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第十章 ある日、突然に‥‥
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しおりを挟む第十章 ある日、突然に……
「もう~。驚いたわ。目覚めたらお兄様がいらっしゃらないんですもの」
食事の席でフィーナがプリプリ怒っている。
彼女はまだ事情を知らない。
それは暁や隆にも言えることだ。
透の素性を明かす。
これは昨夜、決められたことだった。
そして暁と隆に関してはふたりが嫌がろうとなにをしようと、食事が済んだら元の世界へ戻す。
それも決められていた。
ふたりはそんなこととは知らないが、いつも明るい透が落ち込んだ顔をしているので、昨夜から王の寝室にいるらしいということについても、なにも問うことができずにいた。
ただ王の寝室でまた一夜を過ごしたと知ったふたりが、あまり慌てていないのは顔を合わせたときに透から「別になにもなかったよ? エドもいたし」と聞いていたからである。
それなのにどうして気にしているか?
それは透の様子が明らかにいつもとは異なるからだ。
確かになにもなかったのだろう。
フィーナの様子をみる限り、エドワード王子が一緒にいたというのも事実らしいし、それでなにかあったと勘繰るのは、さすがに勘繰りすぎだろうから。
どうして透の様子があんなにいつもと違う?
言えない問いがふたりの脳裏を巡る。
するとフィーナの言葉に対して兄であるエドワードが答えた。
「悪かったね? 急に決まった話でね。フィーナは寝ているだろうから報告もできなくて」
「でも、どうして叔父様の寝室なの?」
「その話は食事が終わってからね? 食事の最中に話すというのは礼儀知らずな真似だよ、フィーナ?」
「あ。ごめんなさい、つい」
あまりに兄が心配だったので、フィーナは食事の最中に話し掛けてしまったのだ。
注意されて小さくなる。
それからは黙々と食事が進められた。
食事が終わりお茶の時間になる。
さあ、これからは自分が話す番とばかりに、フィーナとルーイのふたりが口を開こうとしたが、これに先駆けるようにアスベルが暁と隆に話し掛けた。
「アキラとエドの客人」
「「はい?」」
「ふたりに大事な話がある。これはふたり以外はすべて知っていたことだ。それをこれからふたりにも話そうと思う」
「アキラに打ち明けるの、兄上? トールさんのこと」
ルーイが不思議そうに言い、暁がギョッとしたように彼を振り向いた。
「ルーイも知ってたのっ!? 知っててボクに隠してたのっ!?」
「あ。えーと。ごめんなさいっ!!」
ルーイは友達に隠し事をするのは初めてだったので、思いっきり頭を下げてしまった。
その様子を侍従長のカスバルが苦々しそうに見守っている。
周囲には数人の侍従たちや給仕たちもいたが、ランドールが徐に彼らに声を掛けた。
「皆暫く席を外してくれないか?」
「しかし陛下」
カスバルが代表で声を投げる。
「家族だけで大事な話があるのだ」
譲らない口調にカスバルは悔しそうにしながら、他の皆に合図して全員が出ていった。
その様子を見ていた透はアスベルとルーイを取り巻く問題は、なんとか片づけないといけないなと今更のように感じていた。
アスベルは正当な王位継承者だ。
皆が考えているように国に災いをもたらす者じゃない。
寧ろ人間として生まれていた戦女神フィオリナの血を多少なりとも引いた特別な御子だ。
その正当性さえ明らかになれば、だれもアスベルのことを悪く言ったりできなくなるだろう。
そのために「紅の神子」でありフィオリナの子である透になにができることはないだろうか。
「まず最初にこの問題はふたりの身の振り方を決めるものだということを理解してほしい」
そんなことを考えている間にアスベルは話し始めているようだった。
透が視線を向ける。
身の振り方を決めると言われ、暁と隆が身体を強張らせている。
「おれたちも最大限ふたりの意思を尊重してきた。だから、マリンが以前ふたりを帰せると言ったときに、それを実行には移さなかったんだ。だが、もうそういう甘いことは言っていられない」
「それは兄上……昨夜から父様の寝室にトールさんやエド兄上がいたのと、なにか関係してるの?」
「無関係とは言えないな。実は昨夜トールは襲われたんだ」
「「「「えっ!?」」」」
事実を知らなかった者が同時に驚いた声をあげた。
「襲ってきたのは出現したら、すべてを滅ぼすと言われている伝説の邪神ヴァルドの影だ。救いは本人じゃなかったことくらいか」
「ヴァルド!! なんて恐ろしいっ!!」
フィーナはガタガタと震えている。
「そんなに怖いの、ルーイ? ヴァルドって?」
その恐ろしさを完全には理解できない暁が年下の友達に問いかける。
隆もそれを聞いていた。
「うん。とにかく強くてとにかく残忍で、それで凄く恐ろしいって聞いてる。ヴァルドに襲われるって聞くと、昔から子供はどんな悪さもしなくなるって言われてるほどなんだって」
「そんなに恐ろしい伝説の邪神に透が襲われた? どうして?」
隆が信じられないと呟く。
「それは彼が『紅の神子』だからだ」
「そんなバカバカしいことまだ言ってるの、アスベルさん?」
暁は引きつった声を出したが、そもそもそう疑われていたことすら知らなかった隆は、透を真っ直ぐに見て問いかけた。
「どういうことなんだ、透? おまえが『紅の神子』って。悪い冗談だよな?」
「……ごめん。ふたりとも。冗談じゃないんだ」
「兄さんっ!?」
「……透」
ふたりとも絶句している。
顔を見て言うのが辛くて透は目を伏せる。
「ふたりとも知ってるだろ? 俺が小さい頃から泣いている女の人の夢を見てること」
「うん」
「ああ」
「あれ……フィオリナなんだ」
「「戦女神フィオリナ?」
「俺の……母さんなんだ」
ふたりともなにも言えなかった。
透の母親が戦女神フィオリナ?
それは透は地球の出身ではなかったということか?
そもそも人間ですらなかった?
透は神だった?
「もう兄上って呼んでいい、トールさん?」
「兄上って……ルーイ?」
問いかける暁を振り向いてルーイが笑う。
「だってトールさんの母上がフィオリナ様なら、ぼくら母様は同じだってことだから」
「母親が同じ?」
「え?」
「つまりだな。わたしが妃としていたビクトリアは、実はフィオリナに似た化身ではなく、フィオリナが人間として一時的に生を受けていた本物の化身だったということだ。その意味でトール、アスベル、ルーイは母親が同じということになる」
3人の母親が同じと言われ、今まで兄の弟の座にいた暁が震える。
1番恐れていたこと。
兄の血の繋がった肉親が出てきたのだ。
暁はこのときを1番恐れてきた。
血の繋がらない弟であったがために兄を奪われることを。
「そんなバカバカしいことをおれたちに信じろと?」
「そうだな。確かにバカバカしく聞こえるかもしれない。だが、これは現実だ。彼は神子でありヴァルドに生命を狙われる身。ふたりの存在が足枷になる。それもまた変わらない現実」
ランドールに言われてふたりが震える。
「あの……そのトールが、神子がヴァルドに襲われたこととお兄様も含めて、叔父様の寝室に行ったことと一体なんの関係が?」
フィーナの問いに答えたのはエドワードだった。
この城にはフィオリナが張った強固な結界があること。
それがランドール、アスベル、ルーイの寝室であること。
その中でも1番強固な結界が張られているランドールの寝室に透を隠すしかなかったこと。
でも、ふたりきりにするには色々な問題があったため、透に関して問題を抱えるエドが割り込む形となったこと。
これはフィーナにはすんなり理解できたが、ふたりには理解できなかった。
結界云々はゲームの知識でなんとかなる。
だが、そこにエドワードが絡む意味がわからなかったのだ。
疑問の視線を投げるふたりにエドワードは苦笑する。
「つまりね? わたしは神子に生命を握られている運命を背負っているんだよ」
「「生命を握られている?」」
「25になるまでに神子と心底愛し合わなければ、わたしは死ぬ運命にある」
「「……」」
「勿論最初は神子が男だとは思ってもいなかったよ?普通に妃に迎えればいいと思っていたから。だから、どうしてわたしが絡んだかはわかってもらえたかな?わたしたちが男同士である以上、叔父上が同性でも無視できなかったという意味なんだけれど」
こんがらがったこんな話、どう理解しろというのかと、ふたりは怒鳴りたかった。
ただ今訊くべきことはひとつだと思った。
何故神子がヴァルドに生命を狙われるのか。
それにより自分たちはどうするべきなのか。
それだけだ。
それを問いかけると、それまで黙っていたマリンが話し出した。
「ぼくはね、トール様が誕生されたあと、トール様に仕えるためにフィオリナ様によって作り出された生命で、この世界では古くから賢者マーリーンと言われていた」
「この国に予言を与えたという?」
「そう。あの予言は正確には邪眼の王子が国を滅ぼすのではなく、ヴァルドが世界を滅ぼそうとするとき、邪眼の王子が神子が招き、国を救い世界を救うという意味だったんだけど、どうも曲がって伝わってるみたいだね」
「おい、マリン。おまえ今まで一度だってそういう説明したか? おれが何度生命を狙われてもしなかっただろうが、おまえはっ!!」
「えー。だってその程度で死ぬようじゃあ、ヴァルドから国は護れないよ?」
あっけらかんと言われ、アスベルが憤死した。
気の毒にと言いたげな視線が彼に集中する。
「ヴァルドが神子を狙う理由はね。正確には逆恨みだよ」
「「「逆恨み?」」」
透の声もそこに重なる。
「トール様も一度はヴァルドと逢ったのなら、薄々気付いてるかもしれないけど、ヴァルドってね、フィオリナ様が好きなんだよ」
ピクリとランドールが反応を見せた。
じっとマリンの顔を見る。
「で。一度思いっきりフラれてて、そこから狂いだしちゃって。ちょうどその頃、フィオリナ様がトール様を産んだんだよね」
「つまり? 好きだったけど母さんには相手にされなくて、それで諦められなくて狂っちゃって、その頃母さんが俺を産んだから、裏切られたと思って裏切りの証の俺を殺そうとしてる?」
透が震えながらそう言った。
皆身も蓋もないなと思った。
確かにそういう理由で生命を狙われている透にはいい迷惑だろうが。
「どうしてイーグル王の寝室に対ヴァルド用の結界を張ったか理解できた?」
「つまり狂っているヴァルドにとってビクトリア、いや、フィオリナを妻としたわたしは憎い恋敵というわけか」
なるほどとランドールは宙を仰ぐ。
「その理屈から言えばおれやルーイも存在の意味が知られれば、トールみたいに狙われる可能性がある?」
兄の指摘にルーイがゾッとした顔をする。
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