これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

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第十二章 恋うる心と報われない心

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 第十二章 恋うる心と報われない心




「起きているか、他の三神」

 聖火の中から東の水神は他の三神に呼びかけてみる。

 だが、返答はない。

 起きているのは自分だけのようだ。

 主と相まみえたあのときから、東の水神は半覚醒のまま深く眠ることがなくなってきていた。

 それは最近起きた異変で、ここ暫くは眠っている時間より、起きている時間の方が長い。

 理由はわかっている。

 愛し子がすぐ傍にいるからだ。

 澄んだその気配を愛しい気持ちを感じ取る。

 それに主神もどうやらこのルノールを訪れているらしい。

 二重の影響から水神は眠る必要がなくなってきていたのである。

 四神がこの大神殿に封じられたとき、それは必然から起きたことだったが、結果として長く眠りにつく事態を招いた。

 望んでいたことではない。

 だが、要となるべき神々が去った後では、四神はあまりに力が強すぎて、覚醒したままではいられなかったのである。

 それでも精霊が滅びない程度には力を分け与えなければならない。

 眠りにつく場所を大神殿にしたのも、実はそのせいだった。

 精霊が減びれば困るのはルノールだけではない。

 この世界そのものに打撃を与える。

 主が戻ってくるまでこの世界を護る。

 それは残された四神に共通した想いだった。

 決してルノールのためだけに選んだ手段ではない。

「主神。あなたは変わらない。我等を愛してくれたときのまま今もなお変わらない」

 あのときの再会を今胸に思い描くだけでも熱くなる。

 魂が。

 後の三神にも知らせてやりたいのに、どうしても起きてくれない。

 後は召還されれば自分たちは覚醒できる。

 主神にも逢えるだろう。

 そのときは遠いなと水神はため息を漏らすのだった。




 綾都はレスターたちが駆け回っている間瀬希の護衛でよく宮殿から外へと出ていた。

 理由は簡単だ。

 強烈に引き寄せる大神殿を、どうしてもこの眼で確認したかったのである。

 大神殿は遠くから眺めたあの時のままの姿をしていて、あれが夢などではないことを証明していた。

「綾。あまり大神殿に近づきすぎるのはよくない。こんな事態のときだ。警戒されたらどうする?」

「うん。ただ」

「ただ?」

「四神が起きている気がして」

「召還もしていないのに?」

 綾都をみていた瀬希が驚いたように大神殿を振り返る。

 だが、綾都が感じていることは四神の愛し子である瀬希にもわからない。

 四神が今起きているかどうかなんて。

 そういうことを感じられるほど、綾都の潜在能力は強いのかもしれない。

「水の気配が強いから、どうやら東の水神だけみたいだけどね」

「よくわかるな」

「多分瀬希皇子の影響だよ」

「わたし? 何故? わたしが四神の愛し子だからか?」

「それもあるしその瀬希皇子が東の華南の皇子だからって意味もあるよ。だから、東の水神が起きている。筋は通ってるでしょ?」

 振り回いて笑う綾都に瀬希は難しい顔だ。

 自分がそこまでの力を持っているとも思えない。

 だが、綾都の言葉だし、なによりも同じ「愛し子」という立場にあるレスターは、かなり精霊に対する影響力が強い。

 だったらそういうこともあるかもしれない。

 レスターはあれからの話し合いで、力を温存することに努めている。

 ルパートたちから力を最大限にまで発揮する必要があると言われ、結果はレスターひとりにかかっていると指摘されたからだ。

 そのためには弱っているレスターでは意味がない。

 成功させたければ辛くても力を温存して体力を回復させること。

 そう言われたのだった。

 そのせいでレスターは最近は内政に精を出している。

 力を温存させていてもできることはあるというのが彼の意見だからだ。

 最上級の精霊使いであるレスターが力を温存しているので、周囲からは不満の声も上がっているらしい。

 レスターはそれに対しては今は時期を待ってほしいとの一点張りで言い含めているが。

 王妃も息子の動向は気になるようだが、信頼しているからか深く追求するようなこともない。

 そんな日常で瀬希の気掛かりは違うところにあった。

 王弟の嫡男ロベール卿だ。

 レスターの能力の高さを見せつけられて放心していたロベール卿。

 あれ以来、大人しいが彼がこのまま黙って引き下がるとも思えない。

 今すべての鍵を握っているのがレスターなのだ。

 レスターの身になにも起こらないように注意しないとと決意していた。

 レスターの身になにかが起こって、この賭が失敗すると、いよいよ瀬希が動くしかなく、それはあまりやりたくないので、他にできることを探しているのだった。

 それにしても水神が起きている、か。

「だったらよけいに長居しない方がいい」

「どうして?」
 
 不思議そうに振り向いた綾都に、瀬希が言い含めはじめる。

「わたしがこれまでに得た知識から判断すれば、だ。精霊よりも力の強いのが四神だ。そして四神が眠りにつくために選んだ地は精霊たちの集うルノール。そこから導き出されるものがなにか、綾部にはわからないか?」

「精霊を護るため?」

「そうだ」

 正解を答えた綾部の髪を撫でる。

 綾都は不安そうな顔をしていた。

「おそらく四神が眠りについているのは、ルパートたちの代理をするためだ。それは四神といえど危険なことで、覚醒したままでは無理だったんだろう」

「だろうね」

 綾都ははっきり理解しているわけじゃない。

 だが、兄の動向などからわかっていることもある。

 だから、瀬希の言葉を理解することも容易かった。
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