千夜一夜

第十八章 恋心と嫉妬の戒め

（４）

　あれからアベルは色々考えはしたのだが、別々に説明するよりも、ふたりは同じ立場の王女だから、一緒に報告したほうがいいだろうと判断した。

　勿論レイティアが正妃になることも、その場で報告するつもりである。

　その際、誤解されたくないのは、レティシアがレイティアよりも、能力的に劣るからレイティアを正妃に選んだと誤解されることである。

　勿論適正と言う意味でレイティアを選んだ以上、そういう意味をまるっきり否定できるものではないことは、アベルも十分に承知している。

　政治的な判断で、レイティアを選んだ以上、レティシアでは無理だったと言う事実を否定できはしない。

　しかし、それでも誤解されたくないのだ。

　レティシアでは不満だから、レイティアを選んだと。

　その意味に気づいたとき、結局自分を誤魔化すことはできないのだと、気付かされた。

　そんなことを気にするくらいアベルはレティシアが好きなのだと。

　レイティアを選んだと知れば、彼女は喜ぶだろう。

　しかし、選ばれなかったほうは、きっと深く落ち込む。

　そして自分より姉のほうが好きなのかと、絶対に誤解するだろう。

　アベルはそれが怖いのだ。

　レティシアを傷つけることが。

　結局、自分も恋人を傷つけたくないひとりの男に過ぎないのだなと思い知ったのだった。

「意識してなかったけど、婚約者である前に恋人だったんだよなぁ。全く意識してなかったよ。我ながら鈍すぎる」

　恋人になる前に婚約者になってしまったから、踏むべきステップを間違えてしまったんだろう。

　本来は告白するか告白され、恋人になり、その結果、将来的に結婚を意識し、プロポーズして婚約者になる。

　それが普通の恋人たちの踏むステップなのだろう。

　それを全てすっ飛ばして婚約者になってしまったから、アベルの中で何かが間違ってしまったのかもしれない。

　彼女たちは、アベルの婚約者である前に、まず恋人であると言う認識を持てなかった。

　我ながら鈍すぎる。

　それだけでも喜んでくれるふたりに、自分がこれからする話の内容を思うと心も重くなる。

　不誠実だなと思うから。

　リアンのことはふたりも納得はしてくれるだろう。

　3人の間の友情はそれだけしっかりしたものだ。

　しかしさっきも思ったが、フィーリアは伏兵に近いので、彼女たちがどう思うかに自信がない。

　リアンは彼女たち側であり、フィーリアはアベル側にいる。

　確かにまだ妹だと言う認識のほうが強いが、ひとりの女性としてフィーリアを受け入れようと思っていることも確かなのである。

　これは彼女たちにとって裏切りではないだろうか？

　そう受け取られる事は仕方がないと思いつつも、だったら、フィーリアを切り捨てられるのかと言えば、それは絶対に無理なのである。

　そのくらいアベルにとっても、フィーリアの問題は譲れないものであった。

　それをふたりにわかってもらえるかどうか、そのことには自信がない。

　反対にリアンのほうは、あんまり心配していない。

　リアンは一度は振られた立場である。

　そして心を病んだところをフィーリアに助けてもらった。

　そこから芽生えた友情とも姉妹愛とも言える愛情は、アベルの問題で、ふたりの関係が壊れることを心配する必要がないほどには、強いものだと把握している。

　今夜ふたりを自室に招いている。

　リアンやフィーリアの問題を説明するために。

　誤解されないかとドキドキしているし、フィーリアのことで怒らせないかと不安感もある。

　今からこの調子では、結婚したら尻に敷かれそうで怖い。

　アベルは自分で思っていた以上に、奥手だったようだ。

　奥手でハーレムの主人なんてものをやれるのか。

　不安を抱えてアベルは、部屋に入ってきたふたりの王女を出迎えた。

「待ってたよ、ふたりとも」

「お父さまから伺いました。なにか重要なお話があるとか」

「私たちふたりを選んだということは、婚儀に関してのお話でしょうか？」

「う、ん。とりあえず座ってくれないか？　落ち着いて話したいから」

「「わかりました」」

　ふたりとも落ち着かない感じだったが、とりあえず座ってくれた。

　アベルはこれからが正念場だと腹を括る。

「ふたりには報告しなくてはいけないことが、ふたつほどあるんだけど、まずはリアンのことから話そうと思う」

　ふたりにアベルがリアンを振ってからの一部始終を報告すると、ふたりとも言葉が出ないと言った感じだった。

「「そんなリアンが」」

「リドリス公爵から、リアンをハーレムに入れてくれと打診があった。妃は困るから側室でいいからって」

「宰相令嬢でもあるリアンを側室に？」

　レティシアが納得いかなそうな声を出す。

　リドリス公爵家というのは、それで片付けられる程度の家柄ではないのだ。

　それが跡取りのリアンが、よりによってアベルの側室になるなんて、常識的に考えてありえない。

　ふたりがそう考えてしまうのも、仕方ない話である。