これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

文字の大きさ
44 / 50
第十一章 四精霊の愛し子

(4)

しおりを挟む




 ルパートの術で一瞬にしてルノールに転移した一団だが、戻ってきたルノールは予想以上に荒れていた。

 まず強風が吹き荒れ、ろくに眼を開けていられない。

 地は間断なく揺れていて立つことも難しい。

 あちこちでボヤが起きているらしく、火事の気配が絶えない。

 川や湖が氾濫を起こしているらしく、所々水浸していた。

 レスターたちは言葉を失い、アレクたちも信じていなかった現実を前に立ち尽くすことしか
できなかった。

「朝斗! 一時的にでも精霊たらを静められないかっ! このままでは宮殿に向かうことすら難しい!」

 馬たちも怯えて暴れているのを、兵士たらが必死になって押さえている。

 荒れ果てた故国に誰もが言葉を失っている。

 そんな中で瀬希だけが冷静に利断していた。

 今なにをなすべきかを。

「ボクがやります」

 不意に確固たる意志を秘めた
声がした。

 レスターである。

 ルノールの兵や侍従たちは意外そうにレスターをみて、ロベールがバカにしたような顔をした。

「お前になにができるのだ、レスター? 精霊使いでもないくせに。そのおまえにこの事態を
なんとかできるとでも?」

「ボクにしかできない」

 振り向いたレスターに断言され、ロベールがバカにしきった顔をした。

「だったら精々頑張ればいい。どうせ無駄だと思い知るだけだ」

 レスターはそれ以上ロベールに構おうとしない。

 ただ見守っている同じ最上級の精霊使いの称号を得た朝斗に視線を向けた。

「もし力が及ばないときは助力してね、朝斗」

「自力でなんとかすると言い切らない辺り、おまえは偉いよ、レスター。見栄を張らない。隣の男に見習わせたいところだな」

「なんだとっ!!」

 ロベールは気色ばんだが、それは一瞬で終わった。

 何故ならレスターの周囲に精霊たちが集まりだしたからだ。

「四精靈っ! ボクの呼び声に応えてっ! 精霊使いの名において、ここに四精霊を召還する!」

 レスターの呼び声に応えて、4人の精霊が現れる。

 その瞬間、レスターにまとわりついていた精霊たちが一斉に跪いた。

 ルノール人たちにはそれだけで彼らが四精霊なのだとわかる。

 同じ精霊が跪く祖手。

 それは四精霊しか考えられない。

 そして彼らはレスターの呼び声に従って姿を現した。

 その現実にだれもが声もない。

 アレクとカインは「やはりな」と小声でやり取りした。

 ウィリアムも食い入るようにその様子をみている。

「四精霊。ボクは祖国を数いたい。でも、なんの策もなくきみたちに無理はさせないよ。少しの間でいい。ボクらが宮殿に辿りつくまで、道筋の精霊たちを鎮めて欲しい。できるかい?」

「それがあなたの望みなの、レスター?」

 水の精霊が鈴の鳴るような声でそう言った。

「そうだよ。それがボクの望みだよ、リーン」

「あれらはどうするんだ? 苦しんでる民がいるよ?」

 燃え上がる炎に追われた人々を、水に飲み込まれる人々を、最高位の炎の情麗、サールが指差す。

「でも、きみたちに同時に二種類の力を使わせるわけには。ボクは精霊使いとしての力を使い慣れていないから、正確に操れる自信もないし」

「わたしが道を造るわ。あなたたちが宮殿に行くまでなら、わたしひとりの力で十分。大地の
力で事足りるわ!」

「風が邪魔ならぼくが力になるよ、レスター。ぼくらの愛し子が望むなら、なんだってやる。
きみは自分を過小評価しすぎだよ」

「ウェンディ。パール。じゃあお願いできる? できるだけのことをしたい。民たちも助けたい。そのためにボクの気が必要なら幾らでも奪っていい。だからっ!」

「だったら気を最大限にまで発しろ、レスター。あとはぼくらがなんとかする」

「ありがとう、サール。なんとかやってみるね」

 答えてレスターは意識を集中しはじめた。

 ルノール人の眼にはレスターの体から、これまで感じたこともないほどの強大な気が発されているのがわかる。

 それが四精霊に力を与え、彼らがそれぞれの方向へと散っていく。

 大地に風に水に火にその力を発揮する。

 四精霊の姿が輝き、すべてを光が包み込む。

 一瞬、目を開けていられなくなって、全員が目を閉じた。

 いつしか大地の揺れは感じなくなっている。

 風も止んだ。

 火事の気配も感じない。

 水の轟音も止まった。

 おそるおそる眼を開けた人々は、そこに立つレスターをみて、すべてを悟った。

 彼が精霊を操ったことを。

「おま、おまえっ」

 ロベールは信じられない現実を前に言葉にならない。

 そんな彼にかわって護衛の近衛隊長が世継ぎの王子に問いかけた。

「もしかしてレスター王子は精霊使いであることを伏せられていたのですか? それももしか
したら最上級の四精霊すら使役できる精霊使いであることを」

「一時凌ぎに過ぎないここはわかっていたんだけどね。ロベールに同情してボクが能力を伏せていたって、ボクは精霊使いだ。それも最上級の。でも、彼をみていると言えなかった。どうしても」

 悲しそうなレスターに同情されたと知ったロベールは喚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...