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第1章:病弱青年とある女冒険者編
第11話:憩いのひととき
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「そろそろお昼だねー」
魔物との戦い三戦目を終え、しばらく採集ポイントを回っていた時、リズが言う。
太陽がちょうど西にさしかかったくらいにある。
「だな、腹は減ったけど飯なんて持ってきてないな。一度町に帰るか?」
「ふっふっふ、大丈夫だよ♪ あたしがご飯、作ってあげるから!」
俺が言葉に、胸を張ってリズが答える。
「俺も手伝おうか?」
「大丈夫だよ。ずっと戦ってくれてたから、あたしにおもてなしさせて?」
俺が提案するも、可愛く却下される。
やはり、彼女は尽くすタイプのようだ。
リズが手際よく魔法の袋から薪を取り出し、配置する。
そして、松ぼっくりのようなものに指先から出した炎で着火する。
見事な焚火の完成だ。
「手際が良いな」
「一年も一人で冒険してたら、このくらいはできるようになっちゃうよ」
俺の言葉に、微笑みながら答えるリズ。
次に、採集ポイントで集めていた山菜、小さな鍋と調味料が入った鞄を、魔法の袋から取り出す。
小川で汲んだ綺麗な水で山菜を茹でながら、調味料で味を調えている。
「これだけだと、ちょっと物足りないかな……。そうだ! よかったら、さっき獲った『角兎の肉』一つもらっていいかな?」
「ああ、構わないよ」
俺がリズに肉を渡すと、彼女が少し考える。
「うーん、兎の肉は脂少ないし、山菜スープと一緒に煮ても大丈夫だね……よし、もう一品作るか」
そう呟くと、手早く兎肉を部位ごとに切り分ける。
ロース肉は山菜スープに入れて、その他のモモ肉等は取り出したフライパンのような浅い鉄鍋で油と一緒に炒めていく。
茶色い調味料をそこに入れると、馴染みのある香りがふんわり香ってくる。
この匂いは、醤油だ。
この世界にも醤油があるみたいだ。
そして、香草を加えれば立派な料理になった。
「よし、でーきた!」
木皿に盛り付けられた『兎肉の山菜スープ』と『兎の焼き肉』。
「おお! 美味しそう!!」
思わず声に出てしまった。
宿の食事より見栄えが豪華だ。
まずは一口、山菜スープを飲んでみる。
あっさりとした味付けの中に、兎肉と山菜のコクが加わり、なんとも美味だ。
次は、兎肉の焼き肉を食べてみる。
こっちも美味しい、鶏肉のような食感と味だが、どこか野性味を感じる。
香草の香りがまた、旨味を引き立てている。
「すごいよ! リズ!! とっても美味しい!!」
「えへへ……よかったぁ!」
安心したように胸をなでおろすリズ。
「こんなこと言っちゃあアレだが、宿の食事よりもずっと美味しいな」
「この世界では、肉を使った料理はどうしてもある程度高くついちゃうからね。この辺くらい田舎の安宿ではなかなか使わないよ。獲物を狩る冒険者は食べる機会は多いけどね」
食べている俺を、幸せそうな顔で眺めながら食事を進めるリズ。
そのリズの顔を見つめながら、俺も食事を進める。
食べ終わると、二人で寄り添い合って座り、一休みする。
幸せだ。
「そうだ……あの、さ。俺たちって、もう付き合ってるってことでいいんだよな……?」
恋愛経験の無さを象徴しているようだが、うやむやにするのは良くないと思いリズに訊いてみる。
モテる男は、こういう確認はしないんだろうなとか思いながら。
リズはきょとんとした顔をした後、顔を赤らめ、俺の肩に頬ずりしてくる。
「あたしは、そう思ってるけど……?」
可愛い。幸せだ。
「ははは、こんな可愛い彼女を知っちゃったら、もう他の女の子にはいけないな……」
「え? どうして?」
喜ばれると思った言葉だったが、リズは本当に不思議そうに声を上げる。
「だって、浮気になっちゃうだろ?」
「ん? まあ、そうだけど……イイ男に女の子がたくさん付くのは普通のことじゃない?」
マジか……。
いやいや、そういえば、女神メルヴィーナも同じようなことを言っていた。
「リズは、俺がたくさんの女の子と遊んでも嫌じゃないのか?」
「んふふ、あたしがあんたの……ド・ウ・テ・イ、貰った第一彼女だもん♡ あたしのこともちゃんと可愛がってくれるなら気にしないよ♡」
腕を絡めて、ニンマリした笑顔で俺を見てくるリズ。
なるほど、この世界では浮気という概念はあるにはあるが、意味的にはすごく薄いようだ。
ならば、享受してしまおう。
やはり、郷に入りては郷に従えだ。
機会があれば他の女の子ともこんな風に甘い関係になれたらいいな。
「どしたの?」
きょとんとした顔で俺を見つめる美少女。
もちろん『機会があれば』で構わないが。
一通り休んだ後、午後の冒険者稼業に勤しむ。
その後、魔物と二回遭遇した。
スライム三匹のグループと、ビッグアント二匹のグループ。
どちらも剣と魔法を使い、簡単に屠れた。
「なんだか、この辺りの魔物は危険な感じも薄いし、簡単に倒せるな……昨日のゴブリンの方がよっぽど危ない感じはしたんだが……」
当然、体当たりされたり噛みつかれたりという攻撃をくらうこともあるが、痛いだけで命の危険を感じるほどではない。
単に、装備を固めた結果かもしれないが。
「ルクシア平原の魔物は危険度Eの初級冒険者向けだからね。冒険者になりたての人たちもこの辺りまで来て冒険を始めるらしいよ」
女神メルヴィーナはそのあたりも計算して、俺をここに転生させたのだろうか。
あの能天気な女神様がどこまで考えていたのかは知る由もないが。
「もっとも、夜になると出現する魔物も変わってくるから気をつけないといけないけどね。基本的に夜行性の魔物の方が強くて凶暴なんだよ」
そうだ、今上手くいっているからといって過信は良くない。
昼の魔物に勝てたからといって、夜の魔物に勝てるとは限らない。
リズと楽しむ時間も減ってしまう。
多少の煩悩をよぎらせながら、リズの言葉を胸に刻んだ。
「そろそろ帰ろっか」
いつも周回しているという採集ポイントの最後の地点を回り終え、空が赤くなり始めたころ、リズが言った。
「そうだな。ギルドで換金しないといけないし、このくらいで帰るか」
リズの話だと、夜遅くになると受付は閉まり、酒場だけの営業になるようだ。
緊急の窓口はあるものの、普通の換金は受け付けてくれないらしい。
俺たちは探索を切り上げて町に戻り、その足でギルドを訪ねたのだった。
魔物との戦い三戦目を終え、しばらく採集ポイントを回っていた時、リズが言う。
太陽がちょうど西にさしかかったくらいにある。
「だな、腹は減ったけど飯なんて持ってきてないな。一度町に帰るか?」
「ふっふっふ、大丈夫だよ♪ あたしがご飯、作ってあげるから!」
俺が言葉に、胸を張ってリズが答える。
「俺も手伝おうか?」
「大丈夫だよ。ずっと戦ってくれてたから、あたしにおもてなしさせて?」
俺が提案するも、可愛く却下される。
やはり、彼女は尽くすタイプのようだ。
リズが手際よく魔法の袋から薪を取り出し、配置する。
そして、松ぼっくりのようなものに指先から出した炎で着火する。
見事な焚火の完成だ。
「手際が良いな」
「一年も一人で冒険してたら、このくらいはできるようになっちゃうよ」
俺の言葉に、微笑みながら答えるリズ。
次に、採集ポイントで集めていた山菜、小さな鍋と調味料が入った鞄を、魔法の袋から取り出す。
小川で汲んだ綺麗な水で山菜を茹でながら、調味料で味を調えている。
「これだけだと、ちょっと物足りないかな……。そうだ! よかったら、さっき獲った『角兎の肉』一つもらっていいかな?」
「ああ、構わないよ」
俺がリズに肉を渡すと、彼女が少し考える。
「うーん、兎の肉は脂少ないし、山菜スープと一緒に煮ても大丈夫だね……よし、もう一品作るか」
そう呟くと、手早く兎肉を部位ごとに切り分ける。
ロース肉は山菜スープに入れて、その他のモモ肉等は取り出したフライパンのような浅い鉄鍋で油と一緒に炒めていく。
茶色い調味料をそこに入れると、馴染みのある香りがふんわり香ってくる。
この匂いは、醤油だ。
この世界にも醤油があるみたいだ。
そして、香草を加えれば立派な料理になった。
「よし、でーきた!」
木皿に盛り付けられた『兎肉の山菜スープ』と『兎の焼き肉』。
「おお! 美味しそう!!」
思わず声に出てしまった。
宿の食事より見栄えが豪華だ。
まずは一口、山菜スープを飲んでみる。
あっさりとした味付けの中に、兎肉と山菜のコクが加わり、なんとも美味だ。
次は、兎肉の焼き肉を食べてみる。
こっちも美味しい、鶏肉のような食感と味だが、どこか野性味を感じる。
香草の香りがまた、旨味を引き立てている。
「すごいよ! リズ!! とっても美味しい!!」
「えへへ……よかったぁ!」
安心したように胸をなでおろすリズ。
「こんなこと言っちゃあアレだが、宿の食事よりもずっと美味しいな」
「この世界では、肉を使った料理はどうしてもある程度高くついちゃうからね。この辺くらい田舎の安宿ではなかなか使わないよ。獲物を狩る冒険者は食べる機会は多いけどね」
食べている俺を、幸せそうな顔で眺めながら食事を進めるリズ。
そのリズの顔を見つめながら、俺も食事を進める。
食べ終わると、二人で寄り添い合って座り、一休みする。
幸せだ。
「そうだ……あの、さ。俺たちって、もう付き合ってるってことでいいんだよな……?」
恋愛経験の無さを象徴しているようだが、うやむやにするのは良くないと思いリズに訊いてみる。
モテる男は、こういう確認はしないんだろうなとか思いながら。
リズはきょとんとした顔をした後、顔を赤らめ、俺の肩に頬ずりしてくる。
「あたしは、そう思ってるけど……?」
可愛い。幸せだ。
「ははは、こんな可愛い彼女を知っちゃったら、もう他の女の子にはいけないな……」
「え? どうして?」
喜ばれると思った言葉だったが、リズは本当に不思議そうに声を上げる。
「だって、浮気になっちゃうだろ?」
「ん? まあ、そうだけど……イイ男に女の子がたくさん付くのは普通のことじゃない?」
マジか……。
いやいや、そういえば、女神メルヴィーナも同じようなことを言っていた。
「リズは、俺がたくさんの女の子と遊んでも嫌じゃないのか?」
「んふふ、あたしがあんたの……ド・ウ・テ・イ、貰った第一彼女だもん♡ あたしのこともちゃんと可愛がってくれるなら気にしないよ♡」
腕を絡めて、ニンマリした笑顔で俺を見てくるリズ。
なるほど、この世界では浮気という概念はあるにはあるが、意味的にはすごく薄いようだ。
ならば、享受してしまおう。
やはり、郷に入りては郷に従えだ。
機会があれば他の女の子ともこんな風に甘い関係になれたらいいな。
「どしたの?」
きょとんとした顔で俺を見つめる美少女。
もちろん『機会があれば』で構わないが。
一通り休んだ後、午後の冒険者稼業に勤しむ。
その後、魔物と二回遭遇した。
スライム三匹のグループと、ビッグアント二匹のグループ。
どちらも剣と魔法を使い、簡単に屠れた。
「なんだか、この辺りの魔物は危険な感じも薄いし、簡単に倒せるな……昨日のゴブリンの方がよっぽど危ない感じはしたんだが……」
当然、体当たりされたり噛みつかれたりという攻撃をくらうこともあるが、痛いだけで命の危険を感じるほどではない。
単に、装備を固めた結果かもしれないが。
「ルクシア平原の魔物は危険度Eの初級冒険者向けだからね。冒険者になりたての人たちもこの辺りまで来て冒険を始めるらしいよ」
女神メルヴィーナはそのあたりも計算して、俺をここに転生させたのだろうか。
あの能天気な女神様がどこまで考えていたのかは知る由もないが。
「もっとも、夜になると出現する魔物も変わってくるから気をつけないといけないけどね。基本的に夜行性の魔物の方が強くて凶暴なんだよ」
そうだ、今上手くいっているからといって過信は良くない。
昼の魔物に勝てたからといって、夜の魔物に勝てるとは限らない。
リズと楽しむ時間も減ってしまう。
多少の煩悩をよぎらせながら、リズの言葉を胸に刻んだ。
「そろそろ帰ろっか」
いつも周回しているという採集ポイントの最後の地点を回り終え、空が赤くなり始めたころ、リズが言った。
「そうだな。ギルドで換金しないといけないし、このくらいで帰るか」
リズの話だと、夜遅くになると受付は閉まり、酒場だけの営業になるようだ。
緊急の窓口はあるものの、普通の換金は受け付けてくれないらしい。
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