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5章
11話 凱旋と報酬
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四月三十三日。
シェーンシュテット公国の王都は、歓声に包まれていた。
公国軍と足並みを揃えたので、帰りもノンビリとした行軍だった。
傭兵団だから、王都には入らずに拠点に戻ろうとしたら、総大将代理に止められた。
王家の許可を取っているそうで、そのまま正規軍と一緒に王都東門を潜り、中央広場を北上して王城へと入る。
さすがに、参戦した団員全員は城の中に入れず、代表者以外は敷地内の練兵場で待機してもらうことになった。
団長以下二名くらいなら王に謁見できるそうだから、エルフリーデとロスヴィータを、と思ったら、既に二名が城内で待っているとのこと。
誰のことかわからず、首を捻りながら謁見の間の手前にある待機室に通されると、ユリアーナとイルムヒルデが優雅にお茶を飲んでいた。
二人が座るソファのテーブルを挟んだ対面に座ると、部屋の隅に待機していた侍女が僕の分もお茶を淹れてくれた。……ただし、毒入り。
手を伸ばしながらなんとなく鑑定したら、毒入り。二度見しちゃったよ。
まあ、飲もうとする僕を対面の二人は止めないし、〈毒無効〉があるから大丈夫だろう。
「うん。舌を刺すピリピリした刺激が面白いお茶だ」
僕の感想に侍女がアワアワ慌てる。
「面白いけど美味しくないから、マーヤ、お願い」
カップをソーサーに置いて、脇に避ける。
いるだろうと思い声をかけたけど、本当にいた。「畏まりました」と姿を現したマーヤに、侍女がどこかから出した暗器っぽい細いナイフを構える。
彼女を空気にしながら、四人でお茶を楽しむ。
「誰の命令か興味ないので、その物騒な物を仕舞ってください」
誰の命令かは、たぶん、ロジーネ姉さんは把握してるはず。
「命令したのは戦死したローゼンクランツ侯爵よ」
「へぇ……」
ユリアーナの回答に生返事をして、なにか違和感を感じる。
「ん? ローゼンクランツ侯爵が?」
戦死してるんだから、侍女に命じたのは出兵前だろう。
出兵前から僕の暗殺を企てていたのか?
暗殺の理由は、僕が死ねば傭兵団の戦力を手に入れるチャンスが来る、ってとこだろう。どう手に入れるかは知らん。ベンケン王国が暗殺したから一緒に弔い合戦をしよう、とか、そんなことでも言うのかな?
「そう。ローゼンクランツ侯爵が。そういうことに決まったの」
「どういうことか、教えてほしいな」
僕の知らないとこでなにかが決まって、事後報告を暗殺未遂の後で聞く。なにか変わるわけではないけど、その前に聞きたかったな。
「彼女に命じたのは公王ヒルデブレヒト・シェーンシュテットよ」
「ち、違う!」
忠臣たる侍女は否定する。
これはあれか。侯爵のせいにしてやるから、丸く納めようってことか?
「理由は、今回の報酬に納得していないから」
「その今回の報酬を、まだ聞いてないよ」
「それは玉座の間までのお楽しみに」
まだ引っ張るの?
「ともかく、報酬が気に入らない公王が、報酬を有耶無耶にするために彼女に命じたんだけど、このことはヴィルヘルミーネとベアトリクスに報告済みだから大丈夫。上手いことしてくれるよ」
「報酬に色でも付けてくれるのかねぇ」
「色……うん、まあ、色ね」
「マゴイチ様のお気に召していただけますよ」
イルムヒルデも知ってるのね。
「マゴイチはありがたく貰っとけばいいのよ」
「一応聞くけど、ポケットに入る物?」
「入らないわね」
勲章ではなさそうだ。貰っても困るけど。
あ、けど、なんとなくわかってしまった。
僕の予想通りなら、確かに"色"だ。でも、予想通りだとしたら、どっちだ? つり目? たれ目?
「私としては、王様の前でビックリするマゴイチを見たいから、それ以上は考えないでね」
どうやら正解っぽい。
「まあ、いいか。それよか、侍女さんは失敗を報告に行った方がいいよ」
でないと、いつまでも謁見できない。
*
侍女さんが慌てて出ていった後、しばらくマッタリしていると、謁見の準備ができたと、別の侍女に案内される。
別の、と言っても、いつだか僕を半裸に剥いた服飾マニアの侍女で、案内と言っても、待機していた部屋のすぐ側が謁見の間の扉なので、部屋から出て数歩で「こちらでお待ち下さい」と言われ、謁見の際の作法を口頭で教えられる。
うん。大丈夫。
僕の礼儀作法の先生は、ビルギットさんとイルムヒルデだ。ビルギットさんはともかく、イルムヒルデは元王族だよ。謁見の作法なんてお手のものだよ。……まあ、僕を甘やかしすぎて教えるのが下手だったけど。歩くだけで褒めないでよ。
重厚な扉が開き、侍女に入室を促される。
緊張しているのか、一歩目の足が上がらない。
一度深呼吸すると、右隣のユリアーナの尻尾が僕のお尻をペチンと叩く。
大した強さじゃないのに、尻尾に押されて一歩前に出れた。
一歩が出たら、あとは緊張もどこかへ行ったようで、赤い絨毯の上を玉座に向けて歩く。
絨毯の左右に貴族が整列している。
その間隔はスカスカで、最大派閥の崩壊の影響が見てとれた。
数人ほど、僕を睨んでいる貴族がいる。怖くはないけど。
僕の斜め後ろをついてくる、ユリアーナとイルムヒルデほどの威圧感はない。
ついでに言うと、見えてないけど二人の後ろ、僕の真後ろにマーヤがいるはずだ。安心感が凄い。
ここが敵陣のど真ん中であっても、安心して居眠りができそうだ。
「そこで止まれ」
おや? 侍女からは、もう少し先の白線まで進んで跪くように言われたんだけど。
まあ、公王が言うんだから、ここで跪こうと足を止めたら、後ろの二人が僕の背中をグイグイ押す。
ほら。護衛の騎士の手が剣に伸びてるよ。
あ、〈威圧〉使った? 今、騎士に使ったよね? ビクってなった後、二歩後退ったよ。
結局、白線まで進んで跪いた。
一呼吸の後、玉座の手前にいる人の「面を上げよ」という声に従い、顔を上げる。
玉座は数段高い所にあり、段の下に、ローゼンクランツ侯爵に代わって新宰相となった初老の男と、いつだか元近衛騎士団長の尻拭いをしていた壮年の騎士が立っている。新近衛騎士団長?
段上中央に、王冠を戴くタレ目の公王が座し、右につり目の王妃、左に糸目の王子が座っている。
公王の左右には、第一王女ヴィルヘルミーネさんと第二王女ベアトリクスさんが、立って控えていた。
あれ? 二人とも、不機嫌? ああ、そっか。僕の暗殺未遂の話を聞いて、不機嫌になってるのかな?
ヒョロっとした体格の公王が立ち上がり、段上から僕らを睥睨する。迫力はない。
「此度の働き、見事である。よって、シェーンシュテット公王の名において、伯爵位を授け」
「いりません」
つい、拒否ってしまった。
左右に並ぶ貴族から罵声が飛ぶ。
「我々は西へ向かう途中の傭兵です。この国には、ダンジョンを攻略するために立ち寄っただけ。なんの思い入れもありません」
「ならば、領地も付けよう」
「足枷にしかなりません。辞退します」
領地って、オマケみたいに貰えるもんなんだね。要らないけど。
それにしても……なるほどね。
僕の予想した通り、報酬がお姫様なら、公王に僕を暗殺する理由がある。
この王様、両サイドの両殿下の顔色をチラチラ窺っている様子から、普段から重要な決定を両殿下に決めてもらっていたんじゃないかな? 一人でもいなくなると困るよね。
いっそ、僕が報酬そのものを辞退してしまえば、公王にとってありがたいのだろう。
でも、それだと、女性に恥をかかせることになる。どちらの姫様が僕に嫁ぐのか知らないけど、こちらから断るのはダメだろう。蛙に拒否られた姫様として、近隣国にまでその名が轟きそうだ。
「我が国の領地を足枷と?」
貴族連中の憤りも、わからないでもないんだけどね。それでもやっぱり不要だよ。
「そもそも、貴国には、王家の血筋以外に価値はありません」
キッパリ言ってやったらスッキリした。
けど、両サイドの罵声がうるせぇ。
公王も額に青筋を浮かべている。
「陛下。私も団長さんの仰る通りだと思います」
腰を浮かせかけた公王の肩を押さえながら、ヴィルヘルミーネさんが言うと、貴族たちの矛先が独断で僕らを雇った彼女たちにも向かう。
しかし、ヴィルヘルミーネさんがギロリと鋭い目で睨むと静かになった。
「陛下。血筋以外に価値がないからこそ、その血筋を支払うしかないのです」
彼女の話し振りから、どうやら、支払われるのは長女のヴィルヘルミーネさんのようだ。
てっきり、ヴィルヘルミーネさんは国内の有力貴族か国外の王族に嫁いで、ベアトリクスさんが僕に嫁ぐのだと思っていた。
逆かぁ。顔の好みはヴィルヘルミーネさんだけど、ベアトリクスさんの方が話しやすいんだよねぇ。お姉さんは、なんかこう……凝視してくるんだよ。あの鋭い目で。
どこかのストーカー二号を彷彿とさせる。
「ですので、当初の予定通り、ダンジョン討伐の報酬として、ベアトリクス・シェーンシュテットを。傭兵団をベンケン王国軍との戦争で雇うのに、私、ヴィルヘルミーネ・シェーンシュテットを支払います」
「それと、戦功の報酬として、王樹を四本支払います」
待って待って。
王樹はありがたい。けど、その前。なんてった? 二人とも僕の側室に?
ヴィルヘルミーネさんを見ると、お上品に微笑む。
ベアトリクスさんを見ると、ニヤリと笑う。
僕が混乱していると、斜め後ろで跪くユリアーナが、僕の脇腹をつつきながら「返事」と小声で催促する。
「ありがたき、幸せ」
定型文しか思い付かない。
けど、二人が側室になるのが今ので確定した。
いや、まだだ。まだ、終わらんよ。
二人が傭兵団に入団するだけで、僕と結婚するわけではない。
「結婚式は明後日です」
ユリアーナ?
「まあ、それは、急いでみなさんに挨拶しなくては」
側室が多いから、顔合わせだけでも結構な時間が必要だろうね。
「えっと……二人とも、なの?」
獣人種のユリアーナにだけ聞こえるように呟くと、「驚いた?」と楽しそうに弾む声で返した。
シェーンシュテット公国の王都は、歓声に包まれていた。
公国軍と足並みを揃えたので、帰りもノンビリとした行軍だった。
傭兵団だから、王都には入らずに拠点に戻ろうとしたら、総大将代理に止められた。
王家の許可を取っているそうで、そのまま正規軍と一緒に王都東門を潜り、中央広場を北上して王城へと入る。
さすがに、参戦した団員全員は城の中に入れず、代表者以外は敷地内の練兵場で待機してもらうことになった。
団長以下二名くらいなら王に謁見できるそうだから、エルフリーデとロスヴィータを、と思ったら、既に二名が城内で待っているとのこと。
誰のことかわからず、首を捻りながら謁見の間の手前にある待機室に通されると、ユリアーナとイルムヒルデが優雅にお茶を飲んでいた。
二人が座るソファのテーブルを挟んだ対面に座ると、部屋の隅に待機していた侍女が僕の分もお茶を淹れてくれた。……ただし、毒入り。
手を伸ばしながらなんとなく鑑定したら、毒入り。二度見しちゃったよ。
まあ、飲もうとする僕を対面の二人は止めないし、〈毒無効〉があるから大丈夫だろう。
「うん。舌を刺すピリピリした刺激が面白いお茶だ」
僕の感想に侍女がアワアワ慌てる。
「面白いけど美味しくないから、マーヤ、お願い」
カップをソーサーに置いて、脇に避ける。
いるだろうと思い声をかけたけど、本当にいた。「畏まりました」と姿を現したマーヤに、侍女がどこかから出した暗器っぽい細いナイフを構える。
彼女を空気にしながら、四人でお茶を楽しむ。
「誰の命令か興味ないので、その物騒な物を仕舞ってください」
誰の命令かは、たぶん、ロジーネ姉さんは把握してるはず。
「命令したのは戦死したローゼンクランツ侯爵よ」
「へぇ……」
ユリアーナの回答に生返事をして、なにか違和感を感じる。
「ん? ローゼンクランツ侯爵が?」
戦死してるんだから、侍女に命じたのは出兵前だろう。
出兵前から僕の暗殺を企てていたのか?
暗殺の理由は、僕が死ねば傭兵団の戦力を手に入れるチャンスが来る、ってとこだろう。どう手に入れるかは知らん。ベンケン王国が暗殺したから一緒に弔い合戦をしよう、とか、そんなことでも言うのかな?
「そう。ローゼンクランツ侯爵が。そういうことに決まったの」
「どういうことか、教えてほしいな」
僕の知らないとこでなにかが決まって、事後報告を暗殺未遂の後で聞く。なにか変わるわけではないけど、その前に聞きたかったな。
「彼女に命じたのは公王ヒルデブレヒト・シェーンシュテットよ」
「ち、違う!」
忠臣たる侍女は否定する。
これはあれか。侯爵のせいにしてやるから、丸く納めようってことか?
「理由は、今回の報酬に納得していないから」
「その今回の報酬を、まだ聞いてないよ」
「それは玉座の間までのお楽しみに」
まだ引っ張るの?
「ともかく、報酬が気に入らない公王が、報酬を有耶無耶にするために彼女に命じたんだけど、このことはヴィルヘルミーネとベアトリクスに報告済みだから大丈夫。上手いことしてくれるよ」
「報酬に色でも付けてくれるのかねぇ」
「色……うん、まあ、色ね」
「マゴイチ様のお気に召していただけますよ」
イルムヒルデも知ってるのね。
「マゴイチはありがたく貰っとけばいいのよ」
「一応聞くけど、ポケットに入る物?」
「入らないわね」
勲章ではなさそうだ。貰っても困るけど。
あ、けど、なんとなくわかってしまった。
僕の予想通りなら、確かに"色"だ。でも、予想通りだとしたら、どっちだ? つり目? たれ目?
「私としては、王様の前でビックリするマゴイチを見たいから、それ以上は考えないでね」
どうやら正解っぽい。
「まあ、いいか。それよか、侍女さんは失敗を報告に行った方がいいよ」
でないと、いつまでも謁見できない。
*
侍女さんが慌てて出ていった後、しばらくマッタリしていると、謁見の準備ができたと、別の侍女に案内される。
別の、と言っても、いつだか僕を半裸に剥いた服飾マニアの侍女で、案内と言っても、待機していた部屋のすぐ側が謁見の間の扉なので、部屋から出て数歩で「こちらでお待ち下さい」と言われ、謁見の際の作法を口頭で教えられる。
うん。大丈夫。
僕の礼儀作法の先生は、ビルギットさんとイルムヒルデだ。ビルギットさんはともかく、イルムヒルデは元王族だよ。謁見の作法なんてお手のものだよ。……まあ、僕を甘やかしすぎて教えるのが下手だったけど。歩くだけで褒めないでよ。
重厚な扉が開き、侍女に入室を促される。
緊張しているのか、一歩目の足が上がらない。
一度深呼吸すると、右隣のユリアーナの尻尾が僕のお尻をペチンと叩く。
大した強さじゃないのに、尻尾に押されて一歩前に出れた。
一歩が出たら、あとは緊張もどこかへ行ったようで、赤い絨毯の上を玉座に向けて歩く。
絨毯の左右に貴族が整列している。
その間隔はスカスカで、最大派閥の崩壊の影響が見てとれた。
数人ほど、僕を睨んでいる貴族がいる。怖くはないけど。
僕の斜め後ろをついてくる、ユリアーナとイルムヒルデほどの威圧感はない。
ついでに言うと、見えてないけど二人の後ろ、僕の真後ろにマーヤがいるはずだ。安心感が凄い。
ここが敵陣のど真ん中であっても、安心して居眠りができそうだ。
「そこで止まれ」
おや? 侍女からは、もう少し先の白線まで進んで跪くように言われたんだけど。
まあ、公王が言うんだから、ここで跪こうと足を止めたら、後ろの二人が僕の背中をグイグイ押す。
ほら。護衛の騎士の手が剣に伸びてるよ。
あ、〈威圧〉使った? 今、騎士に使ったよね? ビクってなった後、二歩後退ったよ。
結局、白線まで進んで跪いた。
一呼吸の後、玉座の手前にいる人の「面を上げよ」という声に従い、顔を上げる。
玉座は数段高い所にあり、段の下に、ローゼンクランツ侯爵に代わって新宰相となった初老の男と、いつだか元近衛騎士団長の尻拭いをしていた壮年の騎士が立っている。新近衛騎士団長?
段上中央に、王冠を戴くタレ目の公王が座し、右につり目の王妃、左に糸目の王子が座っている。
公王の左右には、第一王女ヴィルヘルミーネさんと第二王女ベアトリクスさんが、立って控えていた。
あれ? 二人とも、不機嫌? ああ、そっか。僕の暗殺未遂の話を聞いて、不機嫌になってるのかな?
ヒョロっとした体格の公王が立ち上がり、段上から僕らを睥睨する。迫力はない。
「此度の働き、見事である。よって、シェーンシュテット公王の名において、伯爵位を授け」
「いりません」
つい、拒否ってしまった。
左右に並ぶ貴族から罵声が飛ぶ。
「我々は西へ向かう途中の傭兵です。この国には、ダンジョンを攻略するために立ち寄っただけ。なんの思い入れもありません」
「ならば、領地も付けよう」
「足枷にしかなりません。辞退します」
領地って、オマケみたいに貰えるもんなんだね。要らないけど。
それにしても……なるほどね。
僕の予想した通り、報酬がお姫様なら、公王に僕を暗殺する理由がある。
この王様、両サイドの両殿下の顔色をチラチラ窺っている様子から、普段から重要な決定を両殿下に決めてもらっていたんじゃないかな? 一人でもいなくなると困るよね。
いっそ、僕が報酬そのものを辞退してしまえば、公王にとってありがたいのだろう。
でも、それだと、女性に恥をかかせることになる。どちらの姫様が僕に嫁ぐのか知らないけど、こちらから断るのはダメだろう。蛙に拒否られた姫様として、近隣国にまでその名が轟きそうだ。
「我が国の領地を足枷と?」
貴族連中の憤りも、わからないでもないんだけどね。それでもやっぱり不要だよ。
「そもそも、貴国には、王家の血筋以外に価値はありません」
キッパリ言ってやったらスッキリした。
けど、両サイドの罵声がうるせぇ。
公王も額に青筋を浮かべている。
「陛下。私も団長さんの仰る通りだと思います」
腰を浮かせかけた公王の肩を押さえながら、ヴィルヘルミーネさんが言うと、貴族たちの矛先が独断で僕らを雇った彼女たちにも向かう。
しかし、ヴィルヘルミーネさんがギロリと鋭い目で睨むと静かになった。
「陛下。血筋以外に価値がないからこそ、その血筋を支払うしかないのです」
彼女の話し振りから、どうやら、支払われるのは長女のヴィルヘルミーネさんのようだ。
てっきり、ヴィルヘルミーネさんは国内の有力貴族か国外の王族に嫁いで、ベアトリクスさんが僕に嫁ぐのだと思っていた。
逆かぁ。顔の好みはヴィルヘルミーネさんだけど、ベアトリクスさんの方が話しやすいんだよねぇ。お姉さんは、なんかこう……凝視してくるんだよ。あの鋭い目で。
どこかのストーカー二号を彷彿とさせる。
「ですので、当初の予定通り、ダンジョン討伐の報酬として、ベアトリクス・シェーンシュテットを。傭兵団をベンケン王国軍との戦争で雇うのに、私、ヴィルヘルミーネ・シェーンシュテットを支払います」
「それと、戦功の報酬として、王樹を四本支払います」
待って待って。
王樹はありがたい。けど、その前。なんてった? 二人とも僕の側室に?
ヴィルヘルミーネさんを見ると、お上品に微笑む。
ベアトリクスさんを見ると、ニヤリと笑う。
僕が混乱していると、斜め後ろで跪くユリアーナが、僕の脇腹をつつきながら「返事」と小声で催促する。
「ありがたき、幸せ」
定型文しか思い付かない。
けど、二人が側室になるのが今ので確定した。
いや、まだだ。まだ、終わらんよ。
二人が傭兵団に入団するだけで、僕と結婚するわけではない。
「結婚式は明後日です」
ユリアーナ?
「まあ、それは、急いでみなさんに挨拶しなくては」
側室が多いから、顔合わせだけでも結構な時間が必要だろうね。
「えっと……二人とも、なの?」
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