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真実とウィルヘルムの決意
遡ること16年前、この国の王である父が病に倒れた。
原因不明の病気で治療法もなく、医師の診断ではもって一年だろうと言われていた。
そんなときユーリから耳寄りの情報を聞かされたのだ。
マリア男爵令嬢は聖女であると。
聖女とはその清らかな魂の力で病を癒していくのだという。
聖女はこの国の伝説にのみ存在する、絵空事に過ぎない存在だと思っていた。
だが刻一刻と父は病に蝕まれてゆき、マリアに治療を頼む以外何も出来なかったのだ。
マリアの聖女の力は瞬く間に病を治すのではなく、ゆっくりと徐々に身体を癒すのだそうで、長い期間の治療が必要だった。
マリアに父の治療にあたってもらう間に、俺は王の代理の執務を行った。
右も左も分からない状況下で、仕事を覚えることに必死だった。
気づけばそんな日々が一年も続いていた。
俺は婚約者であるリュシーのことがずっと気になっていた。
毎日手紙を書くも多忙な日々に忙殺され、送ることすら叶わない。
だが長い治療の甲斐もあって、漸く父の容体が安定してきた。
俺はやっと彼女に会うことが出来るのだと喜んだ。
医師に病は完治したと診断された日の夜、俺は今まで会えなかったことへの謝罪と会いたい気持ちを綴った手紙を書いた。
もう長いこと彼女の顔を見ていない。
会えない理由は宰相の娘のイザベラから伝えられてるはずだった。
彼女が自らリュシーに伝えてくれると申し出てくれたのだ。
だからきっとリュシーなら許してくれると信じていた。
優しい彼女ならずっと我慢強く待ってくれるだろうと甘えていたのだ。
だが会いたい気持ちを綴った手紙が彼女に届く機会は訪れなかった。
執務室の扉がノックされる。
「入れ。」
ユーリに早急に登城するよう命じてある。
「ウィル、要件を聞こうか。」
「俺の要件は分かっているんだろう?
どういうことだ、一体何が起こっている?」
先日ユーリが女官にと差し向けてきたレベッカ嬢と話をした。
面影が、話し方が、空気まで最愛の彼女によく似ていた。
そして困ったときなどによく無意識に爪を噛む癖も彼女と一緒だった。
他人の空似にしても似過ぎている。
そしてリュシーは知らなかったようだが、チャーリーは俺とリュシーにしか懐かない猫だ。
聖女のマリアですら抱き上げることが出来ずにスルリと逃げられてしまうのだ。
その猫が初対面の人間相手に、自分から膝の上に乗り甘えてみせた。
こんな偶然があり得るのか?
「ウィルの言いたい事は分かるけど、彼女の正体は言わない約束になっている。
だが彼女の魂の色を教えない約束はしていないな。
彼女は美しい純白の色を持っている。」
「ーーーーー!!」
純白の魂など、聖女を除いて一人しかいなかった。
そんな伝説の存在など容易く生まれてくるものではない。
ユーリが彼女の亡骸と対面して、初めてリュシーが純白の魂を持っていることを知った。
やはりレベッカ嬢はリュシーの生まれ変わりなのだろうか?
ならば俺を憎んでいるのではないか?
彼女の父は王宮の使者から婚約破棄を言い渡され、絶望の果てに自害したのだと言っていた。
当然王宮から使いなど出していない。
何者かが偽の使者を出し彼女を追い詰めたのだ。
犯人の正体は依然として掴めていない。
だがリュシーは俺から婚約破棄を言い渡されたと思っているだろう。
裏切りに絶望し、俺を憎んだに違いない。
「俺は……後はお前次第だと思っている。」
「俺……次第?」
「少なくとも俺には、レベッカ嬢がお前を嫌っているようには見えない。
お前は彼女以外愛せないのだろう?」
そうなのだ。
王族の務めとして後継者は残さなければならないが、どうしても他の女性を妃に娶る気持ちになれなかった。
けれどもう二度と会うことが叶わないと思っていた愛する人が近くにいる。
どんなに憎まれていても、俺は彼女しか愛せないのだ。
ならば彼女を妃にする以外の選択はどこにも存在しない。
「……ユーリ。」
「ん?」
「彼女を見つけてくれたこと……彼女を女官に付けてくれたこと、感謝する。」
「どういたしまして。」
神がもう一度チャンスを与えてくれたのなら、俺はなんとしてもこの手に掴みたい。
長い月日を経ても、リュシーを愛する気持ちが色褪せることはなかった。
ならば俺はこのまま彼女を愛し続けるだけだ。
俺は明日からの日々を、可能な限り彼女と過ごそうと心に決めたのだった。
原因不明の病気で治療法もなく、医師の診断ではもって一年だろうと言われていた。
そんなときユーリから耳寄りの情報を聞かされたのだ。
マリア男爵令嬢は聖女であると。
聖女とはその清らかな魂の力で病を癒していくのだという。
聖女はこの国の伝説にのみ存在する、絵空事に過ぎない存在だと思っていた。
だが刻一刻と父は病に蝕まれてゆき、マリアに治療を頼む以外何も出来なかったのだ。
マリアの聖女の力は瞬く間に病を治すのではなく、ゆっくりと徐々に身体を癒すのだそうで、長い期間の治療が必要だった。
マリアに父の治療にあたってもらう間に、俺は王の代理の執務を行った。
右も左も分からない状況下で、仕事を覚えることに必死だった。
気づけばそんな日々が一年も続いていた。
俺は婚約者であるリュシーのことがずっと気になっていた。
毎日手紙を書くも多忙な日々に忙殺され、送ることすら叶わない。
だが長い治療の甲斐もあって、漸く父の容体が安定してきた。
俺はやっと彼女に会うことが出来るのだと喜んだ。
医師に病は完治したと診断された日の夜、俺は今まで会えなかったことへの謝罪と会いたい気持ちを綴った手紙を書いた。
もう長いこと彼女の顔を見ていない。
会えない理由は宰相の娘のイザベラから伝えられてるはずだった。
彼女が自らリュシーに伝えてくれると申し出てくれたのだ。
だからきっとリュシーなら許してくれると信じていた。
優しい彼女ならずっと我慢強く待ってくれるだろうと甘えていたのだ。
だが会いたい気持ちを綴った手紙が彼女に届く機会は訪れなかった。
執務室の扉がノックされる。
「入れ。」
ユーリに早急に登城するよう命じてある。
「ウィル、要件を聞こうか。」
「俺の要件は分かっているんだろう?
どういうことだ、一体何が起こっている?」
先日ユーリが女官にと差し向けてきたレベッカ嬢と話をした。
面影が、話し方が、空気まで最愛の彼女によく似ていた。
そして困ったときなどによく無意識に爪を噛む癖も彼女と一緒だった。
他人の空似にしても似過ぎている。
そしてリュシーは知らなかったようだが、チャーリーは俺とリュシーにしか懐かない猫だ。
聖女のマリアですら抱き上げることが出来ずにスルリと逃げられてしまうのだ。
その猫が初対面の人間相手に、自分から膝の上に乗り甘えてみせた。
こんな偶然があり得るのか?
「ウィルの言いたい事は分かるけど、彼女の正体は言わない約束になっている。
だが彼女の魂の色を教えない約束はしていないな。
彼女は美しい純白の色を持っている。」
「ーーーーー!!」
純白の魂など、聖女を除いて一人しかいなかった。
そんな伝説の存在など容易く生まれてくるものではない。
ユーリが彼女の亡骸と対面して、初めてリュシーが純白の魂を持っていることを知った。
やはりレベッカ嬢はリュシーの生まれ変わりなのだろうか?
ならば俺を憎んでいるのではないか?
彼女の父は王宮の使者から婚約破棄を言い渡され、絶望の果てに自害したのだと言っていた。
当然王宮から使いなど出していない。
何者かが偽の使者を出し彼女を追い詰めたのだ。
犯人の正体は依然として掴めていない。
だがリュシーは俺から婚約破棄を言い渡されたと思っているだろう。
裏切りに絶望し、俺を憎んだに違いない。
「俺は……後はお前次第だと思っている。」
「俺……次第?」
「少なくとも俺には、レベッカ嬢がお前を嫌っているようには見えない。
お前は彼女以外愛せないのだろう?」
そうなのだ。
王族の務めとして後継者は残さなければならないが、どうしても他の女性を妃に娶る気持ちになれなかった。
けれどもう二度と会うことが叶わないと思っていた愛する人が近くにいる。
どんなに憎まれていても、俺は彼女しか愛せないのだ。
ならば彼女を妃にする以外の選択はどこにも存在しない。
「……ユーリ。」
「ん?」
「彼女を見つけてくれたこと……彼女を女官に付けてくれたこと、感謝する。」
「どういたしまして。」
神がもう一度チャンスを与えてくれたのなら、俺はなんとしてもこの手に掴みたい。
長い月日を経ても、リュシーを愛する気持ちが色褪せることはなかった。
ならば俺はこのまま彼女を愛し続けるだけだ。
俺は明日からの日々を、可能な限り彼女と過ごそうと心に決めたのだった。
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