愛しの令嬢の時巡り

紫月

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決別の時

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今日私は、乙女ゲームの世界で婚約破棄をされた。
生まれながらに前世の記憶があり、乙女ゲームの世界と酷似した世界に転生をしたのだと気がついた。
何度も抗ってきた。
これは空想の世界ではないと己に言い聞かせ、現実の世界で抗ってきた。
なのにどうだ?
現実は否応無しに私に降りかかる。
今目の前で王宮からの使者が、私の愛する婚約者ウィルヘルム王太子殿下との婚約破棄述べている。
本当に彼を愛していた。
ゲームの強制力に負けないほど、想い合っていると信じていた。
なのに結果はどうだ?
ヒロインが社交界デビューの日からゲームが始まり、時が経つにつれ彼と会うことも叶わなくなった。
風の噂でヒロインと不貞を働いてると聞くばかりだった。
原因は知っている。
公にはされていないが、王が病に倒れているのだ。
ヒロインは聖女の力を持っていて、王の命を奇跡のように救うのだ。
ウィル様ルートのシナリオが進むと、自然と彼はヒロインに心を惹かれるようになり、婚約者の私が邪魔になってしまう。
だがとても優しい人なのだ。
ヒロインに惹かれていても、私を捨てることはないと信じていた。
希望は裏切られてしまったが……。

婚約破棄されたこの瞬間さえ彼に会うことは叶わなかった。
だが所詮私はただの公爵令嬢にしかすぎない。
厳命が下れば従うしかない。
ただただ悲しかった。
無意識に爪を噛む。
家族には少し休みたいと言い、失意のまま自室に下がる。
私はこの未来を知っていた。
シナリオでは確か私がヒロインを虐め、婚約破棄に至っていた。
ウィル様がヒロインに惹かれていると知り、嫉妬にかられたからこその行為だ。
だが私は人に危害を加える度胸などない。
シナリオを知っていたこともあるが、人を害して得られるモノは何も無いと知っているからだ。
だが現実では何もしていないのに、ヒロインに会ってすらいないのに婚約破棄の結末に辿り着いてしまった。
もしゲームの強制力が働き婚約破棄まで行き着いたら、全てを終わりにしようと心に決めていた。
私は隠し持っていた毒を煽る。

愛する彼と、残酷な現実に決別するために……。
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