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故人
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見間違えではない。
僕は確かに見たんだ。
高校2年生。何の変哲もないごく普通の17歳。友達は今はいない。学校では大人しく、空気のように過ごしている。ひとりでいることには慣れたし、他人と一緒に過ごすことも僕にとっては苦痛だ。
華奢で運動も苦手、背も低くよく女の子に間違えられる。名前も尊と中性的であり、幼いときからよく男子にからかわれていた。
いつものように学校から帰る途中だった。雨が降っていた。4月の暖かい気温を一気に下げしてまうような雨。傘を指し細い路地裏を抜けて帰宅している途中だった。僕の前をスっと人影が通った。ただの通行人なら僕は気にも止めなかったさ。
同じ高校の制服、彼は傘も指さずに虚ろな目をして足早に通り過ぎて行った。よく見慣れた金髪が雨に濡れてくすんでいた。
「おーい。榊原。お前ほんとに女みたいでヒョロいよな~。」
彼との出会いはいつだっただろうか。物心つくまえから一緒にいたような気がする。
いつものようにからかわれていた僕を彼は漫画によくあるいじめっ子から守るヒーローのように助けてくれた。
「大丈夫?尊。」
主人公って彼のことを言うんだろうな。端正な顔立ちに明るい色の髪の毛。生まれつきらしい。
一ノ瀬蒼。誰にでも優しく同性だけでなく女子からの人気も高い。周りにたくさん人がいるのに彼は必ず僕の隣にいた。
「どうして僕と一緒にいてくれるの?」
「うーん。気になるから?かな。俺は尊が大好きだよ。」
不思議に思って問いかけると彼は決まってそう言った。幼少期に何かきっかけがあったのだろうか。僕にはさっぱり分からない。根暗で女の子みたいな僕をなぜ好いてくれるのだろうか。今でもその謎は解けていない。
1年前のあの日蒼は僕に何を伝えたかったのか。
考え込んでいるうちにどんどん遠くなってしまった。僕は急いで後を追う。
しばらく歩くと蒼は足を止め喫茶店のようなところに入っていった。こんな所にあったっけ?
Cafe LaMort 【ラモール】
古びた看板は微かに光を放っている。
ドアを押すとチリンチリンと軽い鈴の音が響いた。
「いらっしゃいませ。」
よく通る綺麗な声が耳を心地よく通過した。
顔を上げると息が詰まるような美しい人が僕に微笑んでいた。
サラサラと艶のある黒髪、目は透き通るような蜂蜜色。目、鼻、口全ての顔のパーツが芸術品のようだ。目元には泣きぼくろが添えられていた。
「珍しいお客さんだ。誰かを追って来てしまったのかな?」
店内を見回すと数人の客が静かにコーヒーを飲んでいた。ごく普通に見える店内だがどこか少し不思議な感じがする。
蒼は1番奥の席で俯いて座っていた。
「なるほど。彼を追ってきたんだね。少し話をしようか。」
僕の視線に気づいた店主であろう彼はカウンター席に案内してくれた。
「僕はこの店の店主九条。君は、、、尊くんだよね?」
「え、、、」
どこかで会ったのだろうか。全く身に覚えがない。
「ごめんね。彼からよく話を聞いていてね。そうなんじゃないかなって。」
どうやら蒼はここの常連らしい。でも不思議だ。
「九条、、、さんは気づいてないんですか?」
「気づいてるって?何を?」
「彼、蒼が
ーーーーーーもう死んでるって。」
九条さんはびっくりするどころか、笑顔になり僕に顔をずいっと近づけた。
「へぇ。動揺、してないんだね。君。」
長いまつ毛に縁取られた目がキュッと細くなり形のいい唇がことばを紡ぐ。
「とりあえず何か飲もうか。奢りだよ。」
僕は確かに見たんだ。
高校2年生。何の変哲もないごく普通の17歳。友達は今はいない。学校では大人しく、空気のように過ごしている。ひとりでいることには慣れたし、他人と一緒に過ごすことも僕にとっては苦痛だ。
華奢で運動も苦手、背も低くよく女の子に間違えられる。名前も尊と中性的であり、幼いときからよく男子にからかわれていた。
いつものように学校から帰る途中だった。雨が降っていた。4月の暖かい気温を一気に下げしてまうような雨。傘を指し細い路地裏を抜けて帰宅している途中だった。僕の前をスっと人影が通った。ただの通行人なら僕は気にも止めなかったさ。
同じ高校の制服、彼は傘も指さずに虚ろな目をして足早に通り過ぎて行った。よく見慣れた金髪が雨に濡れてくすんでいた。
「おーい。榊原。お前ほんとに女みたいでヒョロいよな~。」
彼との出会いはいつだっただろうか。物心つくまえから一緒にいたような気がする。
いつものようにからかわれていた僕を彼は漫画によくあるいじめっ子から守るヒーローのように助けてくれた。
「大丈夫?尊。」
主人公って彼のことを言うんだろうな。端正な顔立ちに明るい色の髪の毛。生まれつきらしい。
一ノ瀬蒼。誰にでも優しく同性だけでなく女子からの人気も高い。周りにたくさん人がいるのに彼は必ず僕の隣にいた。
「どうして僕と一緒にいてくれるの?」
「うーん。気になるから?かな。俺は尊が大好きだよ。」
不思議に思って問いかけると彼は決まってそう言った。幼少期に何かきっかけがあったのだろうか。僕にはさっぱり分からない。根暗で女の子みたいな僕をなぜ好いてくれるのだろうか。今でもその謎は解けていない。
1年前のあの日蒼は僕に何を伝えたかったのか。
考え込んでいるうちにどんどん遠くなってしまった。僕は急いで後を追う。
しばらく歩くと蒼は足を止め喫茶店のようなところに入っていった。こんな所にあったっけ?
Cafe LaMort 【ラモール】
古びた看板は微かに光を放っている。
ドアを押すとチリンチリンと軽い鈴の音が響いた。
「いらっしゃいませ。」
よく通る綺麗な声が耳を心地よく通過した。
顔を上げると息が詰まるような美しい人が僕に微笑んでいた。
サラサラと艶のある黒髪、目は透き通るような蜂蜜色。目、鼻、口全ての顔のパーツが芸術品のようだ。目元には泣きぼくろが添えられていた。
「珍しいお客さんだ。誰かを追って来てしまったのかな?」
店内を見回すと数人の客が静かにコーヒーを飲んでいた。ごく普通に見える店内だがどこか少し不思議な感じがする。
蒼は1番奥の席で俯いて座っていた。
「なるほど。彼を追ってきたんだね。少し話をしようか。」
僕の視線に気づいた店主であろう彼はカウンター席に案内してくれた。
「僕はこの店の店主九条。君は、、、尊くんだよね?」
「え、、、」
どこかで会ったのだろうか。全く身に覚えがない。
「ごめんね。彼からよく話を聞いていてね。そうなんじゃないかなって。」
どうやら蒼はここの常連らしい。でも不思議だ。
「九条、、、さんは気づいてないんですか?」
「気づいてるって?何を?」
「彼、蒼が
ーーーーーーもう死んでるって。」
九条さんはびっくりするどころか、笑顔になり僕に顔をずいっと近づけた。
「へぇ。動揺、してないんだね。君。」
長いまつ毛に縁取られた目がキュッと細くなり形のいい唇がことばを紡ぐ。
「とりあえず何か飲もうか。奢りだよ。」
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