スキル「共感覚」のおかげで最強の魔法使いになったので魔人を集めて魔王になることにしました 〜最恐魔王の手さぐり建国ライフ!〜

熊乃げん骨

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第三章 開戦

第1話 円卓会議

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 魔王城上層階には使用人ですら立ち入りが制限されているフロアが多数存在する。
 魔王の自室や王の間がそれに該当し、幹部や一部の使用人のみが立ち入る事を許されている。
 そして現在ジークと幹部が勢揃いしているこのフロア「円卓の間」もそれに該当する。
 ゆとりある空間の中央に巨大な円卓が置かれたこのフロアは主に幹部同士の会議を目的として作られており、部屋中の気温や湿度は快適な会議を行えるように常に最適なものに保たれている。

「さて、まずは皆の活躍を労わせてくれ。よくやってくれた」

 俺の言葉に幹部一同は座ったまま右手を心臓のある位置に当て頭を下げる。
 一糸乱れぬ動きだがよく見れば口元がニヤケている者もいる。

「おかげで街に被害を出さず侵入者を捕らえる事に成功した。これ以上ない成果と言えよう」

 建国宣言から間も無くして魔王国は複数の組織に攻撃を受けた。
 しかし幹部達の活躍により侵入者は全て撃破。確保されたのだった。

「さて、シェンよ。報告を頼む」
「かしこまりました」

 俺のの呼びかけに応えシェンが立ち上がる。
 彼の手には数枚の資料が握られており、それと同じ物が幹部全員の目の前に置かれている。

「皆さんの目の前の資料に書いてある通り今回の襲撃者達は1つの組織ではなく様々な組織から送られて来ています」

 資料には複数の組織名が書かれている。
 魔法使いの界隈では有名な組織から全く知られていない組織まで様々だ。

「ほほう、この組織まで絡んどるとはの。余程切羽詰まっとるようじゃ」
「あーしでも聞いた事のない名前があるっすね。新しくできたトコか、はたまた……」

「さて、そろそろ本題に入るぞ」

 資料に目を通し口々に喋る幹部たちを俺は『パン!』と手を叩き中断させる。

「ここに書いてある組織にはいずれ必ず報いを受けさせる。だが今はそれよりも面白い議題があるんだ。シェン」
「はい」

 俺に促されシェンは再び喋り始める。

「実は先ほど魔王国にある組織から取引がしたいと持ちかけられました」
「ふむ、魔王国初の外交という事であるな」

「その通りだ虎鉄よ。我が国最初の外交、失敗するわけにはいかぬ。この外交の結果は世界に知られるだろう、無様な結果は許されぬ」

 もし相手の組織にいいように使われてしまえば世界中から魔王国は舐められてしまう。そうすれば入国者も減り、他国に攻撃される回数も増えるだろう。
 未だ資源に余裕があるとは言えない魔王国にとってそれは避けたい事態だ。

「ここが正念場。世界に見せつけてやろうではないか、我らの力を」
『はい!』


 さて、どうなるかね。



 ◇


「変わられましたね」
「ん?」

 幹部が退室した円卓の間で俺が一息ついているとマーレが俺によく冷えた水を差しだしながら話しかけてくる。
 ちなみにこの水、空気のように澄みながらも飲んだ時に生命量のみなぎるような感覚を与えてくれる不思議な水だ。
 マーレが俺にだけくれる物で一回「他の者にも与えたらどうだ?」と言ったところ顔を赤らめながら「貴重な物なので……」と断られたことがある。いったいドコで調達してるんだ?

「俺のどこが変わったんだ?」
「最初は演技で堂々と振舞われてましたが……今は演技ではなく素で振舞われてることも多くなられました」
「……それはボロが出てるという事か?」

「違います。演技しなくても支配者の振る舞いが出来てきているのです」
「!!」

 確かに最近無理してる感は減ってきている。
 思い当たる節は……ある。

「最近自分が自分でなくなっていく感覚があるんだ」
「……」

 俺の話をマーレは黙って聞いてくれる。
 俺の事情を知り、理解してくれるのも彼女一人。二人きりになると弱音を吐くこともよくある。

「おそらく大勢の魔人と近くで暮らしているからだろう、彼らの思考を取り込み過ぎた。彼らの理想とする支配者像が頭に入り過ぎたんだろうな、その通りに振舞えるようになってしまったよ」

 共感覚シナスタジアは個人で扱うには強力すぎる力だ。
 普段は封印しておくべきだがそうも言ってられない魔道具作成の時や強い魔法を行使するときは共感覚シナスタジアを発動してないお成功率がグンと下がる。

 最近は頭痛になれるため寝る時以外はほとんどサングラスをしていない。

「だからといって今更引く気はない。目的を達成できるなら俺の元々の自我など安いものだ」
「大丈夫です」

 自嘲する俺の手を優しくマーレが握る。

「わたくしが忘れません。そうすれば昔のあなたはわたくしの中に残ります」
「そうか……」

 誰よりも俺の近くにいる彼女の中に昔の俺がいれば、いつでもそれを感じ取れるはずだ。

「ありがとう。お前には助けられてばかりだな」
「いいんですよ。あなたの助けになる、それこそがわたくしの至上の喜びなのですから」

「マーレ……」
「ふふ……」

 感謝の心で満たされていた俺は、彼女のたたえる歪な笑みに気づくことはなかった……



 ◇


「くく、とんだ悪女じゃの」
「テレサ……見ていたのですか」

 円卓の間を退室したマーレを出迎えたのは壁にもたれかかり意味深な笑みを浮かべたテレサだった。

「安心せい、何を喋ってたのかまでは聞こえ取らんわ」
「そうですか……何を疑っているかは知りませんがお疲れのジーク様を労わっていただけです。他意はないですよ」

 朗らかな笑みでそう答えるマーレ。
 男なら誰でもコロッと落とされるであろう破壊力だ。

 しかし、相手は歴戦の魔女。
 そんなものは通用しない。

「くくっ、ほざきおるわ。献身的に振舞って内心どんなことを考えておるのやら、想像するだけで恐ろしいわ」

 表情を変えないマーレにテレサは背を向け、そのまま歩き出す。

「覚えておれ、あの方に不利益だと判断すれば仲間でもわらわは容赦せぬ」

「ふふ、覚えておきます♪」

 そう返すマーレの顔は張り付けたような笑みをたたえるのだった――――
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