254 / 354
第9章:風神の谷と宿の看板娘編
第1話:頃合い
しおりを挟む
アイスウッドからエルゼリアに戻り、二週間後。
俺たちは、エルゼリア平原で戦いの感を取り戻すため、冒険者稼業に勤しんでいた。
「おらああああっ!!」
「はあああああっ!!」
新たな武具を得た、前衛の二人がとても元気に王蜥蜴を狩りまくっている。
丁度、キングリザードとヘルバウンドの挟撃に遭った俺たちは、前衛と後衛に分かれ、それぞれ対処しているところだ。
「フハハハハハハハハ! なんだ!? そのヘッポコ体当たりは!! 私の『ロータスメイル』は傷一つ付かんぞ!!」
「ヒャーハハハハハハ!! 新しい武器、最っ高だぜえええ!! あたしの『グランガントレッド』と『グラングリーブス』の威力をとくと味わええぇぇ!!」
ハイテンション状態で魔物をなぎ倒していくキアラとロウナ。
少々、元気すぎる気がする。
どちらが魔物か錯覚しそうになるな。うん。
「はっ……!! やっ……!! たっ……!!」
後ろでは、シレイドが素早い動きでヘルバウンドの喉笛を切り裂いている。
三体に囲まれていたが、あっという間に倒してしまった。
「ふっ……! 新しくなったシレイド……敵無し……」
新たな武器『ヘルシングダガー』をくるくると回して決めポーズをする。
ご満悦のようだ。
「ガウガウッ!!」
「よっと!」
ドゥン!!
「……ガァ!!」
リズがヘルバウンドの噛みつきを楽々躱して、その眉間に弾丸を撃ち込む。
「はぇー……この『ユグドラマント』すごいなぁ……体が綿みたいに軽いよ……」
彼女の動きに、彼女自身が一番驚いているようだ。
リズもすっかり頼もしい戦力になったな。
出会ったばかりの頃は、戦えない事をすごく悩んでいたが、今ではその影もない。
うんうん。本当に良かった。
「むっ……!?」
悦に浸っていたシレイドを、新たにヘルバウンド四体が取り囲む。
——その時。
「シレイドちゃん、危ない! はぁっ!! 『エルライトニング』!!」
セーラの新しい武器『エンジェルロッド』から光の矢が降り注ぎ、魔犬たちを貫く。
四体のヘルバウンドは、声も上げずに地に沈む。
そうして、ものの五分もかからぬ内に、魔物たちを掃討する。
「うむ。上々だな」
「ああ。かなり大群だったけど、全然苦戦しなかったな」
キアラとロウナが所感を述べる。
「いやー、大群で挟み撃ちされた時はちょっぴり焦ったけど、ちゃんと戦えたね♪」
「ん……シレイドたち……また、強くなった……!!」
「ええ。休み明けで心配してましたが、無用だったみたいですね」
リズたちも手応えを感じているようだ。
俺の方も、悪くない感覚だった。
新しい装備『ゼフィロスコート』は以前の『サンドボアコート』に比べて軽くて丈夫だ。
前より俊敏に動けている感じがするし、キングリザードの体当たりくらいじゃ痛くも痒くもない。
「これは、そろそろ『風神の谷』に挑戦しても良いかもしれないな」
「うん! そうだね!」
「ん……!!」
「ああ。私もレオと同意見だ」
「ふふふ、頑張りましょう」
「あー! 楽しみ過ぎて滾ってきたぜ!」
俺の提案に、五人も賛成の様子だ。
『風神の谷』はエルゼリアの西に位置する深い谷のダンジョンだ。
俺たちがこれまで攻略した『灼炎の祠』『海竜の洞窟』『マッサ鉱山』と並び、一流冒険者の登竜門『四属性ダンジョン』の一つとして数えられている。
難易度は、他の三つより少し上だという事で、最後に挑むに相応しいダンジョンだ。
「よし。じゃあ、明日から早速行ってみるか!」
「「「「「おー!!」」」」」
俺の言葉に、五人が元気よく返事をした。
その日の夜、俺は『バー・ラックステラ』を訪れていた。
「遂に、四属性ダンジョンの最後の一つ『風神の谷』に挑戦するんだねえ、ボウヤ。まさか、この短時間でここまで来れるとは、思ってなかったよ」
カウンター越しにジュリアさんがニンマリと笑っている。
「すごいねー♪ お兄さん♪ やっぱり、このボニーさんと付き合いたいから頑張っちゃったのかな?」
隣の席でからかうように俺に訊いてくるボニー。
「まあ、そうだな」
「きゃー♪ お兄さんとお付き合いする事、真剣に考えなきゃいけないなぁ……♪」
そう。ボニーからは恋人としてお付き合いすることに関して、明確な返事をまだ貰っていない。
接している限り、俺に好意を持ってくれているとは思うが、いつも肝心な部分ははぐらかされたり、おどけられたりして躱されている。
まあ、男女に限らず、人との付き合いは強制するものではない。
そんな事をしても、どこかで絶対にほころびが生じてしまうものだ。
ちぐはぐなまま、ダラダラと付き合うことほど、哀しいことはない。
俺からの告白はもう済ませた。
ならば、ボニーの出す答えを、真摯に待って受け入れるだけだ。
「『風神の谷』を踏破できたら、ちゃんと答えを聞かせてくれ」
俺は、まっすぐ彼女を見つめ、ニッコリと微笑んでやる。
「え……えっと……う、うん……」
誤魔化しは効かないと思ったのか、もじもじしながら言うボニー。
その様子を見て、俺はグラスに残ったアドベンチャーイヴをグッと飲み干す。
「さて、明日も早いし、今日はこのくらいにしておくよ。ご馳走様」
「ああ。またおいで」
お代をカウンターに残して去る俺に、ジュリアが短く返す。
ボニーは最後まで、困ったように顔を赤くして俯いたままだった。
俺たちは、エルゼリア平原で戦いの感を取り戻すため、冒険者稼業に勤しんでいた。
「おらああああっ!!」
「はあああああっ!!」
新たな武具を得た、前衛の二人がとても元気に王蜥蜴を狩りまくっている。
丁度、キングリザードとヘルバウンドの挟撃に遭った俺たちは、前衛と後衛に分かれ、それぞれ対処しているところだ。
「フハハハハハハハハ! なんだ!? そのヘッポコ体当たりは!! 私の『ロータスメイル』は傷一つ付かんぞ!!」
「ヒャーハハハハハハ!! 新しい武器、最っ高だぜえええ!! あたしの『グランガントレッド』と『グラングリーブス』の威力をとくと味わええぇぇ!!」
ハイテンション状態で魔物をなぎ倒していくキアラとロウナ。
少々、元気すぎる気がする。
どちらが魔物か錯覚しそうになるな。うん。
「はっ……!! やっ……!! たっ……!!」
後ろでは、シレイドが素早い動きでヘルバウンドの喉笛を切り裂いている。
三体に囲まれていたが、あっという間に倒してしまった。
「ふっ……! 新しくなったシレイド……敵無し……」
新たな武器『ヘルシングダガー』をくるくると回して決めポーズをする。
ご満悦のようだ。
「ガウガウッ!!」
「よっと!」
ドゥン!!
「……ガァ!!」
リズがヘルバウンドの噛みつきを楽々躱して、その眉間に弾丸を撃ち込む。
「はぇー……この『ユグドラマント』すごいなぁ……体が綿みたいに軽いよ……」
彼女の動きに、彼女自身が一番驚いているようだ。
リズもすっかり頼もしい戦力になったな。
出会ったばかりの頃は、戦えない事をすごく悩んでいたが、今ではその影もない。
うんうん。本当に良かった。
「むっ……!?」
悦に浸っていたシレイドを、新たにヘルバウンド四体が取り囲む。
——その時。
「シレイドちゃん、危ない! はぁっ!! 『エルライトニング』!!」
セーラの新しい武器『エンジェルロッド』から光の矢が降り注ぎ、魔犬たちを貫く。
四体のヘルバウンドは、声も上げずに地に沈む。
そうして、ものの五分もかからぬ内に、魔物たちを掃討する。
「うむ。上々だな」
「ああ。かなり大群だったけど、全然苦戦しなかったな」
キアラとロウナが所感を述べる。
「いやー、大群で挟み撃ちされた時はちょっぴり焦ったけど、ちゃんと戦えたね♪」
「ん……シレイドたち……また、強くなった……!!」
「ええ。休み明けで心配してましたが、無用だったみたいですね」
リズたちも手応えを感じているようだ。
俺の方も、悪くない感覚だった。
新しい装備『ゼフィロスコート』は以前の『サンドボアコート』に比べて軽くて丈夫だ。
前より俊敏に動けている感じがするし、キングリザードの体当たりくらいじゃ痛くも痒くもない。
「これは、そろそろ『風神の谷』に挑戦しても良いかもしれないな」
「うん! そうだね!」
「ん……!!」
「ああ。私もレオと同意見だ」
「ふふふ、頑張りましょう」
「あー! 楽しみ過ぎて滾ってきたぜ!」
俺の提案に、五人も賛成の様子だ。
『風神の谷』はエルゼリアの西に位置する深い谷のダンジョンだ。
俺たちがこれまで攻略した『灼炎の祠』『海竜の洞窟』『マッサ鉱山』と並び、一流冒険者の登竜門『四属性ダンジョン』の一つとして数えられている。
難易度は、他の三つより少し上だという事で、最後に挑むに相応しいダンジョンだ。
「よし。じゃあ、明日から早速行ってみるか!」
「「「「「おー!!」」」」」
俺の言葉に、五人が元気よく返事をした。
その日の夜、俺は『バー・ラックステラ』を訪れていた。
「遂に、四属性ダンジョンの最後の一つ『風神の谷』に挑戦するんだねえ、ボウヤ。まさか、この短時間でここまで来れるとは、思ってなかったよ」
カウンター越しにジュリアさんがニンマリと笑っている。
「すごいねー♪ お兄さん♪ やっぱり、このボニーさんと付き合いたいから頑張っちゃったのかな?」
隣の席でからかうように俺に訊いてくるボニー。
「まあ、そうだな」
「きゃー♪ お兄さんとお付き合いする事、真剣に考えなきゃいけないなぁ……♪」
そう。ボニーからは恋人としてお付き合いすることに関して、明確な返事をまだ貰っていない。
接している限り、俺に好意を持ってくれているとは思うが、いつも肝心な部分ははぐらかされたり、おどけられたりして躱されている。
まあ、男女に限らず、人との付き合いは強制するものではない。
そんな事をしても、どこかで絶対にほころびが生じてしまうものだ。
ちぐはぐなまま、ダラダラと付き合うことほど、哀しいことはない。
俺からの告白はもう済ませた。
ならば、ボニーの出す答えを、真摯に待って受け入れるだけだ。
「『風神の谷』を踏破できたら、ちゃんと答えを聞かせてくれ」
俺は、まっすぐ彼女を見つめ、ニッコリと微笑んでやる。
「え……えっと……う、うん……」
誤魔化しは効かないと思ったのか、もじもじしながら言うボニー。
その様子を見て、俺はグラスに残ったアドベンチャーイヴをグッと飲み干す。
「さて、明日も早いし、今日はこのくらいにしておくよ。ご馳走様」
「ああ。またおいで」
お代をカウンターに残して去る俺に、ジュリアが短く返す。
ボニーは最後まで、困ったように顔を赤くして俯いたままだった。
177
あなたにおすすめの小説
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる