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第九章 禁戒の初恋
(2)
その頃色町ではマリアの艶っぽい自室の中で、キャサリンが居心地が悪そうにしていた。
彼女はこういう店に足を踏み入れたことはなかったので。
またラスがこの街で育ったことや、リカルドとの再会などが気になってきた。
ラスはこの街にいたから今まで無事だった。
ということは彼がラスと再会? するためには、彼がこの街に訪れなくてはいけないのだ。
この街の最大の特質を思うとあまりいい気分にはなれない。
「ルイ。貴方はどうやって陛下と再会したのですか?」
「んー? 細かいところは省くけど、母さんと勘違いされて、そこからなんとなく素性を疑われて? みたいな?」
「つまり陛下がこの街へ訪れていたということですね」
キャサリンがなにを考えているのかわかるので、ヴァンが慌てて割って入った。
「皇后陛下。それは早合点だと同行していたわたしから申し上げておきます」
「早合点? でも」
「色町には表の顔とは別に裏の顔があり、陛下が足繁く通われていたのは裏の顔に用がおありだったから。貴女様の捜索をこの20年ずっとこの街を中心にされておいででした」
「表の顔が有名すぎて、ここで育った俺ですら、裏の顔は最近まで知らなかったし。周囲を誤魔化すためにもこの色町を中心地にしてよかったんじゃないか?」
ラスの軽い口調からも、自分の想像は、どうやら早合点らしいとキャサリンも認めた。
「正直あの人の存在を思うと母さんの気持ちは、もう父さんのところにはないんじゃないかと、ちょっと心配だったけど、違うんだ?」
「ユリスのことは好きでした。穏やかな凪のような気持ちで」
「母さん」
「でも、それは今思えば、もう逢ってはいけないと自らを戒めていた陛下の面影を重ねていただけかもしれませんね。わたくしはもし死ぬのなら、陛下の腕の中がいい。そんな気持ちで夫婦でいたことは、ユリスには悪いことをしました。勿論陛下にも」
「陛下はねえ。ここに来るたびに一喜一憂されて。情報が手に入ったと言われれば喜び、間違いだったとわかると落ち込む。そんな20年でござんしたよ、キャサリン様。貴女様が考えている以上に、貴女様は愛されてらっしゃいますよ」
「まだわたくしには居場所があるのでしょうか?」
「父さんが母さんを愛してる。それ以上の居場所って必要か? 愛しても愛されない人もいるのに」
不安げに名を呼ばれ、ラスはリカルドが来る前に大体の説明をしておくことに決めた。
「俺にはジェラルドとジュエルっていう母親の違う弟と妹がいるんだけど」
「陛下の後添いになった方が産んだ子供たちですね」
「おふたり産まれただけ奇跡ざんしょ」
「?」
マリアの言いたいことがわからず、キャサリンは首を傾げる。
「いえね。陛下から時々愚痴られていたんですが、愛されていても愛せない。だから、夫婦生活はほぼ破綻していると。ラスの前でこんなこと言いたくないんだけどねえ。ジェラルド様はともかくジュエル様に関しては、ご自分の子である心当たりはないと。既に夫婦生活は破綻していたから驚いたと。しかし今の医学では違うと証明もできず、仕方なくお子様として認めてらっしゃるとか」
幸いなことに女の子だったから、王位継承には関わって来ないから、と。
「それってあの王妃様が、オッサンを裏切って他の男と密通した挙げ句、産まれてきたジュエルを父さんの子だと発表したってことか?」
「もっと最悪のパターンも考えられますよ。傷心だった王妃様の心の隙をついて、誰かに犯された。もしくは恋人関係になるように仕向けられたとか」
ここまで聞いてラスはジュエルや王妃に悪いと考える前に、今まで気付かなかったことに気付き、気が付いたら口にしていた。
「つまり王妃様がオッサンの子を産み、その地位を盤石にすることで、利益を得る者が居るってわけだな。もしかしてそいつが黒幕か?」
「「あっ!」」
ヴァンもマックスも考えもしなかったことだった。
そもそもジュエルが自分の子ではないと、皇帝が疑っていたことすら、ふたりとも知らなかった。
しかしそれらが事実だとすれば、先の皇帝暗殺の真犯人は、いや、その黒幕は自然と浮かび上がってくる。
「「まさか」」
「ふたりともどうしたんだ?」
「マリア殿、そこまで知っていて不思議には思わなかったのか?」
「なにをざんしょ」
「それらがすべて事実だった場合、皇后様やルイ様を葬って一番得をしたのが誰かということだ」
「それは間違いなく王妃様の御生家アドラー公爵でござんしょうねえ」
「だったら何故それを報告しない!」
「条件が色々と悪いんですよ」
「条件?」
「例えばアドラー公爵が先帝の弟君であり、大変仲がよろしかったこと。それで先帝を弑逆するとは誰もが考えないでしょうし、仮にそうだとしても娘として手元に残っていた今の王妃様は、皇帝陛下より二歳も歳上。王妃に選ばれる可能性なんて無に等しかったんでござんすよ」
一か八かの賭けに出るとしても、実る可能性が低すぎる。
だから、今まで指摘しなかったことだった。
しかし。
しかしだ。
それらをすべて覆す策が、アドラー公爵にあったとしたら?
兄と仲が良いフリをしながら、実は皇位を狙っていたとしたら?
今皇位に一番近い位置に誰が居る?
アドラー公爵の孫。
ジェラルドではないか!
それは間接的にだが、彼が皇位を手に入れることを意味しないか?
彼女はこういう店に足を踏み入れたことはなかったので。
またラスがこの街で育ったことや、リカルドとの再会などが気になってきた。
ラスはこの街にいたから今まで無事だった。
ということは彼がラスと再会? するためには、彼がこの街に訪れなくてはいけないのだ。
この街の最大の特質を思うとあまりいい気分にはなれない。
「ルイ。貴方はどうやって陛下と再会したのですか?」
「んー? 細かいところは省くけど、母さんと勘違いされて、そこからなんとなく素性を疑われて? みたいな?」
「つまり陛下がこの街へ訪れていたということですね」
キャサリンがなにを考えているのかわかるので、ヴァンが慌てて割って入った。
「皇后陛下。それは早合点だと同行していたわたしから申し上げておきます」
「早合点? でも」
「色町には表の顔とは別に裏の顔があり、陛下が足繁く通われていたのは裏の顔に用がおありだったから。貴女様の捜索をこの20年ずっとこの街を中心にされておいででした」
「表の顔が有名すぎて、ここで育った俺ですら、裏の顔は最近まで知らなかったし。周囲を誤魔化すためにもこの色町を中心地にしてよかったんじゃないか?」
ラスの軽い口調からも、自分の想像は、どうやら早合点らしいとキャサリンも認めた。
「正直あの人の存在を思うと母さんの気持ちは、もう父さんのところにはないんじゃないかと、ちょっと心配だったけど、違うんだ?」
「ユリスのことは好きでした。穏やかな凪のような気持ちで」
「母さん」
「でも、それは今思えば、もう逢ってはいけないと自らを戒めていた陛下の面影を重ねていただけかもしれませんね。わたくしはもし死ぬのなら、陛下の腕の中がいい。そんな気持ちで夫婦でいたことは、ユリスには悪いことをしました。勿論陛下にも」
「陛下はねえ。ここに来るたびに一喜一憂されて。情報が手に入ったと言われれば喜び、間違いだったとわかると落ち込む。そんな20年でござんしたよ、キャサリン様。貴女様が考えている以上に、貴女様は愛されてらっしゃいますよ」
「まだわたくしには居場所があるのでしょうか?」
「父さんが母さんを愛してる。それ以上の居場所って必要か? 愛しても愛されない人もいるのに」
不安げに名を呼ばれ、ラスはリカルドが来る前に大体の説明をしておくことに決めた。
「俺にはジェラルドとジュエルっていう母親の違う弟と妹がいるんだけど」
「陛下の後添いになった方が産んだ子供たちですね」
「おふたり産まれただけ奇跡ざんしょ」
「?」
マリアの言いたいことがわからず、キャサリンは首を傾げる。
「いえね。陛下から時々愚痴られていたんですが、愛されていても愛せない。だから、夫婦生活はほぼ破綻していると。ラスの前でこんなこと言いたくないんだけどねえ。ジェラルド様はともかくジュエル様に関しては、ご自分の子である心当たりはないと。既に夫婦生活は破綻していたから驚いたと。しかし今の医学では違うと証明もできず、仕方なくお子様として認めてらっしゃるとか」
幸いなことに女の子だったから、王位継承には関わって来ないから、と。
「それってあの王妃様が、オッサンを裏切って他の男と密通した挙げ句、産まれてきたジュエルを父さんの子だと発表したってことか?」
「もっと最悪のパターンも考えられますよ。傷心だった王妃様の心の隙をついて、誰かに犯された。もしくは恋人関係になるように仕向けられたとか」
ここまで聞いてラスはジュエルや王妃に悪いと考える前に、今まで気付かなかったことに気付き、気が付いたら口にしていた。
「つまり王妃様がオッサンの子を産み、その地位を盤石にすることで、利益を得る者が居るってわけだな。もしかしてそいつが黒幕か?」
「「あっ!」」
ヴァンもマックスも考えもしなかったことだった。
そもそもジュエルが自分の子ではないと、皇帝が疑っていたことすら、ふたりとも知らなかった。
しかしそれらが事実だとすれば、先の皇帝暗殺の真犯人は、いや、その黒幕は自然と浮かび上がってくる。
「「まさか」」
「ふたりともどうしたんだ?」
「マリア殿、そこまで知っていて不思議には思わなかったのか?」
「なにをざんしょ」
「それらがすべて事実だった場合、皇后様やルイ様を葬って一番得をしたのが誰かということだ」
「それは間違いなく王妃様の御生家アドラー公爵でござんしょうねえ」
「だったら何故それを報告しない!」
「条件が色々と悪いんですよ」
「条件?」
「例えばアドラー公爵が先帝の弟君であり、大変仲がよろしかったこと。それで先帝を弑逆するとは誰もが考えないでしょうし、仮にそうだとしても娘として手元に残っていた今の王妃様は、皇帝陛下より二歳も歳上。王妃に選ばれる可能性なんて無に等しかったんでござんすよ」
一か八かの賭けに出るとしても、実る可能性が低すぎる。
だから、今まで指摘しなかったことだった。
しかし。
しかしだ。
それらをすべて覆す策が、アドラー公爵にあったとしたら?
兄と仲が良いフリをしながら、実は皇位を狙っていたとしたら?
今皇位に一番近い位置に誰が居る?
アドラー公爵の孫。
ジェラルドではないか!
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