愛人(まなびと)

大宮りつ

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第3話:生存戦略

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 その後、家庭の事情で私は高校受験をすることになり、残念ながら彼女と同じ学校に通えたのは、中学の3年間だけで終わってしまった。
 高校、大学に進学するにつれて、中学の頃の友人とはほぼ疎遠になっていったが、ただ一人、彼女だけは違った。
 
 「学校が違っても、ずっと友達だから!」
 
 中学卒業の日、別れ際に交わしたその言葉通り、高校生になっても大学生になっても社会人になっても、彼女はそれまでと変わらず連絡を取り続けてくれた。なんだかんだで、お互い忙しくても月に一度は顔を合わせていたし、中学生の頃と変わらず、彼女は私にとってこの世で一番の親友であり続けた。

 それから数年が経ち、社会人になって、私たちはいわゆる社会の荒波に揉まれていた。
 「世の中ってこんなに生きづらいものだったのかな……」
 「本当、世知辛い世の中って言うよね。私たちまだ新人だから、発言権もあってないようなものだし……」
 二人とも別の会社で働いていたが、どこの会社も似たり寄ったりらしい。
 
 「もうさ、こんなんじゃやってられないよ。だから、いいこと思いついたの。みっちゃん、私たち『生存戦略』しよう。今の状況を攻略するために、二人で知恵を出し合って社会の荒波と戦うの!」
 彼女は、何かを固く決意したように、力強い口調でそう言った。
 
 『生存戦略』……それは、彼女が好きなアニメに出てくる言葉だ。戦いを強いられる環境下で、少女達が大切なものを守るために、強く生きようとする物語。確かに、今の私たちと状況は似ているのかもしれない。私たちは、自分のメンタルを守るために、苦手な上司達と戦わなければいけなかった。
 
 「私ね、少し前から朝活を始めていて、自己啓発本を読んでいるの。自分の心を守るための知識が欲しくて……だから、胸に刺さった言葉やお勧めの本があったら情報共有するね!」
 
 彼女は社会人になって、見違えるほど変わっていった。中学時代は、定期試験で追試組のメンバーに入れられるくらい勉強嫌いだったのに、それが今となっては、朝活に読書だなんて……彼女には失礼だけど、正直かなり驚いた。いくら学生時代に努力から逃げてきたことを後悔しているとはいえ、これほどの自分改革を実現させてみせるなんて……。  
 
 まるで『生存戦略』を掲げるアニメの主人公のように、逞しく力強く生きることを決心したようで、そんな彼女は、とても努力家で芯の強い素敵な女性に見えた。
 
 こうして、なんとか社会の荒波に耐えながら、二人ともそれぞれの仕事に慣れつつあった頃、うちの家庭では両親の離婚話が始まり出した。
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