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第五章 氷獄に吠ゆ
第12話 正義の味方
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「お前たちが殺しただって……!?」
「そうさ」
喉が渇き視界が揺らぐ。
地面に立っている感覚がなくなり、まるで夢でも見ているようだ。
「でもしょうがなかったんだヴォルク。俺だって本当はそんなことしたくなかったんだぜ?」
声が遠くに聞こえ、入ってくる声が脳にまで届かない。
まるで脳が言葉を理解するのを拒否してるみたいだ。
「だってあいつらは俺たちの手下ならまだしも対等な仲間にしろって言うもんだからよ!! 身の程をしれってんだよ!」
俺の仲間たちは揃ってギャハハと笑う。
何が、何がそんなに可笑しいってんだ。
「何で……何でそんなことが出来んだよ!! みんなで馬鹿して笑いあった日々は嘘だったってのかよ!?」
「別に嘘ってわけじゃねえよ、あの時はあの時で楽しかったさ。ま、今ほどじゃねえけどな」
俺の叫びは、思いは、どうやら伝わらないみたいだ。
こいつらの言う仲間ってのはどうやら利害の一致でしか測れないらしい。役に立たなかったらそれまで。それじゃ俺たちの嫌いだった狡猾な大人たちと同じじゃねえかよ。
「でもよ、お前は特別だヴォルク。頼むからまた昔みたいに力を貸してくれないか?」
こいつはそう言って手を俺に差し出してくる。
普通に考えたら振り払うべきだ。そんなことは分かっている。
分かっている。
だけど。
その手に、どうしようもなく縋り付きたくなってしまう。
あの頃に、楽しかったあの頃に戻れるならばそれもいいんじゃないかと思えてしまう。
「戦わなくてもいいんだ、お前には世話になったから恩返しをさせてくれよ」
「恩返し……?」
「ああ。圧倒的な力を持ったお前が仲間だったおかげでたくさんいい思いが出来たからな!」
いい思いだって?
いったいどういうことだ?
俺の知らない所でなにをやっていたんだ?
「なんたって町の奴らはヴォルクの仲間ってだけで何しても文句言わねえからなあ! おかげで金も女も困んなくて本当にいい思いが出来たってもんだ!」
「な……!?」
嘘だろ?
俺はそんなの知らねえぞ?
一般人には手を出さないのが俺たちのやり方じゃなかったのか?
しかし仲間たちは口々にあの時はよかったと犯罪自慢をし出す。
その内容は俺も知っている事件が多く、当時はこんなことする奴は許せねえと思ったもんだ。
その犯人が、まさか身内だったとは……
「は、はは……」
思わず笑っちまう。
だって俺が唯一信頼していた、「仲間」と「正義」はまやかしだったんだからな。
「仲間」はただの利害関係でしかなく、簡単に裏切り命を奪える程度の絆だった。
「正義」の味方のつもりでやっていた喧嘩も自己満足でしかなく、挙句仲間が裏で俺の名前を使って犯罪行為をする始末。
救えねえ。
俺って奴は本当に救えねえよ。
「くそ……」
頭が悪いなりに上手くやってるつもりだった。
頭が悪くても信頼できる仲間を集めれば大きなことが出来ると思っていた。
それがこのザマだ。
上手く使われてたのは俺の方だったてわけだ。
「で、どうすんだヴォルク? 俺たちとまた暴れてくれるか?」
「……」
考えた末に俺がだした結論は「沈黙」だった。
もう何も考えたくない。
どうせ俺が何したってどうせ全部裏目に出るだけだ。
だったら、もう何もせずにいさせてくれ……
「はあ……分かったよヴォルク。残念だぜ」
俺の態度に業を煮やした仲間たちが俺に向けて魔法を練り始める。
手加減など感じない本気の魔力。どうやら本気で殺すつもりみたいだな。
だけどそれでいい。
もうこれ以上俺は大切な、大切だったモノを失いたくない。
だからいっそお前たちの手で……
「馬鹿な奴だよお前は。本気で正義の味方にでもなれると思っていたのか?」
そういえば酒の席で俺はよく言っていたな。
「いつかデカいことをしてみせる!」
「すげえ奴になってみせる!」
「俺たちならアニメに出てくるヒーローにだってなれる!」
くく、本当に幼稚な思考だ。
あの時の俺にこの状況を見せてやりたいよ。
「しょせん俺たちはただのチンピラ! 何にもなれねえんだよ!!」
そして一斉に俺めがけ魔法が放たれる。
火に氷に風と多種多様な魔法がありったけの殺意をその身に宿し俺の命を食いつくさんと迫り来る。
悔しい。
こんな自体を招いた己の不甲斐なさが。
憎い。
何でも出来ると信じていた自分が。
悲しい。
本当に俺は……
「俺は何にもなれねえのかな?」
迫り来るしを前にして、俺は思わずそんなことを呟いた。
誰も答えてくれる人がいないのに。
「正義の味方にはなれねえのかな!?」
「なれるさ」
「!!」
放たれた魔法が俺に触れるかと思われた瞬間、一人の黒い服に包まれた仮面の男が俺の目の前に現れる。
そしてその男が腕を魔法へ向けると、驚くことに全ての魔法がまるで煙のようにかき消えてしまった。
「へ……?」
「なれるさ」
どうやらさっきの俺の呟きを聞かれたらしい。男は俺の目をじっとみながら同じセリフを口にする。
「強い意志と力、君からはそれを感じる。それさえあれば人は何にだってなれる」
「で、でもよ俺は失敗しちまったんだ。俺には出来なかったんだ……」
俺は初対面の人間に何を話しているのだろうか。
得体の知らない人物に話すようなことじゃないだろう。
だけどこの男には思わず何でも話せてしまう、そんな包容力があった。
「それは仲間に恵まれなかっただけだ。私ならお前をそんな風にはしない、私ならお前を望むモノにしてやろう」
「そんなことが……」
俺と謎の男がそんな話をしていると置いてけぼりにされた仲間たちが叫び出す。
「ごちゃごちゃうるせえな!! 急に出てきてなんなんだてめえは!!」
そう叫びながら再び打ち出される魔法の数々。
いずれも先ほどのものより魔力が込められており、当たれば必殺の威力を持つであろう魔法だ。
しかし、男はそちらに目を移そうともしない。
そして魔法は男に当たる直前で再び霧散する。まるで糸を解くかのようにするすると消える様は見てて綺麗なくらいだ。
「どうする? ここ死ぬか。それとも私に付いてくるか選べ」
「ひ、ひとつ教えてくれないか? あんたは一体何が目的なんだ?」
俺の問いに男は真剣な顔で答える。
「私は全世界の魔人を救うために動いている。そして君にはそれを手伝って欲しい」
それはまるでアニメの主人公のようなセリフだった。
でもその言葉には俺と違い確かな重み、そして覚悟が感じ取れた。
俺は理解した。
この人が、この人こそが主人公なんだ。
「あんた……いや、あなたは何にだってなれるって言ったよな?」
「ああ」
「じゃあ俺もなれるかな? 誰かを助けられる正義の味方に?」
声がかすれ、涙が溢れる。
いつ以来だろうかこんなに感情をむき出しにしたのは。
俺はみっともなさなど気にせずに男へ泣きつく。
子供の頃親へそう出来なかったのを取り戻すかのように。
そんなみっともない俺を男は抱き寄せ、言い聞かせるように答えてくれる。
「ああ、なれるさ。失う辛さを知ったお前なら何にだってなれる」
男がそう言って差し伸べた手に俺が掴まるのに、迷いはなかった。
◇
これが俺と大将の出会いだ。
そのあと俺の元仲間をぶっ飛ばしたり色々あったがつまんねえ話なんで省略する。
大事なのは今だ。
この狼野郎の目はあの時の俺の裏切られた目、孤独な目をしてやがる。
俺の前でそんな目をするのは許せねえ。
あの時大将が言ってくれた言葉を嘘にしねえためにも俺はその目を見過ごすわけにはいかねえ。
それに裏切られる辛さは、悲しみは、知ってるから。
「ぜってえ救う……!」
俺は取り出したメダルの形をした魔道具を天に掲げ発動する。
それは大将より貰ったとっておきの秘密兵器。余程のことがなけりゃ使っちゃいけないと言われたが今がその時だろう。
「照らせ!! 氷獄を照らす月!!」
魔道具が発動した瞬間世界が青色に染まる。
昼なのにあたりは薄暗く変わり、空には巨大な月が現れる。
「なんだこれは……!」
へへ、驚いてやがるぜ。
だけどこれの真の力はこれからだ。
「ウオオオオオオオオオオォン!!」
遠吠えとともに俺の体が変形を始める。
腕は大木のように太くなり、逆に足は引き締まり細くなる。
分厚くなった体の背面からは青く透き通った水晶のようなものが生え、月の光を受けて妖しく煌めく。
「なんだ……なんだその姿は!」
それは狼と呼ぶにはあまりに恐ろしく、おぞましい姿。
一見すると人狼のようだが、その体長は5mを軽く超える大きさだ。
この姿を見られたら恐らく人間からは化け物だと言われるだろう。
だけどそれがどうした。
今の俺には本当に信頼できる「正義」と「仲間」がある。
だから戦える。
だから、救える。
「いくぜ、お前を倒してやるよ!!」
「そうさ」
喉が渇き視界が揺らぐ。
地面に立っている感覚がなくなり、まるで夢でも見ているようだ。
「でもしょうがなかったんだヴォルク。俺だって本当はそんなことしたくなかったんだぜ?」
声が遠くに聞こえ、入ってくる声が脳にまで届かない。
まるで脳が言葉を理解するのを拒否してるみたいだ。
「だってあいつらは俺たちの手下ならまだしも対等な仲間にしろって言うもんだからよ!! 身の程をしれってんだよ!」
俺の仲間たちは揃ってギャハハと笑う。
何が、何がそんなに可笑しいってんだ。
「何で……何でそんなことが出来んだよ!! みんなで馬鹿して笑いあった日々は嘘だったってのかよ!?」
「別に嘘ってわけじゃねえよ、あの時はあの時で楽しかったさ。ま、今ほどじゃねえけどな」
俺の叫びは、思いは、どうやら伝わらないみたいだ。
こいつらの言う仲間ってのはどうやら利害の一致でしか測れないらしい。役に立たなかったらそれまで。それじゃ俺たちの嫌いだった狡猾な大人たちと同じじゃねえかよ。
「でもよ、お前は特別だヴォルク。頼むからまた昔みたいに力を貸してくれないか?」
こいつはそう言って手を俺に差し出してくる。
普通に考えたら振り払うべきだ。そんなことは分かっている。
分かっている。
だけど。
その手に、どうしようもなく縋り付きたくなってしまう。
あの頃に、楽しかったあの頃に戻れるならばそれもいいんじゃないかと思えてしまう。
「戦わなくてもいいんだ、お前には世話になったから恩返しをさせてくれよ」
「恩返し……?」
「ああ。圧倒的な力を持ったお前が仲間だったおかげでたくさんいい思いが出来たからな!」
いい思いだって?
いったいどういうことだ?
俺の知らない所でなにをやっていたんだ?
「なんたって町の奴らはヴォルクの仲間ってだけで何しても文句言わねえからなあ! おかげで金も女も困んなくて本当にいい思いが出来たってもんだ!」
「な……!?」
嘘だろ?
俺はそんなの知らねえぞ?
一般人には手を出さないのが俺たちのやり方じゃなかったのか?
しかし仲間たちは口々にあの時はよかったと犯罪自慢をし出す。
その内容は俺も知っている事件が多く、当時はこんなことする奴は許せねえと思ったもんだ。
その犯人が、まさか身内だったとは……
「は、はは……」
思わず笑っちまう。
だって俺が唯一信頼していた、「仲間」と「正義」はまやかしだったんだからな。
「仲間」はただの利害関係でしかなく、簡単に裏切り命を奪える程度の絆だった。
「正義」の味方のつもりでやっていた喧嘩も自己満足でしかなく、挙句仲間が裏で俺の名前を使って犯罪行為をする始末。
救えねえ。
俺って奴は本当に救えねえよ。
「くそ……」
頭が悪いなりに上手くやってるつもりだった。
頭が悪くても信頼できる仲間を集めれば大きなことが出来ると思っていた。
それがこのザマだ。
上手く使われてたのは俺の方だったてわけだ。
「で、どうすんだヴォルク? 俺たちとまた暴れてくれるか?」
「……」
考えた末に俺がだした結論は「沈黙」だった。
もう何も考えたくない。
どうせ俺が何したってどうせ全部裏目に出るだけだ。
だったら、もう何もせずにいさせてくれ……
「はあ……分かったよヴォルク。残念だぜ」
俺の態度に業を煮やした仲間たちが俺に向けて魔法を練り始める。
手加減など感じない本気の魔力。どうやら本気で殺すつもりみたいだな。
だけどそれでいい。
もうこれ以上俺は大切な、大切だったモノを失いたくない。
だからいっそお前たちの手で……
「馬鹿な奴だよお前は。本気で正義の味方にでもなれると思っていたのか?」
そういえば酒の席で俺はよく言っていたな。
「いつかデカいことをしてみせる!」
「すげえ奴になってみせる!」
「俺たちならアニメに出てくるヒーローにだってなれる!」
くく、本当に幼稚な思考だ。
あの時の俺にこの状況を見せてやりたいよ。
「しょせん俺たちはただのチンピラ! 何にもなれねえんだよ!!」
そして一斉に俺めがけ魔法が放たれる。
火に氷に風と多種多様な魔法がありったけの殺意をその身に宿し俺の命を食いつくさんと迫り来る。
悔しい。
こんな自体を招いた己の不甲斐なさが。
憎い。
何でも出来ると信じていた自分が。
悲しい。
本当に俺は……
「俺は何にもなれねえのかな?」
迫り来るしを前にして、俺は思わずそんなことを呟いた。
誰も答えてくれる人がいないのに。
「正義の味方にはなれねえのかな!?」
「なれるさ」
「!!」
放たれた魔法が俺に触れるかと思われた瞬間、一人の黒い服に包まれた仮面の男が俺の目の前に現れる。
そしてその男が腕を魔法へ向けると、驚くことに全ての魔法がまるで煙のようにかき消えてしまった。
「へ……?」
「なれるさ」
どうやらさっきの俺の呟きを聞かれたらしい。男は俺の目をじっとみながら同じセリフを口にする。
「強い意志と力、君からはそれを感じる。それさえあれば人は何にだってなれる」
「で、でもよ俺は失敗しちまったんだ。俺には出来なかったんだ……」
俺は初対面の人間に何を話しているのだろうか。
得体の知らない人物に話すようなことじゃないだろう。
だけどこの男には思わず何でも話せてしまう、そんな包容力があった。
「それは仲間に恵まれなかっただけだ。私ならお前をそんな風にはしない、私ならお前を望むモノにしてやろう」
「そんなことが……」
俺と謎の男がそんな話をしていると置いてけぼりにされた仲間たちが叫び出す。
「ごちゃごちゃうるせえな!! 急に出てきてなんなんだてめえは!!」
そう叫びながら再び打ち出される魔法の数々。
いずれも先ほどのものより魔力が込められており、当たれば必殺の威力を持つであろう魔法だ。
しかし、男はそちらに目を移そうともしない。
そして魔法は男に当たる直前で再び霧散する。まるで糸を解くかのようにするすると消える様は見てて綺麗なくらいだ。
「どうする? ここ死ぬか。それとも私に付いてくるか選べ」
「ひ、ひとつ教えてくれないか? あんたは一体何が目的なんだ?」
俺の問いに男は真剣な顔で答える。
「私は全世界の魔人を救うために動いている。そして君にはそれを手伝って欲しい」
それはまるでアニメの主人公のようなセリフだった。
でもその言葉には俺と違い確かな重み、そして覚悟が感じ取れた。
俺は理解した。
この人が、この人こそが主人公なんだ。
「あんた……いや、あなたは何にだってなれるって言ったよな?」
「ああ」
「じゃあ俺もなれるかな? 誰かを助けられる正義の味方に?」
声がかすれ、涙が溢れる。
いつ以来だろうかこんなに感情をむき出しにしたのは。
俺はみっともなさなど気にせずに男へ泣きつく。
子供の頃親へそう出来なかったのを取り戻すかのように。
そんなみっともない俺を男は抱き寄せ、言い聞かせるように答えてくれる。
「ああ、なれるさ。失う辛さを知ったお前なら何にだってなれる」
男がそう言って差し伸べた手に俺が掴まるのに、迷いはなかった。
◇
これが俺と大将の出会いだ。
そのあと俺の元仲間をぶっ飛ばしたり色々あったがつまんねえ話なんで省略する。
大事なのは今だ。
この狼野郎の目はあの時の俺の裏切られた目、孤独な目をしてやがる。
俺の前でそんな目をするのは許せねえ。
あの時大将が言ってくれた言葉を嘘にしねえためにも俺はその目を見過ごすわけにはいかねえ。
それに裏切られる辛さは、悲しみは、知ってるから。
「ぜってえ救う……!」
俺は取り出したメダルの形をした魔道具を天に掲げ発動する。
それは大将より貰ったとっておきの秘密兵器。余程のことがなけりゃ使っちゃいけないと言われたが今がその時だろう。
「照らせ!! 氷獄を照らす月!!」
魔道具が発動した瞬間世界が青色に染まる。
昼なのにあたりは薄暗く変わり、空には巨大な月が現れる。
「なんだこれは……!」
へへ、驚いてやがるぜ。
だけどこれの真の力はこれからだ。
「ウオオオオオオオオオオォン!!」
遠吠えとともに俺の体が変形を始める。
腕は大木のように太くなり、逆に足は引き締まり細くなる。
分厚くなった体の背面からは青く透き通った水晶のようなものが生え、月の光を受けて妖しく煌めく。
「なんだ……なんだその姿は!」
それは狼と呼ぶにはあまりに恐ろしく、おぞましい姿。
一見すると人狼のようだが、その体長は5mを軽く超える大きさだ。
この姿を見られたら恐らく人間からは化け物だと言われるだろう。
だけどそれがどうした。
今の俺には本当に信頼できる「正義」と「仲間」がある。
だから戦える。
だから、救える。
「いくぜ、お前を倒してやるよ!!」
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まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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