紅の神子

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第二十章 賢者マーリーン

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「来月には産まれるらしいよ」

「‥‥‥」

 隆は頭を抱え込んでしまう。

「自分のしたことを自己正当化はしない。ヴァルドに操られていたからって、すべての非をヴァルドに押しつけたりもできない。どういう事情からにしても、その女性たちにしてみれば
犯したのはおれなんだから」

「隆」

「子供をおろせたのなら、まだ傷は浅いかも知れない。少なくとも望まない子を産む事態だけは避けられた。でも、おろせなかった女性にどう謝ったらいいんだろう。そもそもおれが顔をみせれば、きっと怯えるだろうし」

 隆は誠心誠意、その女性たちに謝りたい。

 暁が謝ったときみたいにとりあえず頭を下げておけ、なんていう謝り方じゃなくて、済まないことをしたと思うから謝りたいのだ。

 だが、あのときの反応からもわかるように、彼女たちにとっては隆や暁の顔をみることが、精神的な拷問なのである。

 犯されているときのことを、忘れたいときのことを、いやでも思い出させられるから。

 謝りたくても謝れないのに子供まで産ませるなんてどうすればいい?

 隆の迷いにマリンはため思をつく。

「タカシの気持ちはわかるけどね。きみはあの女性たちの前には出ないほうがいい」

「でも」

「わかってるはずだよ。あの女性たちにとっては、きみこそが恐怖の対象だってことは」

「‥‥‥」

「問題はね、この場合、産まれてくる子供なんだよ。もちろんアキラの子も含めてね」

「あの子も? どういうこと?」

 暁が口を挟む。

「酷なようだけど言うようけど、今のふたりには生活力がない。子供なんて引き取っても、
育てられないでしょ?」

 当たっているのでふたりともなにも言えない。

 そもそも異世界産まれのふたりには、こちらの世界での生活手段がなにもないのだ。

 ランドールの世話にならなければ、自分たちが食べていくことすら難しいのである。

 そんな状態で子供なんて引き取っても育てられるはずがない。

 それはわかっていた。

「だから、イーグル王が子供を育てるにしても、ふたりには行く宛もない。子供を抱えていては、元からの世界にも戻れない。だからね。このイーグル城で今まで通り生活して子供を育ててはどうかって」

「でも」

「そこまで世話になるわけにも」

「ただ世話になるのが心苦しかったら、このイーグル城でできる仕事を、なにか探せばいいでしょ? 少なくともふたりには異世界で身につけた知識がある。あのヴァルドの城から自
逃げ出せるほどの知識が、ね。それってこちらでは十分、武器になるよ?」

 言われてふたりが顔を見合わせる。

 確かにいろんな面で進んでいる知識を持っているし、隆も暁も普通の子供より頭がキレる。

 今までの知識を活かすことはできそうだった。

「だったらおれはこららで勉強しで薬師を目指そうかな」

「薬師を?」

「元々、将来は医者、薬師になる予定だったんだ。そのために勉強もしていたし、それが役に
立つだろうから」

 隆にできることといえばそれくらいである。

「ボクは理数系が得意だったから、そういう知識を活かす仕事をなにか探そうかな。兄さんがどういうかが心配だけど」

「そうだね。タカシの場合にもいえるけど、アキラもタカシも神子の家族みたいなものだからね。イーグル王も悪くはしないと思うよ。扱いは特殊になるだろらから」

「次期イーグル王妃だもんね」

「次期イーグル王妃? どういうことだ?」

 隆が眉を寄せる。

 彼の気持ちを知っているからこで、知っていても言えなかった暁は、ここで初めて彼に透の近況を打ち明けた。

「兄さん、ランドール王と婚約発表したらしいよ。将来のイーグル王妃なんだって」

「婚約?」

「まだ正式には婚約してないよ。そもそもトール様はイーグル王のことは、父親として慕ってるだけだから。でも、それがどうかした?」

 マリンに言われてふたりともなにも言えずに口を噤む。

 その様子からもしかしてふたりの気持ちってトールのところにあるんじゃあ....とマリンは疑ったが、それを口に出すことはなかった。

「とにかく色々と覚悟を決めないといけないこともあるだろうし、ふたりはよく考えておいて
ほしい。ぼくトール様の眼を盗んできたからそろそろ戻るね」

「目を盗んできたってなにかあったのか?」

「あー。うん、ちょっとね。女性たちを救出するときに、ヴァルドと対決しておかげで倒れちゃって、危うく死ぬところだったんだ」

 あっけらかんと言われたが、ふたりは反応できなかった。

 自分たちのためにマリンが死ぬところだった?

 そう思ったらなにかを言えるはずもない。

「トール様の眼が覚めると心配されちゃうから、もう戻るよ。じゃあ」

 それだけを言い置いてマリンが出ていく。

 その後ろ姿をふたりはなにも言えずに見送っていた。
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