愛しの令嬢の時巡り

紫月

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リュシエンヌが選んだ真実の愛

さて、どうしたものか。
昨日の夜、部屋に戻ると扉に手紙が挟まっており、美しい字で話したい事があるので会いにきてほしい旨が書かれていた……。
心情的には体育館裏に呼び出されたときの恐怖に似ている……。
リンチ?リンチなの!!?
最近ウィル様と関わりが増え、その代わりに女官達とウィル様の距離が出来てしまっている。
十中八九手紙の相手は女官のうちの誰かだろう。
ううう……私のせいではないのに……。
同じ女官といっても私には色仕掛けをする気はまるでないので、特に関わりは持たなかった。
遠目に見るだけだったので、どんな美女が色仕掛けをしているのかまでは知らない。
が、ここにきて呼び出しをくらうということは、「アンタ!いい気になってんじゃないわよ!」って言われるパターンだよね!?
私はお妃様の座など狙ってないと、懇切丁寧に説明すれば分かってもらえるだろうか……。

そんなわけで私は待ち合わせ場所やってきた。
懐かしい、お気に入りの階段。
偶然か、それとも必然か。
見れば蠱惑的な美女が私を待っていた。
ふと、彼女の面影が誰かに重なる。
「マリア……様?」
「…………やはり、貴女なのね……。」
どういうことだろう?
彼女は辛かった一年間、私に寄り添い、支えてくれた親友だ。
幼少の頃階段から落ち足を悪くしてしまった私は、ゲーム開始の14歳になってからも王宮に赴くことが出来なかった。
ウィル様が屋敷に会いに来てくれないかぎり、会うことが出来なかったのだ。
故にヒロインを虐めるどころか、顔すら知らないのである。
そんな折数年ぶりにマリア様が私を訪ねてきてくれたのがきっかけだった。
年月が経つと幼い頃に見た顔の記憶は曖昧で、少し以前より変わった印象を持ったものだが、マリア様は私を気遣いウィル様の様子をよく話してくれたのだ。
この世界では見ることのない黒眼黒髪の、少しタレ目が愛らしい少女だった。
だが、今目の前にいるマリア様は美しいブロンドの髪に青い瞳の美女だ。
そして女官になっていたのね。
印象が違いすぎてて気づかなかった……。
「リュシエンヌ様……でしょう?」
「どうして……。」
「あの方が惹かれる人は……私をその名で呼ぶのは貴女だけだわ……。」
どういう事だろう?
「フフッ、不思議そうな顔されてますわね。
騙されていたにも関わらず、馬鹿な人ね。」
「騙されて……?」
一体何のことだろう?
「1つだけ教えてくださいまし。
私はあの日、貴女に毒を渡しましたわ。
でもそれは貴女が飲むための物ではなくて、聖女に飲ませるようにとお渡ししたのです。」
「あ!あぁ、ゴメンなさい!
いろいろ心配をかけてしまった上に、用意してくれた毒まで勝手に飲んでしまって。
でもちゃんと薬の瓶の指紋は綺麗に拭き取ったから、貴女に迷惑はかからなかったでしょ?」
「そうではなくて!
何故自分で飲んでしまったの?
上手くいけば聖女を亡き者にして、ウィルヘルム様を取り返せたかもしれないのに。」
「それは違うわ。
人を害して得られるモノなど何もない。
ウィル様が聖女を愛してしまわれたのなら、婚約者の私は邪魔者でしかないわ。
辛いし悲しかったけど、彼が幸せになるための足枷になるくらいなら、私は死を選びたかった……。」
「…………!!」
運命に逆らえない事が辛かった。
ウィル様の気持ちが変わってしまったことが悲しかった。
それでも。
私がいなくなることでウィル様が幸せになれるなら、それでいいと思ってしまったのだ。
「そんなの偽善ですわ!
どんなことをしても奪えばよかったじゃない!!」
その時だった。
興奮したようにマリア様が叫び、いつかの日のように階段の最上階で足を踏み外してしまう。
「ダメ!!」
身体は勝手に動いた。
マリア様を助けるのに、迷うことなどあるわけない。
マリア様をギュッと包み込むように抱きしめ、そして階段から落ちていった。
やはりしこたま全身を打ち付けたが、踊り場でようやく止まってくれた。
「ーーーッ!!
リュシエンヌ様!!!」
一緒に落ちてしまったから彼女も無傷とはいかないだろうが、ちゃんとクッションにはなれたはず。
「マリア様……どこか痛むところは……ありますか?」
「お人好しもいい加減になさいませ!!」
「フフッ……あの頃に……戻った……みた………。」
「……リュシエンヌ様?
しっかりしてくださいませ!リュシエンヌ様!!」
遠くでマリア様の声が聞こえる。
そして私はそのまま気を失ったのだった。


※※※
side ユーリウス


俺はレベッカ嬢が女官になってからの二週間、イザベラ嬢の動向を常に監視していた。
イザベラ嬢は宰相の娘ゆえ、女官にと推されれば断ることも出来ない。
しかし野心に溢れた魂の持ち主ならどんな理由を付けてでも断っている。
だが気になるのはイザベラ嬢の魂の色が野心に濁っているのではなく、悲しみのような……諦めにも似た色をしていたことだ。
ウィルは幼少の頃の事件を、子供の癇癪が引き起こしたものだと割り切っていたが、そればかりではないだろう。
そして15年前にリュシエンヌ嬢が自害した事件に関わっていないとは言い切れない。
ウィルはイザベラ嬢が連絡係を申し出てくれたので疑うことなく任せたようだが、王妃の座を狙っている彼女が婚約者のリュシエンヌ嬢のために動くのは不自然すぎるのだ。
王宮からの偽の使者の正体分からないが、それを偽装できる者は多くはない。
イザベラ嬢の父は宰相だ。
彼の権力を使えば幾らでも細工は出来るだろう。
だが確固たる証拠が出てこなかったのである。
しかもリュシエンヌ嬢の死因は他殺ではなく自殺だ。
リュシエンヌ嬢を追い詰めた証拠が出てきても、彼等を法で裁くことは不可能だった。
真相が分からない今、警戒する以外に何も手立てがない。
「ウィル、あまり表立ってレベッカ嬢を追いかけ回してると、面白く思わない輩が出てくる。
気をつけろ。」
「分かっている。
だが妃が決まれば女官の制度も廃止になるのだろう?
まずは彼女の気持ちをこちらに向かせたい。」
「お前の気持ちも分かるが、廃止になる前に彼女に危害を加えられる可能性も充分ある。
女官達を押し付けてきた狸達の説得に時間がかかってるのは申し訳ないが、もう少し待ってくれ。」
「だが時間がない!
彼女はあと二週間ほどで領地に帰ってしまうのだろう?
王太子の立場を利用して滞在期間の延長を命令するのは簡単だが、彼女にはそれをしたくないんだ。」
ウィルは誠実な男だ。
だからこそ融通も利かない。
「とにかく女官達の、特にイザベラ嬢の動向には気をつけてくれ。」
「イザベラ?
彼女は昔と違って大人しい性格だ。
リュシーのことを心配する姿に嘘はなかったと俺は思うのだが……。」
「……それでも嫌な予感がするんだ。」
「分かった。
お前が言うんだから何かあるんだな?
ハンスに頼んでリュシーに護衛をつけよう。」
「それがいい。」
イザベラ嬢の意思はどうか分からないが、父親の宰相はかなりの野心家だ。
娘を王妃に据えるためには、なりふり構わず他を排除してくるだろう。
何か策は講じるべきだ。

その時だった。
ハンスが大慌てで執務室に駆け込んできた。
「た、大変です!!
レベッカ嬢がーーー!!!」
「ーーーー!!?」
レベッカ嬢がイザベラ嬢を庇い階段から落ちたと知らせを受け、ウィルの顔が蒼白になってゆく。
やっと、やっとウィルの顔に笑顔を戻してやれるチャンスなのだ。
無事であってくれと祈りつつ、俺はウィルと共に彼女が運ばれた治療室に向かったのだった。
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