれど、工藤くんはそんなことまで律儀に覚えてくれていたらしい。
しょうもない所だけ覚えている。
やっぱりかなり気持ち悪い。
「そ、そっか。……まあありがと。一応もらっとく」
「おう」
そう告げて、工藤くんから視線を逸らす。
なるべく今の自分の表情は見られたくなかったから。
改めて風の操作で空の飛行を開始した。
もちろん工藤くんは少し後ろを飛ばしている。
ほんの少し沈黙の時間が続く。
工藤くんは私の後ろで静かにしていた。
「でもさ」
その沈黙が耐えられなくなったわけじゃないけれど、ふと私は今浮かんだ疑問を口にしていた。
「ん?」
「誕生日プレゼントがナックルって、どんな女子高生よっ!」
「あっ! ……番長?」
振り返って叫んだら彼と思い切り目が合う。
二人の距離が思いの外近くて、何でこんな近くにいるのか抗議しようとしたけれど、それをやったのは私なんだと直前で気づく。
「バカ!」
再び彼から顔を背け、飛行スピードをちょぴっとだけ上げた。
「うわっ!? 椎名っ!? ちょっと待て! うっ……うあーーーーーーーーーーーっ!!!!」
私はそこから思いっきり空のジェットコースターを展開してやったのだった。
工藤くんが生意気だからいけないんだからね。
空は今日も青い。
いや、いつもよりも澄んでキラキラしているかも。
祠(ほこら)を目指して空を悠々と進んでいた時のことだ。
「ほえ~。快適だなぁ~、空を飛ぶって」
「こんな所で鳥の気持ちを体験出来るなんて思ってもみなかったわ」
私はすっかり小慣れた空の旅を楽しんでいた。最早人一人分の風を操るなんてわけない。
「あ~……。あのよ、椎名」
「ん?」
隣を並走する工藤くんが言葉を詰まらせ気味にそう言うものだからちらとそちらを見やる。
すると何故だか彼の顔はほんのり赤い。
不思議に思いつつ首を傾げる私。
「く、工藤くんっ! もしかして私をやらしい目で見てるんじゃないでしょうね!?」
「ばっ、バカ! 何でそーなるんだよっ!? ちげーっての!」
そんな私の口をついて出た冗談に目を逸らしつつ必死で否定してくる。
でもどんどん顔は赤くなっていって、今や耳まで茹でダコのように真っ赤だ。
こんな事は珍しい。
慣れない彼の反応に、段々と半分私も少し恥ずかしくなってきた。
「……な、何よ!? 言いたいことがあんならはっきり言いなさいよねっ!?」
煮え切らない態度に私の方がもやもやしてしまう。
私は一度飛行を止めてお互い向かい合う形で空に停止した。
私は赤い顔の彼をキッと見据える。
すると工藤くんは焦ったような感じになり、わたわたじたばたとその場で動いた。
なんだかその動きが面白くて内心ほくそ笑んだのは内緒だ。
「わっ、わかったよ! 俺はただこれをお前に渡そうとだなっ!?」
私の勢いに観念した工藤くんは、そう言いつつ腰巾着から取り出した何かを私の目の前に差し出した。
見ると白っぽい先の尖った石だった。
パッと見ではそれが一体何なのか見当もつかない。
「は……?? ……何これ?」
私はその石から視線を再び工藤くんに移すと、彼は少し罰が悪そうに視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻いていた。
「……お前にいいかと思って作った武器だよ。椎名も多分俺と同じで剣とかじゃなくて格闘戦で戦うだろうと思ってさ。俺は武器とかなくても岩とか操れるから何とかなりそうなんだが、椎名は風じゃん? ナックルとかあった方がいいのかなって」
ようやく理解した。
何だかこの一週間森でこそこそやってるなと思ったら、私のための武器を作ってくれていたわけだ。
私は新ためてその武器を手に取ってみた。
穴に手を入れて、握ってみる。
「……工藤くん」
だがしかし、これが中々どうしたものか。
「ん?」
私はふうと短いため息を吐いて彼を見る。
「これ、全然私の手に合わないわよ?」
ナックルと言うらしいその武器は、実際手に取ってみると穴の大きさが大きすぎて、握りづらく明らかに扱いづらい。
これでは全く使い物にならなそうなのだ。
だけど工藤くんはそんな私の言葉にショックを受けるかと思いきや、得意気に指で鼻を擦ってニカリと笑う。
「ああそれな。最後の仕上げすっからちょっとそのまま握っててくれ。あと椎名、もうちょっと俺を近づけてくれ」
「え? えっちなことしない?」
「しねーよっ! てかこんな所でできるかっ!」
反射的に言った私の言葉に得意気な表情が再び赤ら顔へと転じる工藤くん。
ちょっと面白いとか思いつつ、仕方なく工藤くんの体を風の操作でこちらへと引き寄せる。
すると彼はナックルに視線を向け、それに触れた。
「よし。じゃあやるからしっかりと掴んでろよ?」
工藤くんがそう言った途端、穴が萎(しぼ)んで私の手に吸い付くような形に変化した。
更に形状も変わり、外側が私の肘位まで伸びて、私の右腕を覆うような形になった。
その一部始終を目の当たりにしながら気づけば「へえ」と私は感嘆の声を漏らしてしまっていた。
ちょっと工藤くんのクセに生意気。
「これでよし。攻防一体のナックルの完成だぜっ! あ、名前決めなきゃなっ!」
「名前?」
私の呟きに、工藤くんはこくりと嬉そうに頷く。
「そうだな……ユニコーンナックルってのはどうだ?」
「ユニコーンナックル?」
「ああ。あ、でも白くねーからバイコーンか?」
などと一人ブツブツ言っている。
「バイコーン? 何それ? いーわよユニコーンナックルで。気に入ったわ」
私は彼の呟きを遮りユニコーンナックルで手を打つことにした。
何となくだけれど、それだって気持ちになったのだ。
すると工藤くんは目を丸くして私を見る。
「お、マジで? 椎名にしては珍しく素直じゃねーか」
「は? 私はいっつも素直ですけど? 工藤くんがいっつもいらんこと言うからでしょ?」
私が反射で抗議の声を上げると、工藤くんは薄く微笑んで私を見た。
「はいはい。そーだな」
工藤くんのクセに急に大人びた感じで私は窘(たしな)められたはようになり、ほんのちょぴっとドキリとしてしまう。
いつもと違いあっさりと自分の非を認めるとかマジで生意気。
「何よ。工藤くんこそ急に素直になって。気持ち悪い」
「ぐっ……。ぐふっ」
私のセリフにいつものように打ちのめされる工藤くん。
悪口やめてってまた言われるんだろう。
だけど、彼から出た言葉はこの時ばかりは私の予想とは違っていたのだ。
「椎名、誕生日おめでとう」
「……はっ!?」
私は工藤くんの言葉に完全に呆けた。
何? 誕生日? 意味が分からないのだけれど。
「いや、だから、今日で18だろ?」
「え? だって今9月でしょ? 私の誕生日10月なんだけど?」
そう。
私は夏休み最後の日にこっちの世界に転移してきた。
それからはまだ一週間程しか経っていないので、まだ九月の前半のはずなのだ。
私の誕生日は十月二十九日。
だからまだ一ヶ月以上あるはずなのだけれど。
「だってさ、ネムルさん言ってたじゃねーか。俺たちがこっち来た日に10月20日って」
「……」
そう言えばそうかもしれない。
毎日目まぐるしくて日にちなんてそこまで気にしてなかったけれど、工藤くんはそんなことまで律儀に覚えてくれていたらしい。
しょうもない所だけ覚えている。
やっぱりかなり気持ち悪い。
「そ、そっか。……まあありがと。一応もらっとく」
「おう」
そう告げて、工藤くんから視線を逸らす。
なるべく今の自分の表情は見られたくなかったから。
改めて風の操作で空の飛行を開始した。
もちろん工藤くんは少し後ろを飛ばしている。
ほんの少し沈黙の時間が続く。
工藤くんは私の後ろで静かにしていた。
「でもさ」
その沈黙が耐えられなくなったわけじゃないけれど、ふと私は今浮かんだ疑問を口にしていた。
「ん?」
「誕生日プレゼントがナックルって、どんな女子高生よっ!」
「あっ! ……番長?」
振り返って叫んだら彼と思い切り目が合う。
二人の距離が思いの外近くて、何でこんな近くにいるのか抗議しようとしたけれど、それをやったのは私なんだと直前で気づく。
「バカ!」
再び彼から顔を背け、飛行スピードをちょぴっとだけ上げた。
「うわっ!? 椎名っ!? ちょっと待て! うっ……うあーーーーーーーーーーーっ!!!!」
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