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第十一章 四精霊の愛し子
(4)
しおりを挟むルパートの術で一瞬にしてルノールに転移した一団だが、戻ってきたルノールは予想以上に荒れていた。
まず強風が吹き荒れ、ろくに眼を開けていられない。
地は間断なく揺れていて立つことも難しい。
あちこちでボヤが起きているらしく、火事の気配が絶えない。
川や湖が氾濫を起こしているらしく、所々水浸していた。
レスターたちは言葉を失い、アレクたちも信じていなかった現実を前に立ち尽くすことしか
できなかった。
「朝斗! 一時的にでも精霊たらを静められないかっ! このままでは宮殿に向かうことすら難しい!」
馬たちも怯えて暴れているのを、兵士たらが必死になって押さえている。
荒れ果てた故国に誰もが言葉を失っている。
そんな中で瀬希だけが冷静に利断していた。
今なにをなすべきかを。
「ボクがやります」
不意に確固たる意志を秘めた
声がした。
レスターである。
ルノールの兵や侍従たちは意外そうにレスターをみて、ロベールがバカにしたような顔をした。
「お前になにができるのだ、レスター? 精霊使いでもないくせに。そのおまえにこの事態を
なんとかできるとでも?」
「ボクにしかできない」
振り向いたレスターに断言され、ロベールがバカにしきった顔をした。
「だったら精々頑張ればいい。どうせ無駄だと思い知るだけだ」
レスターはそれ以上ロベールに構おうとしない。
ただ見守っている同じ最上級の精霊使いの称号を得た朝斗に視線を向けた。
「もし力が及ばないときは助力してね、朝斗」
「自力でなんとかすると言い切らない辺り、おまえは偉いよ、レスター。見栄を張らない。隣の男に見習わせたいところだな」
「なんだとっ!!」
ロベールは気色ばんだが、それは一瞬で終わった。
何故ならレスターの周囲に精霊たちが集まりだしたからだ。
「四精靈っ! ボクの呼び声に応えてっ! 精霊使いの名において、ここに四精霊を召還する!」
レスターの呼び声に応えて、4人の精霊が現れる。
その瞬間、レスターにまとわりついていた精霊たちが一斉に跪いた。
ルノール人たちにはそれだけで彼らが四精霊なのだとわかる。
同じ精霊が跪く祖手。
それは四精霊しか考えられない。
そして彼らはレスターの呼び声に従って姿を現した。
その現実にだれもが声もない。
アレクとカインは「やはりな」と小声でやり取りした。
ウィリアムも食い入るようにその様子をみている。
「四精霊。ボクは祖国を数いたい。でも、なんの策もなくきみたちに無理はさせないよ。少しの間でいい。ボクらが宮殿に辿りつくまで、道筋の精霊たちを鎮めて欲しい。できるかい?」
「それがあなたの望みなの、レスター?」
水の精霊が鈴の鳴るような声でそう言った。
「そうだよ。それがボクの望みだよ、リーン」
「あれらはどうするんだ? 苦しんでる民がいるよ?」
燃え上がる炎に追われた人々を、水に飲み込まれる人々を、最高位の炎の情麗、サールが指差す。
「でも、きみたちに同時に二種類の力を使わせるわけには。ボクは精霊使いとしての力を使い慣れていないから、正確に操れる自信もないし」
「わたしが道を造るわ。あなたたちが宮殿に行くまでなら、わたしひとりの力で十分。大地の
力で事足りるわ!」
「風が邪魔ならぼくが力になるよ、レスター。ぼくらの愛し子が望むなら、なんだってやる。
きみは自分を過小評価しすぎだよ」
「ウェンディ。パール。じゃあお願いできる? できるだけのことをしたい。民たちも助けたい。そのためにボクの気が必要なら幾らでも奪っていい。だからっ!」
「だったら気を最大限にまで発しろ、レスター。あとはぼくらがなんとかする」
「ありがとう、サール。なんとかやってみるね」
答えてレスターは意識を集中しはじめた。
ルノール人の眼にはレスターの体から、これまで感じたこともないほどの強大な気が発されているのがわかる。
それが四精霊に力を与え、彼らがそれぞれの方向へと散っていく。
大地に風に水に火にその力を発揮する。
四精霊の姿が輝き、すべてを光が包み込む。
一瞬、目を開けていられなくなって、全員が目を閉じた。
いつしか大地の揺れは感じなくなっている。
風も止んだ。
火事の気配も感じない。
水の轟音も止まった。
おそるおそる眼を開けた人々は、そこに立つレスターをみて、すべてを悟った。
彼が精霊を操ったことを。
「おま、おまえっ」
ロベールは信じられない現実を前に言葉にならない。
そんな彼にかわって護衛の近衛隊長が世継ぎの王子に問いかけた。
「もしかしてレスター王子は精霊使いであることを伏せられていたのですか? それももしか
したら最上級の四精霊すら使役できる精霊使いであることを」
「一時凌ぎに過ぎないここはわかっていたんだけどね。ロベールに同情してボクが能力を伏せていたって、ボクは精霊使いだ。それも最上級の。でも、彼をみていると言えなかった。どうしても」
悲しそうなレスターに同情されたと知ったロベールは喚いた。
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